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2019年12月08日17:06

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記者たちは海に向かった [読書日記755]

題名:記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞
著者:門田 隆将(かどた・りゅうしょう)
出版:角川書店
価格:1600円+税(2014年3月 初版発行)
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2011年3月11日の東日本大震災に遭遇した「福島民友新聞」の記者たちを活写したノンフィクションです。
先月読んだ『カガク力を強くする』(元村有希子著)で紹介されていました。

タイトルの『記者たちは海に向かった』について、著者は【はじめに】で次のように語っています。
“熊田記者が命を落とした場所は、福島県相馬市の烏崎地区せある。(略)
 彼の死は、先輩、同僚の記者に衝撃を与えた。
 この時、福島民友新聞には、福島の浜通りにあった「二つの支社・五つの支局」に熊田
 記者を含めて計「十一人」の記者たちがいた。
 彼らは、大地震発生と同時に津波を撮るべく、「海」へと向かった。それは、新聞記者
 の "本能" とも言うべきものだった”(3p)

目次を紹介します。
 はじめに
 プロローグ
  第一章 激震
  第二章 助けられなかった命
  第三章 救われた命
  第四章 目の上の津波
  第五章 堤防を乗り越える津波
  第六章 機能を失った本社
  第七章 救世主
  第八章 本社はどうした?
  第九章 「民友の記事を」
  第十章 「民友をつぶす気ですか」
 第十一章 放射能の恐怖
 第十二章 配達された新聞
 第十三章 地獄絵図
 第十四章 思い出
 第十五章 それぞれの十字架
 第十六章 遺体発見
 第十七章 傷痕
 エピローグ
 おわりに

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現場にいた記者しか知りえないであろうエピソードを引用します。

【第二章 助けられなかった命】から、橋本徹記者のエピソード。
“何度かかけると、一一九番につながった。
 「死んでますか、生きてますか」
 橋本の説明を聞いた通信司令部の消防隊員は、そう問うてきた。
 死んでますか、生きてますか――橋本はその問いに衝撃を受けた。そして、
 「おそらく死んでます」
 と応じた。しかし、答えは過酷なものだった。
 「申し訳ありませんが、救助優先なので死んでいる人のところには行けません」
 返事に窮する橋本の電話を、通信司令部の消防隊員は無情にも切った”(61p)

【第八章 本社はどうした?】から橋本徹記者のエピソード。
“その時、橋本に一通のメールが届いた。
 <1F―2が極めて危険な状況。とにかく遠くに避難を>
 橋本には、東電に勤めている親族が一人いる。その人物からのメールだった。
 「1F―2」って福島第一原発の二号機ということか? それが極めて危険な状況とは
 どういうことだ。
 橋本はこの時、福島第一原発周辺三キロに避難指示が出されていたことをまだ知らない”(148p)

【第十一章 放射能の恐怖】から、木口拓哉記者のエピソード。
“いつも出入りしている役場だけに、木口の顔見知りは多い。
 「やあ、木口さん」
 「木口さん、無事でしたか」
 いろいろな人が声をかけてくれる。しかし、それぞれが、家族や親戚に犠牲が出ている
 かもしれない人たちである。
 きっと、その感情と、被災地に飛んで行って捜索に加わりたい思いを押し殺して、災対
 本部の仕事に従事しているに違いない。そこは、哀しみと責任感が凝縮された息が詰ま
 るような空間になっていた”(194p)

【第十二章 配達された新聞】から、渡邊久男記者のエピソード。
“久之浜の中心部は、すっかり瓦礫の山だった。
 「火事がまだ燻っていて、明け方の五時ぐらいにやっと鎮火したと聞きました。
  最後は川の水を引っ張って来て、それで消火したそうです。この時間になっても消防
  隊の残火処理がつづいていました。電線は垂れ下がり、バスも焼けていました。津波
  に流された上に、焼け焦げたものが折り重なっているんです。
  これまでテレビや新聞で見た、空襲を受けた中東とかイラクとかそういう戦地じゃな
  いか、と錯覚するような光景でしたね」”(233p)

【第十三章 地獄絵図】から、浪江町役場(災害対策本部)の屋上から木口拓哉記者が見た光景。
“木口の目が捉えた震災翌日の日の出はあまりにも印象的だった。
 目の前に、びっくりするほど大きな朝日が昇ってきたのである。それは、海といわず、
 陸といわず、一帯すべてに光を浴びせ、あたかも陸上まで「湖」になったかのように
 キラキラと照らし出した。人々が苦楽を刻んだ思い出の家々は、悉く舐め尽くされて
 いた。(略)
 眩いばかりの光景を前に、木口は立ち尽くしていた。
 (きれいだ……きれい過ぎる)
 それは、 "地獄絵図" にしては、あまりに美し過ぎた”(239p)

数多くのエピソードをつなげながら、大震災当日の様子を活写した著者の力量を感じた一冊でした。

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門田 隆将(かどた・りゅうしょう)
1958(昭和33)年、高知県生まれ。中央大学法学部卒。
ノンフィクション作家として、政治、経済、司法、事件、歴史、スポーツなど幅広い分野で活躍している。
『この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。
主な著書に『甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』(講談社文庫)、『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』(新潮文庫)『太平洋戦争 最後の証言』(第一部〜第三部・小学館)、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP研究所)、『狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部』(小学館)などがある。

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