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2020年05月31日13:53

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感染症の世界史[読書日記780]

題名:感染症の世界史
著者:石 弘之(いし・ひろゆき)
出版:角川文庫
価格:1080円+税(令和2年2月 4版発行)
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マイミクさんが読まれていた本です。
どの本屋さんでも目立つところに置かれていたので、目にした方もあると思います。

著者は国連関係の機関に勤めた経験もあり、世界の様々な土地で感染病を目撃したそうです。著者が経験が語っている2つを引用します。

【第九章 エイズ感染は一〇〇年前から】のアフリカで目撃したエイズの悲惨さについて。
“著者は1980年代半ばにケニアに駐在していたために、アフリカ大陸でエイズが文字どおり感染爆発を起こすのを目の当たりにした。勤務先の国連機関でも、ひとりまたひとりと現地職員の姿がオフィスから消えていき、エイズの話で持ちきりだった。
 病院はたちまち満員になって、廊下や通路まで患者があふれ出した。霊安室は死体を収容しきれず、病院の空き地に遺体が積み上げられてあたりは腐敗臭が漂っていた”(237p)

【あとがき――病気の環境史への挑戦】から、著者の感染症歴について。
“人間ドックで健診前の書類に(略)
 「マラリア四回、コレラ、デング熱、アメーバ赤痢、リーシマニア症、ダニ発疹熱各一回、原因不明の高熱と下痢数回……」
 と記入して提出したら、
 「忙しいんですからふざけないでください」
 と、また叱られた。
 ふざけたわけではなく、アフリカ、アマゾン、ボルネオ島などで長く働いていたので、注意はしていたつもりでも様々な熱帯病の洗礼を受けた”(359p)

少し長いのですが、目次を紹介します。
大きく三部構成で、全部が十三章から成り立っています。
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 まえがき
 序 章  エボラ出血熱とデング熱――突発的流行の衝撃
 第一部 二十万年の地球環境史と感染症
  第一章 人類と病気の果てしない軍拡競争史
  第二章 環境変化が招いた感染症
  第三章 人類の移動と病気の拡散

 第二部 人類と共存するウィルスと細菌
  第四章 ピロリ菌は敵か味方か――胃がんの原因をめぐって
  第五章 寄生虫が人を操る?――猫とトキソプラズマ原虫
  第六章 性交渉とウイルスの関係――セックスががんの原因になる?
  第七章 八種類あるヘルペスウィルス
  第八章 世界で増殖するインフルエンザ
  第九章 エイズ感染は一〇〇年前から

 第三部 日本列島史と感染症の現状
  第十章  ハシカを侮る後進国・日本
  第十一章 風疹の流行を止められない日本
  第十二章 縄文人が持ち込んだ成人T細胞白血病
  第十三章 弥生人が持ち込んだ結核
  終 章  今後、感染症との激戦が予想される地域は?
 あとがき――病気の環境史への挑戦

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印象に残った(恐かった)文章を4つ引用します。

【第三章 人類の移動と病気の拡散】から、ペストがヨーロッパの歴史に影響を与えた話。
“(西暦一三〇〇年代のペストによる)人口の急減から多くの農村が無人になり、荘園領主と農民の力関係が逆転した。年貢を納めていた農民が逆に賃金をもらって農耕することが一般的になり、中世社会が崩壊する原動力になった。
 また、無力なキリスト教会に対する不信が芽生え、ヤン・フスやマルティン・ルターの宗教改革へつながっていく”(103p)

【第五章 寄生虫が人を操る?――猫とトキソプラズマ原虫】から、猫の寄生虫の話。
“もしも、あなたが猫から寄生虫をうつされると――
 ・交通事故に遭いやすくなるかもしれない
 ・異性に急にもてるようになるかもしれない
 ・犯罪の道に走るかもしれない 自殺したくなるかもしれない
 いずれも、猫の寄生虫「」に感染した人を襲うかもしれない異変だ。この原虫に感染すると、脳が占拠されてマインド・コントロールされることがわかってきた”(141p)

【第七章 八種類あるヘルペスウィルス】から、日本がワクチン行政の後進国であるという話。
“水痘ワクチンはもともと、世界に先駆けて1949年に高橋理明(たかはし・みちあき)・大阪大学名誉教授によって開発された。世界保健機構(WHO)が認める唯一の水痘ワクチンであり、高い安全性から世界中で毎年一〇〇〇万人以上に接種されている。
 その日本は「ワクチン行政の後進国」というレッテルをはられて、国際的にも批判されている”(195p)

【第八章 世界で増殖するインフルエンザ】の《大戦終結を早めたインフルエンザ》から。
“(第一次世界大戦の)中立国のスペインでは、五〜六月に約八〇〇万人が感染し、国王をはじめ閣僚も倒れて政府だけでなく国の機能もマヒした。
 大戦中は多くの国が情報を統制していたが、中立国だったスペインだけは統制がなく流行が大きく報じられた。このために「スペインかぜ」とよばれることになった。スペイン政府はこの名称に抗議したが、あとの祭りだった”(214p)

最後に【第十二章 縄文人が持ち込んだ成人T細胞白血病】から、女優の夏目雅子さんや浅野史郎前宮城県知事が罹った「成人T細胞白血病」についての記述を引用します。

“T細胞白血病ウィルスの場合は、感染しても発症する確率は二〇〜二五人に一人。潜伏期間が数十年かかることも珍しくなく、発症年齢の平均は六一歳だ。
 五〇歳以上生きる人の少なかった時代には、患者はかぎられていた。(略)
“エイズと比べてとかく軽視されがちだ。エイズの発症者と感染者は累積で約二万人。報告されていない感染者は多く見積もっても総数で五万人ぐらいだろう。
 一方、T細胞白血病ウィルスの感染者は一〇〇万人を超えるから、エイズの二〇倍も多いことになる”(299p)

裏表紙の惹句には“感染症を環境史の視点から探る”とありますが、それだけではなく、世界各地で感染症の現場を見てきた著者だからこそ書けた力作だと思いました。

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石 弘之(いし ひろゆき、1940年5月28日 - )
1940年、東京都生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞社に入社。ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。
国連環境計画上級顧問、東京大学・北海道大学大学院教授、ザンビア特命全権大使などを歴任。この間、国際協力機構参与、東欧環境センター常任理事などを兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞を受賞。
主な著書に『地球環境報告』(岩波新書)、『名作の中の環境史』(岩波書店)、『私の地球遍歴』(講談社)、『鉄条網の歴史』(洋泉社)など多数。

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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年06月01日 07:44
    日本において百年に一度のパンデミックを、この歳になって経験するとは
    思ってもみませんでした。昭和時代は、感染症より、核戦争の危機意識の
    方が高かったのですが、感染症は改めて、人類の試練だと感じた次第です。
    こんな時だからこそ、本書は、身に沁みましたです。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年06月01日 22:00
    ヤマヤマさま
    いつも、コメントありがとうございます。
    本書によれば、世界中で八千万人が亡くなった「スペインかぜ」の流行が1918年ですから、まさしく百年に一度ですね。幸い、まだ私は発症していませんが、健康な保菌者かもしれず、老齢の両親にも3月から会えない状況です。本当に本書は身に沁みました。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年06月04日 21:56
    じぇし子ねぇゃさま
    コメントありがとうございます。
    「麻疹の患者の服を与えた、あたり」ということは、第三章のアメリカ先住民に対して欧米人が仕掛けた細菌戦の話でしょうか。この事実は知っていましたが、改めて、その非人道的な罠に愕然としますね。

mixiユーザー

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