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2020年06月21日11:22

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モンテレッツジォ小さな村の旅する本屋の物語[読書日記783]

題名:モンテレッツジォ小さな村の旅する本屋の物語
著者:内田 洋子(うちだ・ようこ)
出版:方丈社
価格:1800円+税(2018年7月 第1版第4刷発行)
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マイミクさんお薦めのノンフィクションです。

話は仕事の拠点をミラノからヴェネツィアに移した著者が、古本屋の主人の出自がモンテレッツジォ村だったことに興味を持ったことから始まります。
モンテレッツジォ村は、イタリア北部の山奥にある人口32人(2017年現在)の廃村寸前の村(181p)だそうです。
そんな村から、なぜ本屋が発生したのか、著者が興味を持ったのも当然でしょう。

目次を紹介しましょう。
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 はじめに
 1 それはヴェネツィアの古書店から始まった
 2 海の神、山の神
 3 ここはいったいどこなのだ
 4 石の声
 5 貧しさのおかげ
 6 行け、我が想いへ
 7 中世は輝いていたのか!
 8 ゆっくり急げ
 9 夏のない年
 10 ナポレオンと密売人
 11 新世界に旧世界を伝えて
 12 ヴェネツィアの行商人たち
 13 五人組が時代を開く
 14 町と本と露店商賞と
 15 ページに挟まれた物語
 16 窓の向こうに
 あとがきに代えて 本が生まれた村

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各章の中から、印象に残った文章を4つ引用します。

1.【3 ここはいったいどこなのだ】から、イタリアの文学賞の発祥地がモンテレッツジォだという話。
“この〈露店商賞〉とは、イタリアの最も由緒ある文学賞のひとつである。(略)
 毎年よく売れた本に対して与えられる賞のはず、本選びの指標となる重要な賞だ。その賞のことがなぜ、この山奥の一本道に看板になってポツンと立っているのか。
 「〈露店商賞〉の発祥地が、ここなもので」
 ジャコモは飄々と続ける。
 「全国の本屋がそれぞれ一推しの本を挙げ、最終候補六作品から受賞作一作品が選ばれる。それが〈露店商賞〉です」”(66p)

2.【5 貧しさのおかげ】から、モンテレッツジォの村人がなぜ本を売るようになったのかという話。
“(モンテレッツジォの村人は)毎年春になると唯一の産物である石と栗を集め、背負って山を越え谷を越えフランスやスペインまで足を延ばした。
 往路の荷である石を売りきると、空っぽの籠のまま帰るのはもったいない、と道中で本を預かり受けて籠に詰めなおし、売り歩きながら帰路を辿ったという”(106p)

3.【7 中世は輝いていたのか!】から『神曲』を書いたダンテについて。
“さて、ダンテ・アリギエーリ。
 1265年、フィレンツェ共和国の小貴族の一家に生まれる。家業は金融業だったが、ダンテは早くから政界で頭角を顕し、大使の任を経て最高の地位、共和国議長に就任する。
 (略)
 ダンテはあらぬ収賄容疑を掛けられ、罰金の支払いを命じられる。
 ダンテ「濡れ衣だ!」
 黒 派「払わないのなら、罪人だ」
 こうしてダンテは罪人としてフィレンツェから永久追放される。家も焼かれてしまう。1302年のことである。
 (略)
 憤怒と絶望のうちに、ダンテは単身、北イタリアへ向けて放浪の旅に出た。金がない。家がない。仲間がいない。
 しかし、知性があった。各地の皇帝派の貴族領主たちから招かれ、知識と強要で返礼しながら放浪暮らしを続けた”(143〜146pから抜粋)

4.【8 ゆっくり急げ】からグーテンベルク印刷の特徴を逆にしたイタリア出版人(アマド・マヌツィオ)の工夫について。
“大きい。分厚い。重い。華麗な装飾。高価。限られた人たち向けの内容。
 こうしたグーテンベルク印刷の特徴をすべて逆にした本を、アマド・マヌツィオは作ったのである。つまり、小さく、薄く、軽く、簡素な装丁にし価格を下げ、当時の人気書体を調査して流行写本家を雇い、美しいオリジナル書体を創り出した。
 出版社ブランドの始まりであり、著作権もここから生まれていく”(166p)

最後に【13 五人組が時代を開く】から、モンテレッツジォ村出身の本書店主の人柄に触れた一文を引用します。
“意見を他人に押し付けないないが、新しい情報には常に聞き耳を立てている。問われるまで、黙っている。分を弁えている。
 信念を揺るがすことはないが、機敏に行動する。自分だけが頼りだ。いつも飄々としている。本にも客たちにも、信頼の置ける友人なのだ”(259p)
人間として、こうありたいと思います。

内田洋子さんの本は初めて読みましたが、取材に裏付けられた重厚さと奥行きを感じる文章でした。

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内田 洋子(うちだ・ようこ)
1959年神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。通信社ウーノ・アソシエイツ代表。
2011年『ジーノの家 イタリア10景』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『ミラノの太陽、シチリアの月』(小学館文庫)、
『イタリアの引き出し』(CCCメディアハウス)、
『カテリーナの旅支度 イタリア 二十の追想』(集英社文庫)、
『皿の中にイタリア』(講談社文庫)、
『どうしようもないのに、好き イタリア 15の恋愛物語』(集英社文庫)、
『イタリアのしっぽ』(集英社)、
『イタリアからイタリアへ』(朝日新聞出版)、
『ロベルトからの手紙』(文藝春秋)、
『ボローニャの吐息』(小学館)、
『十二章のイタリア』(東京創元社)、
『対岸のヴェネツィア』(集英社)。
翻訳書に『陽気に でもほどほどに』(カルロ・マリア・アポッラ著、時事通信社)、
『イタリアを食べる』(ステファニア・ジャンノッティ著、PHP研究所)、
『パパの電話を待ちながら』(ジャンニ・ロダーリ著、講談社文庫)などがある。

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