題名:ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
著者:ブレイディみかこ(Mikako Brady)
出版:新潮社
価格:1350円+税(2019年11月 12刷)
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マイミクさんお薦めのノンフィクションです。
「ノンフィクション」と書きましたが、分野分けが難しく、理由は著者の子どもが主人公だからです。ですから、ルポルタージュとも子育て日記とも言えます。
著者のブレイディみかこさんは英国在住で、前に読んだイギリスのEU離脱ルポ『労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱』は秀逸でした。
本書は購入した3月時点で、すでに12刷。本屋大賞2019:ノンフィクション本大賞を受賞してベストセラーになっています。
帯の惹句を紹介します。
“英国で「ぼく」が通うイカした
元・底辺中学校は、毎日が事件の連続。
人種差別丸出しの美少年、
ジェンダーに悩むサッカー小僧、
時には貧富の差でギスギスしたり、
アイデンティティに悩んだり……。
世界の縮図のような日常を、
思春期真っ只中の息子と
パンクな母ちゃんの著者は、
ともに考え悩み乗り越えていく。
私的で普遍的な「親子の成長物語」”
目次を紹介します。
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はじめに
1 元底辺中学校への道
2 「glee/グリー」みたいな新学期
3 バッドでラップなクリスマス
4 スクール・ポリティクス
5 誰かの靴を履いてみること
6 プールサイドのあちら側とこちら側
7 ユニフォーム・ブギ
8 クールなのかジャパン
9 地雷だらけの多様性ワールド
10 母ちゃんの国にて
11 未来は君らの手の中
12 フォスター・チルドレンズ・ストーリー
13 いじめと皆勤賞のはざま
14 アイデンティティ熱のゆくえ
15 存在の耐えられない格差
16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン
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印象に残った文章を引用します。
【2 「glee/グリー」みたいな新学期】から、英国の中学校教育には「ドラマ」があるという話。
“実は、英国の中学校教育には「ドラマ(演劇)」というれっきとした教科がある。(略)
別に英国は俳優を大量育成するために学校で演劇を教えているわけではない。日常的な生活の中での言葉を使った自己表現能力、創造性、コミュニケーション力を高めるための教科なのである”(29p)
【5 誰かの靴を履いてみること】から、「エンパシー」とは何か? という話。
“得意そうに(期末試験で満点だったと)言っている息子の脇で、配偶者が言った。
「ええっ。いきなり『エンパシーとは何か』とか言われても俺にはわからねえぞ。
それ、めっちゃディープっていうか、難しくね? で、お前、何て答え書いたんだ?」
「自分で誰かの靴を履いてみること、って書いた」
自分で誰かの靴を履いてみること、というのは英語の定型表現であり、他人の立場に立ってみるという意味だ”(73p)
【8 クールなのかジャパン】から、息子が母親と一緒のところを見られたくないという、どこの家庭でもある話。
“「母親と一緒に買い物してるところなんて見られたくない。ダサすぎる」
そう言って息子はそそくさと店の外に出ていく。
いつの間にかこんなことを言う年齢になりやがって。と思いながらわたしも後を追った。(略)
あんなに小さくてかわいかった生き物がいつの間にかフードを被って母親と他人のふりをするティーンになってしまうのだから世の中とは無情である”(121p)
【15 存在の耐えられない格差】から、学校を理由なく欠席すると罰金があるという話。
“英国では、お上に認められていない理由で子どもが学校を欠席したりすると、親が地方自治体に罰金を払わなければならないのだ。
これは、両親に課される罰金で、父母それぞれに60ポンドずつ請求される。21日以内にこれを払わないとひとりあたり120ポンドに上がり、それより長く支払いを放置すると、最高2500ポンドまで罰金がはね上がって、最長で3ヵ月の禁固刑に処されることもある”(241p)
本書の初出は新潮社のPR誌「波」だそうです。
連載は継続中なので、続編が楽しみです。
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ブレイディみかこ(Mikako Brady)
保育士・ライター・コラムニスト。
1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。
音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。
ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。
2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数。
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