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2020年02月09日19:21

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カウンセラーは何を見ているか[読書日記764]

題名:カウンセラーは何を見ているか
著者:信田 さよ子(のぶた・さよこ)
出版:医学書院
価格:2000円+税(2014年5月 第1版第1刷)
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前々回の読書日記で書いた『中動態の世界』と同じ出版社「医学書院」発刊の本です。
タイトルが面白そうなので手に取りました。
著者の信田さよ子氏は、精神科医から独立したカウンセリングセンターを立ち上げた日本のカウンセリング界の草分け的な人物です。

章立てを紹介します。
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 第一部 すべて開陳! 私は何を見ているか
  1 私は怖くてたまらない
  2 私はいつも仰ぎ見る
  3 私は感情に興味がない
  4 私はここまでふみこむ
  5 お金をください
  6 私は疲れない
 第二部 カウンセラーは見た!

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【第一部 すべて開陳! 私は何を見ているか】は、著者が精神科病院に勤め始めた1970年代からの仕事を振り返りながら、著者のノウハウを記した内容です。
【第二部 カウンセラーは見た!】は、著者が狭心症で入院した著者が病院で見聞した事柄をコミカルに綴った内容でした。

【第一部 すべて開陳! 私は何を見ているか】から、印象に残ったところを引用します。
(第二部も面白いのですが、読書日記の焦点がズレるので割愛します)

《1 私は怖くてたまらない》から、医師たち(男性)への態度と看護士たち(女性)への態度の違いについて。
“同じ女性として、さまざまな思いや感情が入り混じった視線を向けられる事態にたびたび遭遇してきたが、私の対処方法はたった一つしかなかった。思いっきり正直に自分を全開にすること、それだけである。
 医師に対して精いっぱい張っていたシールドは、彼女たちには不必要だ。むしろそんなものは見透かされるに違いない”(24p)

《3 私は感情に興味がない》から、「感情労働」について。
“さて、「サービス」からもう一つ、感情労働という言葉が連想される。
 A・R・ホックシールド『管理される心』(世界思想社、2000年)によれば、肉体労働、頭脳労働のいずれでもなく、感情的(エモーショナル)な側面を抑制したり、ときに鈍麻させ、忍耐するという労働が必要とされるようになってきている、という。(略)
 例として挙げられているのは飛行機の客室乗務員だが、翻訳後十数年を経た現在、社会の隅々まで似たような労働が広がっている気がする。
 お客から怒鳴られているデパートの店員、住民対応窓口で頭を下げている役所の職員、お客から暴言(ときには暴力)を受ける駅員などを見かけることはめずらしくなくなった”(67p)

《4 私はここまでふみこむ》から、著者のカウンセリングの特徴について。
“あからさまな強制によって外海に泳ぎ出てしまうより、「自分で選んだ」満足感のもとに生け簀の中で泳いでもらう。そして生け簀ごと、望ましい(たとえば断酒、加害行為の再発防止)方向に移動させること。
 これがカウンセリングにおける独特の強制であり介入なのである”(90p)

最後に、《4 私はここまでふみこむ》から、著者のカウンセリングに対する姿勢を示す一文を引用します。
“「私たちはクライエントの問題解決のお手伝いをしているだけなんですよ」
 「たいそうなことをしているなんて思ってはいけません。目の前のクライエントこそが解決の主体なのですから」
 「私たちは職人みたいなものです。決して表舞台に出てはいけません」
 援助職の世界は、なぜかこんな優等生的発言に満ちている。いかにも謙虚そうに聞こえる言葉だが、はたしてどうなのだろう。(略)

 自分の役割を限定し、控え目であることを強調するのは、単に通行手形を見せているだけではないだろうか。
 それは「患者様」という表現に抱く違和感に近い。政治家が自らの政治姿勢を正当化する手段として、「国民の皆様のために」「国民目線で」などというフレーズを用いるのとどこが違うのだろう”(92p)

自らのカウンセリング手法を公開する自信と、著者の矜持が感じられた好著でした。

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信田 さよ子(のぶた・さよこ)
1946年岐阜県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。
駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て、1995年原宿カウンセリングセンター設立、同所長。
アルコール依存症、摂食障害、ドメスティックバイオレンス、子どもの虐待などの問題に取り組んでいる。日本臨床心理士会理事、お茶の水女子大学非常勤講師他。
主な著書に『アディクションアプローチ』『DVと虐待』(ともに医学書院)、『愛しすぎる家族が壊れるとき』(岩波書店)、『依存症』(文春新書)、『増補ザ・ママの研究』(よりみちパン!セ/イースト・プレス)、『母が重くてたまらない』
『さよなら、お母さん』(春秋社)、『家族に悩みにお答えしましょう』(朝日新聞出版)、『コミュニケーション断念のすすめ』(亜紀書房)他多数。

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