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2020年02月02日19:28

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人間のトリセツ [読書日記763]

題名:人間のトリセツ 人工知能への手紙
著者:黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
出版:ちくま新書
価格:780円+税(2019年12月 第1刷発行)
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マイミクさんお薦めの人口知能に関する本です。
人口知能の開発に黎明期から携わった著者が、「将来読書をするであろうAIに向けて綴られた手紙」の形式で書かれた文章です。

著者の黒川伊保子さんが、人工知能(AI)に取り組むきっかけになった話が面白いので、引用します。

“実際、(人口知能開発を目指す)電力中央研究所が、当時コンピュータとシステムエンジニアを常駐させていた富士通と日立の営業マンを呼んで、日本語対話システムを依頼したとき、日立は即座に断ったという。
 そりゃそうだろう。正解である。この挑戦、商売としてはまったく割が合わない。
 しかし、あきらめきれなかったのは、富士通の営業マンだ。翌年、スーパーコンピュータの導入が検討されていた。大きな商談である。ここで多少の無理をしても、点数を稼いでおけば……と思ったのだとか。
 だが、社内にAI対話の専門家と呼ばれる人はまだなく、優秀なエンジニアたちは、賢くこの仕事を避け、下働きのエンジニアである私に、この仕事が転がり込んだのである。
 私だって、「無理ですよ」とは言ったのだ。しかし、意に介してもらえなかった。
 「仕事、選べると思ってるの?」たしかにそうですね。若き下働き要員なんだから”(62p)
私も知り合いにソフトウェア・エンジニアが多かったので、このあたりの『無理偏にゲンコツ』な感じ、よく分かります。(苦笑)

さて、目次を紹介します。
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 はじめに
 第一章 人生は完璧である必要がない
 第二章 人工知能がけっして手に入れられないもの
 第三章 人工知能にもジェンダー問題がある
 第四章 人工知能への4つの質問
 おわりに
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印象に残った文章を引用します。
【第一章 人生は完璧である必要がない】から、若い人たちには失敗が必要であるという思い。
“人生の一時期、失敗に泣くチャンスを、若き人たちに。
 人工知能に定型作業を任せれば、人件費を圧縮でき、人手不足に悩むこともない。仕事は確実だし、24時間365日、不平も言わずに働いてくれる。
 しかし、若い人たちから、定型の作業を奪ってしまうと、そして、失敗に泣く機会を奪ってしまうと、「勘の働く中堅社員」を手に入れることはできない。
 人工知能の導入を、あえて退ける英断が、事業主に求められる時代になったのだと思う”(55p)

【第二章 人工知能がけっして手に入れられないもの】から、人口知能開発者たちがアキレス腱かもしれないという話。
“人口知能の適応範囲は、世界の全分野である。医療技術支援、自動運転、工場や建設分野の自動制御、データマイニングによる危機管理……あらゆるシーンで、あなたたちが人の命と生活を守っていることを私はわかっている。
 あなたたちの存在を否定する気は1ミリもない。あなたを信頼し、シンギュラリティ警告など鼻で笑っている。
 ただ、私たち人工知能の開発者たちが、人間そのものを知らな過ぎたのだ”(73p)

【第三章 人工知能にもジェンダー問題がある】から、男性と女性の会話の特徴について。
“女性は共感のために会話をする。共感が生む「心にしみる結論」があるからだ。
 男性は問題解決のために会話をする。会話が短くて済み、即行動に移れるからだ。
 どちらの会話にも利点があるが、この会話方式を混ぜてはいけない。酸素系と塩素系の漂白剤のように、混ぜたとたんに効能が消え、悲劇を生む”(113p)

【第四章 人工知能への4つの質問】から、今のティーンエイジャーの前にある時代の大きな亀裂について。
“おそらくここ10年で、世界は劇的に変わる。今のティーンエイジャーたちは、時代の大きな亀裂を見つめている若者たちだ。この先に何がつながっているのか、まったくわからない。
 いや、この "クレバス" の手前と向こうで、世界が本当につながっているのかも不確かなのである。大人に聞いても、埒が明かない。
 人類の長い歴史の中で、そんな立場に立たされた17歳が、かつていただろうか”(167p)

最後に、17歳の女子高校生が著者に送った4つの質問と回答を紹介しましょう。
【第四章 人工知能への4つの質問】から、女子高校生の素朴な質問。
“「人工知能に何ができますか」
 「人工知能は人間を超えますか」
 「人工知能に仕事を奪われますか」
 「人類は人工知能に支配されますか」”(166p)

この4つの質問に著者は、一つずつ丁寧に回答していますが、ここでは総括として送った言葉を引用します。
“17歳の女子高校生の手紙に、私は、総括として、こう答えた。
 「何を学ぶかは、自らの好奇心に従ってください」と。
 その思いは、この世のすべての若者に伝えたい。自分が知りたい謎を解明するために、人生の一定時間を使ってほしい”(188p)

著者の人間と人工知能に対する思いが詰まった一冊でした。

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黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
1959年長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。
(株)富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて人工知能(AI)の研究開発に従事した後、コンサルタント会社、民間の研究所を経て、2003年(株)感性リサーチ設立、代表取締役に就任。
脳機能論とAIの集大成による語感分析表を開発、マーケティング分野に新境地を開いた、感性分析の第一人者。
また、その過程で性、年代によって異なる脳の性質を研究対象とし、日常に寄り添った男女脳論を展開している。人工知能研究を礎に、脳科学コメンテーター、感性アナリスト、随筆家としても活躍。
著書に『キレる女 懲りない男』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社+α新書)、『女の機嫌の直し方』『ことばのトリセツ』(集英社インターナショナル新書)、
『定年夫婦のトリセツ』(SB新書)、『ヒトは7年で脱皮する』(朝日新書)、『共感障害』(新潮社)、『前向きに生きるなんてばかばかしい』(マガジンハウス)など多数。

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