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2020年12月20日08:30

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皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。[読書日記809]

題名:皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。
著者:原 武史(はら・たけし)三浦 しをん(みうら・しをん)
出版:KADOKAWA
価格:1,500円+税(2019年2月 初版発行)
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10月に読んだ『地形の思想史』の著者:原武史さんと、作家:三浦しをんさんの対談(+遠足)本です。

「まえがき」で三浦しをんさんが、相方の原武史さんを観察した結果を次のように述べていて傑作です。
“あるとき、会議中に原さんが猛然としゃべりだした。とある鉄道の本につ
 いて、(略)熱く熱く語っているのである。「いや、そんな細かい部分、
 ここにいるだれもわからんがな」と呆気に取られつつ、私は深く納得した。
 なーんだ、ただのオタクだ!(略)
 そこからなにがどうなって対談をすることになったのか、いまいち記憶が
 定かではないのだが、小説や天皇制や鉄道について、二人で好きなように
 しゃべったのが本書だ。天皇制にも鉄道にも私はまるで詳しくないのだけ
 れど、原さんはいつも興味を持てるように話してくださった。なので私と
 同様、門外漢のかたにも、肩肘張らずにお読みいただける内容になったの
 ではないかと思う”(7p)

目次は次のとおりです。

 まえがき 三浦しをん
 第一回対談 通学の沿線風景―女官の世界―『源氏物語』は不敬か
 第二回対談 「生前退位」のご意向―女系天皇と「国体」―天皇の代替わり
 第三回対談 「おことば」の衝撃―蕎麦屋にふらっと入る自由―三島由紀夫、幻の計画
 第四回遠足 コンパートメント車両―鬼怒川温泉―東武ワールドスクウェア
 第五回対談 「作詞:昭和天皇」―宮内庁詰めになる―平成の終わりに
 おわりに 原武史

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印象に残った文章を引用します。

【第一回対談 通学の沿線風景―女官の世界―『源氏物語』は不敬か】から、皇族の南北朝問題について。
原  それまでは教科書でも並列表記だった(天皇家の)南北朝のとらえ方
   が、明治末に急に問題となって、明治天皇の勅裁で南朝正統としてし
   まった。
   しかし天皇家自体は北朝の系統です。こういった問題は今に至っても
   解決されていません。(28p)

【第二回対談 「生前退位」のご意向―女系天皇と「国体」―天皇の代替わり】から、男系天皇にこだわる愚かしさについて。
原  少なくとも今の安倍自民党政権は、過去に例のある女性天皇はともか
   く、女性皇族と一般男子の子である女系天皇は考えていないでしょう。
   「日本会議」の考え方では「万世一系」の皇統を連綿と受け継ぐ男系
   天皇は、日本の「国体」そのものだというのですから。
三浦 男系天皇にこだわっていたら、彼らが言うところの「国体」そのもの
   がなくなってしまうんじゃないですか?(69p)

【第三回対談 「おことば」の衝撃―蕎麦屋にふらっと入る自由―三島由紀夫、幻の計画】から、終戦後の昭和天皇の巡幸(全国行脚)を国民が熱狂的に歓迎したという話。
原  昭和天皇は(終戦後の)1946(昭和21)年から巡幸を再開しています。
   47年には一番盛んに巡幸が行われましたが、天皇は行く先々でまるで
   に勝ったかのような熱狂的奉迎を受け、奉迎場も再開します。(略)
三浦 臣民の心は、一夜にして変わりはしなかったということでしょうか。
  (略)
原  自分たちも苦しい、しかし天皇も今が一番苦しい。「終戦の詔書」
   でも「五代為に裂く」と言っている。内臓が引き裂かれる思いが
   すると言っているわけです。そんなときに励ましに来てくれた。共
   感共苦の精神で感極まってしまう。(105P)

【第四回遠足 コンパートメント車両―鬼怒川温泉―東武ワールドスクウェア】から、東武ワールドスクウェア:アジアゾーンでの会話。
原  アジアゾーンで見るべきものは、明清代の皇帝が「郊祀」(こうし)
   と呼ばれる天を祭る儀礼を行った巨大施設「天壇」です。(略)
三浦 ぐうぅ、こんなにたくさん、すごいミニチュアがあるのに、原さんの
   ご興味はやはり祭祀とかに集中していたか……!(155p)

【第五回対談 「作詞:昭和天皇」―宮内庁詰めになる―平成の終わりに】から、日露戦争時に明治天皇は数多くの和歌を詠んでいたという話。
原  祈りという点では、明治は大きな転換点で、このときに大部分の宮中
   祭祀が作られました。当然明治天皇は、これまで存在しなかった儀式
   とわかって臨んでいたので、祈りの力は信じておらず、日露戦争でも
   ほとんど祈ってなどいないんです。
   日露戦争は大変な戦争だったけれども、明治天皇は皇居の奥で一日
   平均何十首も和歌を詠んでいました。ツイッターみたいなものです。
三浦 ツイッター! 一日に何十首って、つぶやき多いですよ! 暇だった
   のかな……(199p)

「まえがき」で三浦しをんさんが“本書の読みどころのひとつは確実に、「原さんの鉄道オタぶりと天皇家オタぶりが常軌を逸している」という点だと思う”(9p)と書かれていますが、まったくそのとおりの楽しい内容でした。

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原 武史(はら・たけし)
1962年、東京生まれ。政治学者、鉄学者。
東京大学大学院博士課程中退。
98年『「民都」大阪対「帝都」東京』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書、のち朝日文庫)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社、のち講談社文庫)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。
他著書に『皇后考』『日本政治思想』など。
現在、放送大学教授、明治学院大学名誉教授。

三浦 しをん
1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で小説家としてデビュー。以後、『月魚』『ロマンス小説の七日間』『秘密の花園』などの小説を発表。
『悶絶スパイラル』『あやつられ文楽鑑賞』『本屋さんで待ちあわせ』など、エッセイ集も注目を集める。
06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞、15年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。
著書に『むかしのはなし』『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』『木暮荘物語』『ののはな通信』『愛なき世界』など。

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