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2020年06月28日16:34

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世界史のミカタ[読書日記784]

題名:世界史のミカタ
著者:井上 章一(いのうえ・しょういち)、佐藤 賢一(さとう・けんいち)
出版:祥伝社新書
価格:880円+税(2019年11月 初版第2刷発行)
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タイトルに惹かれて手に取りました。
「はじめに」に佐藤賢一さんが
“早めに白状すれば、これという腹案を用意して、対談に臨んだわけではない。ただ西洋史のミカタはするまい、とだけは決めた”
と書かれており、この文に惹かれて読み始めました。

表紙裏の惹句を引用します。

“これまでにない世界史――。その突破口は、中央アジアに蟠踞(ばんきょ)した
 遊牧民への視座である。いわく「西のローマ帝国、東の漢帝国を崩壊させる決定
 的な原動力になったのは、遊牧民たちの動き」であり、「中世には、どちらでも
 擬似古代国家が再建された」。この見方は、教科書はもちろん、大きな地域史と
 も言える東洋史、西洋史にはできない。
 以下、古代から現代までを通観。立ち現われたのは、まったく新しい「世界史の
 ミカタ」である。これこそ、複雑な現代世界を読み解く武器となる。碩学で知ら
 れる、両著者自身が知的興奮を味わった、白熱対談へようこそ!”

目次は次のとおりです。

 第1章 神話の共通性
 第2章 世界史を変えた遊牧民
 第3章 宗教誕生と、イスラム世界の増殖
 第4章 中華帝国の本質
 第5章 ヨーロッパの二段階拡大
 第6章 明治維新とフランス革命の類似性
 第7章 システムとしての帝国主義
 第8章 第一次世界大戦のインパクト
 第9章 今も残るファシズムの亡霊
 第10章 社会主義は敗北したか
 第11章 国民国家の次に来るもの

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各章から印象に残った文章を紹介しましょう。

【第1章 神話の共通性】から、近代まではイスラムの方が先進国だったという話。
“佐藤 (ヨーロッパ人は)十九世紀の産業革命以後、自分たちの力が強くなって
    イスラムが衰退したところから過去を見るので、近代ヨーロッパの人たち
    はイスラムが先進国であり、ヨーロッパはイスラムからいろいろなことを
    学んだ事実を長く認めませんでした”(30p)

【第2章 世界史を変えた遊牧民】から、中国:漢王朝も初期は匈奴に朝貢していたという話。
“井上 中国大陸の各王朝が周辺諸国から朝貢を受けたのが、中華世界であると、
   私たちは理解していますが、初期の漢は事実上、匈奴に朝貢していました。
   王族を人質として差し出し、王昭君(おう・しょうくん)のような美女を
   与え、貢物を届けて、侵攻を思いとどまらせていたのです”(49p)

【第3章 宗教誕生と、イスラム世界の増殖】から、キリスト教の変容について。
“佐藤 キリスト教にはもともと天国と地獄しかなかったのですが、中世になると
   地獄ほどひどくない煉獄という新しい概念が出てきます。教会に寄進して
   くれたら、煉獄で止まると説きました。
井上 いかにもマーケット・リサーチの結果を活かした企画やね(笑)”(66p)

同じく【第3章 宗教誕生と、イスラム世界の増殖】から、正しい世界史のミカタについて。
“佐藤 私も含め日本人の多くが、ヨーロッパ史観――ヨーロッパはずっと強かっ
   た――に毒されています。しかし、ヨーロッパは古代・中世を通じてイス
   ラムより劣勢であり、自信喪失の状態に追い込まれました。その後、徐々
   に自信を回復していったというのが、正しい世界史のミカタです”(83p)

【第4章 中華帝国の本質】から、遣唐使はイケメンぞろいだったという話。
“井上 当時(702年の遣唐使派遣の頃)、日本は「倭国」と表記されていました。
   ちっぽけな国、みみっちい国という意味です。ところが、則天武后の頃
   から、中国は「日本」という国名を使い始めた。ひょっとしたら、(遣唐
   使の一員でイケメンの)粟田真人(あわたの・まひと)と女帝の間に
   「陛下、われわれを『倭』と呼ぶのはおやめくださいませんか」
   「そうね。あなたを見ているとちっぽけとは思えないものね」
   などというやりとりがあったかもしれない(笑)”(115p)

【第5章 ヨーロッパの二段階拡大】から、フランスの産業革命と日本の明治維新は、それほどタイムラグがなかったという話。
“井上 フランスで産業革命が進行したのは、明治維新で大久保利通らが取り組ん
   だ殖産興業とそれほどタイムラグがない時期ですね。その意味で、日本は
   とても遅れた状態から開国に踏み切ったと言いすぎないほうがいいですね。
佐藤 だから、日本はいい時に開国したのです。ヨーロッパが苦労の末に到達し
   た産業や技術をそっくりもらったわけですから”(147p)

【第7章 システムとしての帝国主義】から、日露戦争はイギリスがしかけたのではないかという話。
“井上 日露戦争(1904〜1905年)には、イギリスがしかけたという気配もただよい
   ます。
   イギリスは(略)南アフリカ戦争(ボーア戦争)で、戦力としてインド兵
   まで動員したため、インドが手薄になった。そこにロシア帝国が侵攻しか
   ねないという危惧も抱きます。ここで浮上したのが、大日本帝国の傭兵化
   という案です。ロシアを東西から挟む日英同盟で、ロシアの目をインドに
   向けさせないようにしたのではないか”(189p)

【第9章 今も残るファシズムの亡霊】から、イタリアには現在もムッソリーニが残した遺産があるという話。
“佐藤 今のローマ大学もファシストが作ったものですし、ローマの南東にある
   映画撮影所、チネチッタもムッソリーニが建設させたものです。ちなみ
   にチネチッタとは、イタリア語のcinema(映画)とcittà(都市)を合わ
   せた造語です。「映画の都」ですね。ここで撮影されたものに『ローマ
   の休日』『甘い生活』などがあります”(228p)

【第10章 社会主義は敗北したか】から、「物事は一〇〇年で歴史になる」という話。
“佐藤 2018年、第一次大戦終結一〇〇周年を迎えました。物事は一〇〇年で歴史
   になると言われています。なぜ一〇〇年かと言えば、その当時生きていた
   人たちがだいたい亡くなるので、歴史として客観視せざるをえなくなるの
   です。
井上 でも、たとえば山口県で講演する時、「吉田松陰」と呼び捨てにしたら、
   それだけでブーイングが起きるという現実もあります。「松陰先生と呼
   べ」というわけですから、まだ歴史になってへんわ”(267p)

硬軟取り混ぜた、お二人の対談を堪能した一冊でした。

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井上 章一(いのうえ・しょういち)
国際日本文化研究センター教授。
1955年京都府生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修士課程修了。
京都大学人文科学研究所助手を経て現職。専門は建築史、意匠論。
『つくられた桂離宮神話』でサントリー学芸賞、『南蛮幻想』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。著書に『京都ぎらい』など。

佐藤 賢一(さとう・けんいち)
小説家。
1968年山形県生まれ。山形大学教育学部卒業、東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。
1993年「ジャガーになった男」で第6回小説すばる新人賞、1999年『王妃の離婚』で第121回直木賞、2014年『小説フランス革命』
で第68回毎日出版文化賞特別賞を受賞。著書に『ナポレオン1〜3』など。

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