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2019年05月19日20:54

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愛はなぜ終わるのか [読書日記726]

題名:愛はなぜ終わるのか 結婚・不倫・離婚の自然史
著者:ヘレン・E・フィッシャー(Helen E. Fisher)
訳者:吉田 利子(よしだ・としこ)
出版:草思社
価格:1900円+税(1993年5月 第1刷発行)
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アメリカの女性人類学者の「愛」に関する考察です。
1993年に翻訳された本書を読むきっかけは、4月に読了した『朝日ぎらい』(橘玲著)に紹介されていたからです。

表紙裏の惹句を引用します。
“人はなぜ特定の相手と恋におちるのか、なぜ結婚しても、不倫したり離婚したり、再婚したりするのか――。
 本書の著者は、生物学的にみれば人間の愛は4年で終わるのが自然であるというショッキングな説を唱える。
 不倫は一夫一婦制につきものであり、男も女も性的に多様な相手を求め、結婚をくりかえすことは、生物学的な人間性に合致しているというのだ。
 事実、世界の多くの国々で離婚のピークは結婚4年目にあるという。
 この4年という数字はいったいどこからくるのか。著名な人類学者が狩猟採集時代にまで遡って、人類が種としていかに生き延びてきたかを探り、恋愛・結婚・不倫・離婚といった現代人の大きなテーマを遺伝子的な観点から解明しようと試みた、話題の本である”

目次を紹介します。
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 はじめに
 1 求愛
 2 恋愛感情
 3 人間の絆
 4 なぜ不倫か
 5 四年めの浮気
 6 樹上で暮らした祖先たち
 7 エデンを離れて
 8 エロス
 9 セイレーンの罠
 10 なぜ男と女はちがうのか
 11 ほとんど人類
 12 意識が花開く
 13 気まぐれな情熱
 14 死がふたりを分かつまで
 15 未来の性
 訳者あとがき
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表紙裏の惹句にある“生物学的にみれば人間の愛は4年で終わるのが自然である”という理論は、【5 四年めの浮気】と【7 エデンを離れて】に述べられています。
引用しましょう。
【5 四年めの浮気】から。
“離婚の真相に迫るため、国連の人口統計年鑑を開いてみよう。(略)
 いちばん驚くのは、いっぱんに結婚後早い時期に離婚しているということだ。ピークはだいたい結婚後四年で、そのあとはだんだん離婚数は低下していく”(106p)

【7 エデンを離れて】から。
“現代の世界の離婚のピーク――結婚四年め――は、伝統的な人類の出産の間隔である四年とも一致するのである。
 つまり、私の理論はこうだ。繁殖期間だけつがうキツネやロビンその他多くの種と同じように、ひとの一対一の絆も、もともと扶養を必要とする子供ひとりを育てる期間だけ、つまりつぎの子供をはらまないかぎり、最初の四年だけ続くように進化したのである”(146p)

そのほかにも、印象に残ったところが数多くありましたが、ここでは3つ引用します。
1.
【10 なぜ男と女はちがうのか】から、女性の優れた面について。
“アメリカ人の言語能力のテストから、平均して男の子よりも女の子のほうが早く話し出すことがわかっている。
 女の子のほうがよくしゃべり、文法的に正確で、発言ごとの言葉数も多い。十歳になるころには、女の子は言語的論理能力、作文、言語的記憶、発音、綴りなどに秀で、外国語にもすぐれている“(190p)

2.
おなじく【10 なぜ男と女はちがうのか】から、親密さの基準が男女で違うことについて。
“親密さの性質:
 数々の世論調査やインタビューで、女性は、配偶者が自分の問題を話してくれない、感情を表現してくれない、話を聞いてくれない、言葉で気持ちや経験を分けあおうとしないと不満を述べる。女性は言葉から親しさをくみとる。
 この親密さのかたちは、養育者としての長い先史時代の産物であるにちがいない。
 社会学者のハリー・ブロッドは、男性が求める親密さはちがうのだと報告している。「数々の調査によれば、男性は感情的な親密さを、ともに働いたり遊んだりすることと定義しがちであり、女性は面と向かっての話しあいに求めることが多い」”(205p)

3.
【11 ほとんど人類】から、人類(の祖先)の脳の発達がひとの結婚のかたちに影響したという説。
“科学者は、わたしたちの祖先が(脳が発達しすぎると産道通過が困難になるので)非常に未熟な頼りない赤ん坊を産みはじめたのは、成人の脳の容量が700立方センチになったころ、100万年前のホモ・エレクトゥスだろうと推測している。
 この適応によって、ひとの結婚、性、愛のかたちはどんな影響を受けただろうか。
 第一に、この頼りない赤ん坊は、ホモ・エレクトゥスの女性の「繁殖の負担」を激増させ、さらに恋の情熱や愛着、一夫一婦という選択を促進しただろう。
 無力な赤ん坊の誕生は、安定した配偶関係をいっそう不可欠なものにしたのである”(217p)

また、【14 死がふたりを分かつまで】では、男性が女性より優れているという迷信の元となった理由を2つ挙げています。
理由1)
“鍬(くわ)で畑を耕している文化圏では、女性が農耕作業の大半をこなし、同時に社会で相対的にかなりの力をもっている。
だが、そうとうの腕力を必要とする鋤(すき)が使われるようになって、農業作業の大半は男性の仕事になった。
しかも、女性は独立した採集者、食事供給の担い手という古代の名誉ある役割を失った。
鋤が生産に不可欠な道具となってまもなく(略)女性は男性よりも劣る存在とみなされるようになったのだ”(266p)

理由2)
“もうひとつ、女性の社会的、性的権利の低下に、戦争が一役買ったのもまちがいない。
 村が豊かになって人口がふえると、ひとびとは財産を守らなければならなくなり、さらには可能な場合には所有地を広げようとしたため、戦士が社会生活で重要な地位を占めるようになった。”(274p)

訳者の吉田利子さんは次のように「訳者あとがき」に書いています。
“本書は、著者がいうように「不倫だの離婚だのという感情的に危険な話題」をとりあげているが、読後感はさわやかである”(309p)
私も、同じ感想でした。

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ヘレン・E・フィッシャー(Helen E. Fisher)
1945年生まれ。ニューヨーク大学卒業。コロラド大学で修士・博士号を取得。自然人類学専攻。
現在は、ニューヨーク自然史博物館の人類学部門研究員。1985年には、幅広い活躍が評価され、アメリカ人類学協会から賞を受けている。
著書に The Sex Contract:The Evolution of Human Behavior(邦訳)『結婚の起源――女と男の関係の人類学』(どうぶつ社)がある。

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