ビートたけしのギャグと、イザナミの呪詛

９条アンチのお題目、「9条はテロには対応不可」
・・・コレを崩すのは、3つの切り口がある。

その１。
そもそも、その「対応不可」の意味がなんなのか、という話をしなくてはならないでしょうね。
「対応できない！」という人の言わんとする「対応」とは？
そして、その「対応」とやらができているところが他にあるのか、9条の無い国なら対応ができているのか、と世界を見回すと、
どうも「対応」がキチンとできている国は無いはずなんです。
となると、9条アンチの言う「9条が対応の邪魔」というのも、詭弁、飛躍の類であるというコトは、自明なわけです。

その２。
さて、ビートたけしの往年のギャグだったと思うのですが、
「手を挙げて、横断歩道で死んでいた」という、交通標語のパロディがありました。
このギャグは、「道路交通安全をこっちが守っていても、クルマが向こうから突っ込んで来たらどうしようもねぇじゃねえか」という事で成立するギャグ。
つまり、「道交法や交通安全精神は、交通事故や危険運転から人を守らない」のです。
「9条はテロに対応不可」と言うのは、
「道交法では交通事故や危険運転に対応不可」というようなものです。
・・・
では、道交法は、不要か、無用の長物か。
そんなことを現代日本で言うヒトがいたら、アホウでしょう。
道交法は、確かに、危険運転から人を守らない。しかし、同時に、確かに人を守っているのも事実でしょう。
コレはパラドックスでもジレンマでもなく、視点や志の位置・高さで、真実は異なる、というコトです。
いくら道交法を守ったところで、とち狂った車が突っ込んできた時に、「ボクは交通安全を守ってます」と頑張ってみたところで、その車を止めることはできない。
けれど、「ボクが交通安全を守る」ことが、現代社会から危険運転のリスクを確実に減らしている、多くのヒトが危険運転から道交法によって守られているのです。
道交法を無くしますか？無くしませんね？
9条も同じことです。

その３。
日本神話、古事記には、イザナギとイザナミという男女の神が登場します。
この二人は、黄泉の国で決定的な破局を迎えます。
このとき、黄泉比良坂で進路を阻まれたイザナミは、千曳の岩ごしに、イザナギに向かって次のような呪詛を投げつけます。
「イザナギよ、ワタシは、これから毎日１０００人の命を奪うであろう」
以来、人は、毎日１０００人、死ぬことになったというコトです。

これは、イザナミによる、死による恫喝、恐怖による支配、つまり、テロの宣言です。

・・・このとき、地上をすべる神、呪詛の受け手であるイザナギはどうしたか。
イザナミを倒して滅ぼしてしまえば、この呪詛を防げるでしょう。
でも、そうはしなかった、というか、そんなことは不可能だった。

だから、イザナミの呪詛には、このように応えた。
「ならばイザナミよ、ワタシはこれから、毎日１５００の命を生み出すであろう。」

イザナギは、イザナミを滅ぼそうとも、打倒しようともしなかった。イザナミによる死の蔓延を撲滅しようとしなかった。

では、イザナギは、イザナミに屈したと言えるでしょうか？
いいえ、イザナギは、イザナミとは違う道を行く、イザナミには屈しない、と宣言し、イザナミを克服したのです。

イザナギは、イザナミの呪詛･テロにより奪われる１０００の命を守ることはできなかった。
けれど、１５００の命を送り出すことで、地上の命を守ったのです。

中村哲医師がアフガンでやってきたことは、まさに、この、イザナギの行いなのです。
そして、それは、９条がその精神を裏付けています。
中村哲医師は、アフガンに蔓延る死を治療する医者でした。
それは、アフガンの暴力をそれ以上の暴力で鎮圧するという暴力の連鎖ではなく、
アフガンの人々の為に井戸を掘り、雇用を創出することで、人々をテロの支配に加担することから遠ざけていったのです。

あくまで命の側に立つ、
それが、イザナギの精神であり、９条の理念であり、そして、中村哲医師によるアフガニスタンの治療法だったのです。

９条は、無力ではありませんし、ましてや、邪魔ではないのです。

たしかに、目前に迫る暴力による死を直接的に防ぐことはできません。
でも、理念というのは、そういうものなのです。
では、理念は無力か？
いいえ、むしろ、理念が無いほうが、よほど破滅的でしょう。
まして、理念を「ジャマモノ」呼ばわりした、その先に、はたして、どのような花を咲かせる事ができようか。

「理念ではテロに対抗できない」？
ノン！
まさに、その理念による対応が、中村哲の行動であった。

そもそも、その理念を廃して、どうして、中村哲は井戸を掘り続ける事ができるだろうか？

■「中村さん狙う襲撃計画ある」地元政府、本人に事前伝達
(朝日新聞デジタル - 12月07日 18:41)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=5893432