題名:デトロイト美術館の奇跡
著者:原田 マハ(はらだ・まは)
出版:新潮文庫
価格:460円+税(令和2年1月 発行)
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原田マハさんの小説です。
裏表紙の惹句を引用します。
“ピカソやゴッホ、マティスにモネ、そしてセザンヌ。市美術館の珠玉のコレクション
に、売却の危機が訪れた。市の財政破綻のためだった。守るべきは市民の生活か、
それとも市民の誇りか。全米で論争が過熱する中、一人の老人の情熱と一歩が大きな
うねりを生み、世界の色を変えてゆく――。大切な友人や恋人、家族を想うように
アートを愛するすべての人へ贈る、実話を基に描かれた感動の物語”
「実話」というのは、デトロイト市が財政破綻したという部分で、本書の中では次のように説明されています。
“ダニエル(連邦裁判所の裁判長)は、デトロイト市が2013年7月に「破産宣言」をしたのち、司法省から任命を受け、市が債務調整計画案を策定する上で、市と債務者とのあいだに立って調停を行う主席調停人となっていた。
負債総額は180億ドルを超え、アメリカの自治体の破綻としては過去最大となった”(100p)
目次を紹介します。
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第一章 フレッド・ウィル 《妻の思い出》 2013年
第二章 ロバート・タナヒル《マダム・セザンヌ》 1969年
第三章 ジェフリー・マクノイド《予期せぬ訪問者》2013年
第四章 デトロイト美術館 《奇跡》 2013-2015年
対談 アートは友だち、そして家族 鈴木京香×原田マハ
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巻末の対談相手が女優の鈴木京香さんなのは、2016〜2017年に日本で開催された「デトロイト美術館展」のナビゲーターをされたから、とあります。
小説なので内容に触れることができないのですが、4つの章の狂言回し役をポール・セザンヌが描いた『画家の夫人』が務めていることは触れてもいいと思います。
文庫の表紙は、この絵になっており、また、文中では《マダム・セザンヌ》とか《オルタンス》と呼ばれたりしています。
内容に触れずにすむ、印象に残った文章を引用しましょう。
【第二章 ロバート・タナヒル《マダム・セザンヌ》】から。
“ロバートがモダン・アートの真のすばらしさを体得するきっかけを与えてくれたのはポール・セザンヌの作品であった。
もともとヨーロッパ美術が好きで、十八、十九世紀のヨーロッパ絵画や銀製品をせっせと買い集めてはDIAに寄贈してきた「若きコレクター」ロバートは、モダン・アートに関しては、ぴんときていなかった。
本物の作品は見る機会がなかったが、雑誌やカタログの写真で見る限り、何が描いてあるのか判別不能なものや、荒々しいタッチのものなど、理解の範疇を超える作品ばかりのように思われた。”(53p)
ちなみに、DIAとはデトロイト美術館(Detroit institute of Arts)のことです。
【第三章 ジェフリー・マクノイド《予期せぬ訪問者》】から。
“「アートを愛する気持ちは、金持ちだろうが貧乏人だろうが、どんな肌の色だろうが、関係ありません。
彼女は……オルタンスは、私らみんなの友だちなんだ。」”(88p)
巻末の対談で著者はお薦めの美術館として、北海道の中札内美術村を挙げていました。
地図を見ると、帯広の南側です。
新型コロナが収まったら、行ってみたいと思いました。
四章だけの短い話ですが、心が暖かくなるストーリーでした。
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原田 マハ(はらだ・まは)
1962(昭和37)年、東京都小平市生まれ。
関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。
馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館に勤務。
その後2005(平成17)年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。
'12年に発表したアートミステリ『楽園のカンヴァス』は山本周五郎賞、R-40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードなどを受賞、ベストセラーに。
'16年『暗幕のゲルニカ』がR-40本屋さん大賞、'17年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞。
その他の作品に『本日は、お日柄もよく』『ジヴェルニーの食卓』『デトロイト美術館の奇跡』『たゆたえども沈まず』『常設展示室』『風神雷神』などがある。
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