mixiユーザー(id:1795980)

2020年05月24日18:12

228 view

天皇陛下「生前退位」への想い[読書日記779]

題名:天皇陛下「生前退位」への想い
著者:保阪 正康(ほさか・まさやす)
出版:新潮文庫
価格:520円+税(平成30年12月 発行)
----------
タイトルのとおり、今上天皇の「生前退位」の言葉を巡る著者の考察をまとめた著作です。

裏表紙の惹句を引用します。
“平成28年8月8日。日本全土に激震が走った。天皇自身が直接国民に語りかけ、
 生前の譲位を提起する――。「平成の玉音放送」ともいうべきあのメッセージ
 は何を意味したのか。明治、大正、昭和と、つぶさに天皇の姿を見つめてきた
 近現代史の泰斗が解き明かす。禁じられた政治行為か、個人的な考えの吐露か、
 平成はどんな終わりを迎えるのか……。天皇の痛切な想いを読むリアルドキュ
 メント”

目次を紹介しましょう。
-----
 はじめに
 第一部 天皇陛下「生前退位」の解読
 第二部 天皇と国民の新たな回路のために
 第三部 平成とは何であったのか
 おわりに
 文庫版あとがき

-----
各部から印象に残った文章を引用します。

【第一部 天皇陛下「生前退位」の解読】から、終身在位についての考察。
“そこ(メッセージを発信せざるを得なかった背景)には近代日本の旧皇室典範が定めた「終身在位」という肉体的に無理なしきたりがあった。(略)
 もし天皇に生涯にわたり在位せよとしか認められないのなら、それは天皇の行為を縛ることにならないか。天皇に加重と負担をかけることにならないか。
 〈一定の時代までの役割を果たして、それで次は皇太子に任せたいと思うのは間違いでしょうか〉天皇は声を大にして国民にそう訴えたのである”(74p)

【第二部 天皇と国民の新たな回路のために】から、なぜ戦後七〇年以上も太平洋戦争のことを語り続けることの考察。
“考えてみてほしい。私たちはなぜ、戦後七一年を経た今も、太平洋戦争のことを語り続けているのか。あの戦争をこれほど熱心に語っている国は他にない。
 それは、国民の間に「釈然としない空気」があるからだ。私たちの国はなぜ、特攻や玉砕をやったのか。日本は、人の命を何とも思わない戦争をするような国家だったのか。
 そんな疑問が釈然としないから、今後も、私たちは語り続けることになる。
 天皇もそれを知っている”(136p)

【第三部 平成とは何であったのか】から、昭和天皇の立憲君主制に関する言葉。
“昭和天皇は、昭和五〇年代からは宮内記者会に記者会見を求められ、積極的に会見を行うことになったが、その折りに、なんどか次のような発言を行っている。
 「私は立憲君主制のもとで、その務めを果たしてきたが、昭和一一年の二・二六事件と昭和二〇年八月の終戦時の二回は、その約束を破った。それはいずれも臣下の者から直接に判断を求められたからである」
 この発言については、昭和天皇が自らの立場を擁護したり、逸脱したり、あるいは計算したりしているかのように誤解する人びとがいるが、決してそうではない”(227p)

【おわりに】から「生前退位」に対する著者の考え。
“本書で私が強調したのは、基本的には天皇が前例を破る形で発言した「生前退位」は、天皇の人間としての当たり前の感情にもとづいている以上、これを認めるかどうかは、この社会の常識や理性が問われているのではないかとの思いである。
 私たち個々人は、市民的権利を享受する社会に行きていて、天皇には寸分もそれを認めないというのは矛盾もはなはだしい”(264p)

最後に、第三部から著者が「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(今上天皇のお言葉を受けて発足した会議)のヒアリングに呼ばれた後の報道について述べた文章を引用します。
“(ヒアリングでは)本来なら「皇室典範改正」、それが無理なら、そのことを前提とした特例法の制定をといいたかった”(174p)
“社会部の記者たちは、私の二段構えの論を正確に記述する。ところが政治部になると、特例法に反対か否かに論点を絞り、「保阪は特例法に賛成」という方向に区分けされることになった。
 見事なほどその報道内容が異なるのである”(175p)
と書いています。
なんだか、政治部と政府の癒着を窺わせますね。

各部の出典が異なることから、内容が重複する点があり残念ですが、昭和史に詳しい保阪正康さんならでは鋭いの分析でした。

---------- ----------
保阪 正康(ほさか・まさやす)
1939(昭和14)年、北海道生れ。同志社大学文学部卒業後、編集者などを経てノンフィクション作家に。
『昭和史 七つの謎』『昭和陸軍の研究』『医療崩壊』『愛する人を喪ったあなたへ』『あの戦争は何だったのか』『田中角栄の昭和』『真説 光クラブ事件』『昭和史の大河を往く』シリーズ『昭和の怪物 七つの謎』など著書多数。
とくに昭和史、医療問題に関する作品に定評がある。2004(平成16)年『昭和史講座』の刊行で菊池寛賞を、'17年『ナショナリズムの昭和』で和辻哲郎文化賞を受賞。

0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年05月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31