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2020年01月19日08:54

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セレンディピティー[読書日記761]

題名:セレンディピティー ――思いがけない発見・発明のドラマ――
著者:R.M.ロバーツ
訳者:安藤 喬志(あんどう・たかし)
出版:化学同人
価格:2884円[税込](1993年12月 第4刷発行)
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昨年読んだ『カガク力を強くする』(元村有希子著)で“セレンディピティー”という言葉を知り、図書館で探した本です。
著者のロイストン.M.ロバーツはテキサス大学オースティン校の有機化学の教授。ですが、本書の内容は化学だけでなく多岐にわたります。

本書によれば“セレンディピティー”は『セレンディップ(今のスリランカの古称)の三人の王子の冒険』というおとぎ話からできた言葉。
“セレンディピティーというとは、探してもいない貴重なあるいはすばらしいものを見つける才能のことで、辞書によれば、「偶然に幸運な予想外の発見をする才能」というように定義”(『はじめに』vii)されています。
本書ではセレンディピティーにより見つかった(あるいは開発された)36件の出来事が紹介されています。

目次から印象に残った章を抜き書きします。
 2章 新世界の発見
 6章 乳しぼりの女と天然痘のワクチン
 10章 ダゲールと写真の発明
 11章 天然ゴムと合成ゴム
 13章 合成染料と合成顔料をめぐって
 15章 ノーベル賞とダイナマイト
 19章 天文学におけるセレンディピティーとの遭遇
 21章 X腺、放射能、そして核分裂
 23章 飛び散らない安全ガラス
 27章 原子爆弾からフライパンまで
 34章 生命の渦巻き

この中から6つ引用しましょう。
【2章 新世界の発見】から、コロンブスが発見した新大陸について。
“コロンブスは確かに勇敢な探検家であったけれど、自分の発見の重要性を認識するだけの洞察力に欠けていた。
 彼は死ぬまで新大陸を発見したことを知らず、東洋の一部だと信じていた”(7p)

【6章 乳しぼりの女と天然痘のワクチン】から、天然痘のワクチンが発明されたきっかけについて。
“ジェンナーがワクチンを発明したのは、研究室での長くて骨の折れる研究の結果というわけではなかった。
 十九歳のとき彼は、以前乳しぼりだった者は天然痘(人痘)にかからないと教えられた。医師になったのちジェンナーは、(略)この言葉を思い出したのである。
 調べてみたところ、乳しぼりたちが天然痘の患者たちを看護した場合でも、ほとんど天然痘にかからないことがわかった”(26p)

【10章 ダゲールと写真の発明】から、写真(フィルム)が発明された時期について。
“さて読者のかたがたは、ジョージ・ワシントンの写真を見られたことがあるだろうか。また、エイブラハム・リンカーンの写真は何枚くらい見られただろうか。
 人気を博した写真術がL・M・ダゲールによって発明されたのは1835年のことで、ワシントンが亡くなったあと、リンカーンが大統領になる前であった。この発明までは、有名人の肖像も画家を頼りにするほかなかったのである”(66p)

【11章 天然ゴムと合成ゴム】から、硫黄を天然ゴムに混ぜて、合成ゴムを発明した偶然について。
“非科学的な方法も含めて、さまざまな方法で(ゴムが熱に弱いという弱点を変えるために)ゴムを処理してみたがうまく行かなかった。
 そんな方法の一つに硫黄をゴムに混ぜるというのも含まれていて、そのとき偶然グッドイヤーは、ゴムと硫黄の混合物を熱いストーブに接触させてしまった。
 驚いたことにゴムは融けないで、まるで革のようにちょっと焦げただけだった。彼は事の重要性にすぐ気づいた”(73p)

【21章 X腺、放射能、そして核分裂】から、最初のノーベル化学賞について。
“1901年、スウェーデン科学アカデミーが最初のノーベル賞を授与したとき、物理学賞に選ばれたのはレントゲンであった。
 最初の授賞にこれほど著名な業績を選ぶことができて、アカデミーはさぞ満足したに違いない”(201p)

【27章 原子爆弾からフライパンまで】から、偶然発見された「ポリテトラフルオロエチレン」について。
“このワックス状白色粉末は実際驚くべき性質をもっていた。強酸、強塩基、高熱に侵されることなく、どんな溶媒にも溶けないという点で砂より不活性である一方、砂と違って「つるつるして」いる。
 こんな面白い異常な性質があったにせよ、もし第二次世界大戦がなかったならば、このたいへん高価な新しいポリマーについては、長い間それ以上の研究は行われなかっただろう。
 ところが数ヵ月のうちに、原子爆弾第一号の製造に関係していた科学者たちが、原爆用ウラニウム-235を製造するのに使われる物質の一つとして、六フッ化ウラニウムという腐食性の危険なガスにも侵されないガスケット用の材料を必要とする、という事態が起こった”(266p)

最後に【12章 分子でも左手型と右手型では大違い】から、有名なパストゥールの言葉を引用します。
“パストゥールは、セレンディピティーの恩恵を受けた他の偉人たちと同様に、「偶然」と「偶然的発見」の違いを認識していた。彼は、自分自身の言葉で感銘深く語っている。
 「観察の場では、幸運は待ち構える心だけに味方するものです」”(87p)

著者が科学者だけに随所に化学式が配置され、最初はとっつきにくい印象だったのですが、内容は一般向けで好奇心が満たされました。

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安藤 喬志(あんどう・たかし)
1959年 大阪大学理学部化学科卒業
1973年 大阪大学助教授(産業科学研究所)
1983年より現職。滋賀医科大学教授(医学部)
専攻は有機化学、医化学

※訳者の略歴は載っていましたが、著者略歴が載っていない本でした(!)

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