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2020年11月15日15:15

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幸福な監視国家・中国[読書日記804]

題名:幸福な監視国家・中国
著者:梶谷 懐(かじたに・かい)、高口 康太(たかぐち・こうた)
出版:NHK出版新書
価格:850円+税(2019年8月 第1刷発行)
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マイミクさんの読書日記で知った本です。
経済学者:梶谷懐氏と、ジャーナリスト:高口康太氏、二人の共同著作です。

表紙裏の惹句を紹介します。
“習近平体制下で、人々が政府・大企業へと個人情報・行動記録を自ら提供
 するなど、AI・アルゴリズムを用いた統治が進む「幸福な監視国家」への
 道をひた走っているかに見える中国。
 セサミ・クレジットから新疆ウイグル問題まで、果たしていま何が起きて
 いるのか!?
 気鋭の経済学者とジャーナリストが多角的に掘り下げる!”

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目次は次のとおりです。

 はじめに
 第1章 中国はユートピアか、ディストピアか
 第2章 中国IT企業はいかにデータを支配したか
 第3章 中国に出現した「お行儀のいい社会」
 第4章 民主化の熱はなぜ消えたのか
 第5章 現代中国における「公」と「私」
 第6章 幸福な監視国家のゆくえ
 第7章 道具的合理性が暴走するとき
 おわりに

【はじめに】から本書の目的を抜き書きします。
“つまるところ、現実社会でもインターネット上でもすべてが政府に筒抜けなのですが、驚くべきは中国人のほとんどがそれに不満を抱いていないどころか現状を肯定的に見ているということです。
 それは中国人がプライバシーに無頓着だから、専制政治によって洗脳されているから……という単純な理由からではありません。
 本書は、この「幸福な監視社会」の謎を解き明かすことを課題としています”(4p)

各章から印象に残った文章を4つ引用しましょう。

【第1章 中国はユートピアか、ディストピアか】《テクノロジーへの信頼と「多幸感」》から、中国市民はテクノロジーへの信頼感が高いという話。
“米国の調査会社エデルマンが27か国の約3万3000人を対象に、1人あたり30分のオンライン調査を実施してまとめたレポート「トラストバロメーター」の2019年版によると、「テクノロジーを信頼するかどうか」という質問に対して、「信頼する」と答えた人の割合は、中国では91%に達し、調査対象国のうち1位でした。
 ちなみに日本では「信頼する」と回答した人の割合は66%で、ロシアと並んで最下位でした”(22p)

【第2章 中国IT企業はいかにデータを支配したか】《なぜ喜んでデータを差し出すのか》から、「信用スコア」の話。
“シェアサイクルなどのサービスの利用履歴も、企業に渡すことがメリットになるケースがあります。
 自転車を借りてちゃんと返した、しかも交通の邪魔にならないような置き方をしたという記録が残されれば、それは利用者を評価する履歴となります。
 日本ではDVDを借りて期限通りに返却したとしても特にメリットはありませんが、中国では借りて返したという履歴を企業に引き渡すことで、自らを優良ユーザーとして証明することができるわけです”(56p)

【第3章 中国に出現した「お行儀のいい社会」】《監視カメラと香港デモ》から、香港のデモに参加した若者の「デジタル断ち」について。
“(2019年6月の香港デモでは)デモに参加する際にはスマートフォンの位置情報をオフにしたり、SNSのメッセージをこまめに削除したり、さらに地下鉄に乗る際にも記録が残るプリペイドカードではなく、現金で切符を買ったりするなど、「記録が残る」テクノロジーをあえて使わない「デジタル断ち」と呼ばれる行動が目立ちました”(70p)

【第4章 民主化の熱はなぜ消えたのか】《検閲の存在を気づかせない「不可視化」》から、書き込み削除以上に巧妙な不可視化について。
“(ツイートの削除という目に見える方法と違って)書き込んだ本人にすら検閲の存在を気づかせないのが「不可視の削除」です。
 書き込んだ本人からは通常の投稿と何一つ変わらないのですが、閲覧者には表示されないシステムになっています。
 ほかにも「リツイートができない」「検索で表示されない」「ハイライトに掲載されない」といったバリエーションもあります”(131p)

本書は基本的に中国社会の高度テクノロジー化に好意的ですが、第7章だけは違います。
【第7章 道具的合理性が暴走するとき】《新疆ウイグル自治区と再教育キャンプ》から、その弾圧の例を引用します。
“その(権力者が監視するという視点で)代表的なものが、少数民族に対する共産党の統治のあり方です。
 中でも深刻な状況にあるのが、新疆ウイグル自治区の各地に建設された、大規模な「再教育キャンプ」と呼ばれる収容施設が、お世界的な関心を集めていることはご存知の方も多いのではないでしょうか”(210p)
“2018年11月、アムネスティ・インターナショナル日本などの主催で、カザフ国籍を持ち、カザフスタンで旅行会社を経営していたウイグル人、オムル・ベカリ氏の講演が東京と大阪で開催されました。
 筆者も大阪の講演会に参加し、オムル氏の語る収容施設における凄惨な体験、特に民族としてのアイデンティティを否定され、中国共産党と習近平国家主席への忠誠の言葉を毎日繰り返させられる、という証言に言葉を失いました”(217p)

中国が電子大国に変貌しつつあることは、なんとなく知っていましたが、想像以上の国になっているようです。
中国で猛進するデジタル化が、同じ儒教思想の影響下にある日本にどう影響するのか。
アナログ人間の私は、ちょっと怖い気持ちです。

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梶谷 懐(かじたに・かい)
1970年、大阪府生まれ。神戸大学大学院経済学研究科教授。
神戸大学経済学部卒業後、中国人民大学に留学(財政金融学院)、2001年神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学)。
神戸学院大学経済学部准教授などを経て、2014年より現職。
著書に『「壁と卵」の現代中国論』(人文書院)、『現代中国の財政金融システム』( 名古屋大学出版会、大平正芳記念賞)、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』(太田出版)、『中国経済講義』(中公新書)など。

高口 康太(たかぐち・こうた)
1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。
中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊東洋経済』『Wedge』
『ニューズウィーク日本版』『NewsPicks』などのメディアに寄稿している。
ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)など。

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