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2019年12月22日14:14

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Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男[読書日記756]

題名:Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男
著者:佐々木 健一(ささき・けんいち)
出版:文藝春秋
価格:1800円+税(2017年6月 第1刷発行)
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私が竜巻の強さを表す「Fスケール」という言葉を知ったのは、映画『ツイスター』(1996年、スティーブン・スピルバーグ製作)を見た時でした。
字幕では「Fスケール」の詳しい説明があったので、覚えています。
“フジタ”と聞いて、「日系アメリカ人の博士が名付けたのか?」と思っていましたが、生粋の日本人でした。

さて、本書は竜巻を観察・研究し「Fスケール」を考えた、Mr.トルネードこと藤田哲也氏のドキュメントです。

目次を紹介します。
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 序 章 離陸
 第一章 魔の風
 第二章 謎の男
 第三章 幸運
 第四章 米国
 第五章 日本
 第六章 原爆
 第七章 論争
 第八章 勇気
 第九章 変化
 第十章 人生
 終 章 着陸

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書名こそ『Mr.トルネード〜』と銘打っていますが、内容の多くは航空機墜落事故を起こす魔の風“ダウンバースト”の発見と、発見が巻き起こした論争の顛末などに紙数を割いています。

ダウンバースト論争に関する記述を【第七章 論争】から3つ引用します。

1.ダウンバーストに二度も遭遇した上田恒夫氏(元JAL機長)の証言。
“周囲の反応は冷ややかだったが、二度の体験を通じて、上田にはある想いが去来するようになった。
 「活発な雷雲の下には、ジェット機の最大出力でも高度を回復できないほどの、我々がまだ知らない強力な下降気流が存在するのではないか。だから、パイロットはもっと自然現象に対して、謙虚でなければいけない”(28p)

2.当時、誰一人として見たことのない、ダウンバーストを仮説として発表した藤田に対する批判。
“(1976年に発表した藤田のダウンバーストに関する論文は)気象界では、公然と藤田に対する批判が繰り返された。
 その多くが、未知の気象現象として発表されたダウンバーストを疑問視する声だった。
 「フジタは、何年も前から知られているダウンドラフト(下降気流)に、新しい名前を付けただけだ」(略)
 「ガストフロント(突風前線)と勘違いしているんじゃないか」
 という声も噴出した。ガストフロントは、雷雲から吹き出した冷たい空気が周囲の暖かい空気と衝突した際に、突風や上昇気流を伴ってできる小規模の前線のことだ”(167p)

3.現場のパイロットたちはダウンバースト説を支持したというエピソード。
“孤立無援の中、当初はダウンバーストの説を支持してくれる人々がいた。
 「救いだったのは、パイロットたちの言葉でした。大勢のパイロットたちが『その通りだ』と表明してくれたんです。
 私はパイロットの国際会議に招かれました」
 1997年9月21日、カナダのオタワで開かれた航空安全国際会議で、藤田は「アドミラル・ルイス・デ・フローレス航空安全賞」と「特別賞」を受賞した。
 航空安全に関わるダウンバーストの発見が高く評価され、航空関係者から祝福を受けた”(179p)

論争に終止符を打つために藤田たち科学者は、アメリカ国立科学財団(NSF)から資金援助を受けてダウンバーストを観測する計画を立てるのですが、ここで問題が起きます。
【第八章 勇気】から引用します。
この時、藤田博士はNSF側から
“『NSFが研究を支援したとして、もし何も得るものがなかったら、つまり、ダウンバーストの存在を証明できずにただ五〇万ドルの研究費を浪費することになったら、彼(藤田)にはそれなりの報いを受けてもらうべきだ』”(188p)
と通告されたそうです。
藤田博士は、自宅を売却するなどの代償を払う覚悟でダウンバーストの観測を実現させます。
幸いなことに、1978年5月29日に世界で初めてダウンバーストが観測されました。

そして、藤田博士たちは、世界初の観測に満足することなく、より小さく危険な「マイクロバースト」の観測に進みます。
“(ダウンバーストの初観測後、更に詳細なデータを得るため)再び大規模な観測計画を立てた。
 そのプロジェクトには、茶目っ気溢れる藤田によって再びユニークな名前が付けられた。
 その名も「JAWS観測計画」。これは、「空港気象共同研究(Joint Airport Weather Studies)の略だったが、大ヒット映画『JAWS』(スティーブン・スピルバーグ監督、1975年)因んで付けられたことは明らかだった”(198p)

こうして得られた観測データから、なぜダウンバーストが発生するかというメカニズムは次のように明らかにされました。
“まず、上昇気流によって雷雲が作られる。雷雲の発達とともに大粒の雨や雹(ひょう)ができ、それらは上昇気流より重くなると落下する。
 無数の雨粒や雹が落下することで下向きの強い風、すなわち下降気流が発生する。
 さらに、雨や雹は降下中に溶けて蒸発し、空気を冷やす。冷えた空気は重くなり、さらに下降気流が強まる”(218p)
“「マイクロバースト」は、直径数キロ以下で、わずか数分以下で消滅する。最高風速は秒速80メートルと強力で、放射状の被害をもたらす”(195p)とあります。

藤田哲也博士の業績を紹介しながら、併せて彼の人生を追ってゆく構成は見事で、著者の練りに練った計算を感じました。

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佐々木 健一(ささき・けんいち)
1977年、札幌市生まれ。早稲田大学卒業後、NHKエデュケーショナルに入社。
ディレクターとして『哲子の部屋』『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズなどを企画・制作。
『哲子の部屋』で第31回ATP賞優秀賞、『Dr.MITSUYA 世界初のエイズ治療薬を発見した男』でアメリカ国際フィルム・ビデオ祭2016ドキュメンタリー部門(健康・医療分野)シルバースクリーン賞を受賞。
2014年、第30回ATP賞最優秀賞、第40回放送文化基金賞優秀賞を受賞した『ケンボー先生と山田先生〜辞書に捧げた二人の男〜』を元に執筆した『辞書になった男』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。
2017年、本書の元となった番組『Mr.トルネード〜気象学で世界を救った男』で科学ジャーナリスト賞を受賞。近著に『神は背番号に宿る』(新潮社)がある。

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