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2019年02月17日22:24

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気になる科学 [読書日記713]

題名:気になる科学 調べて、悩んで、考える
元村 有希子(もとむら・ゆきこ)
出版:毎日新聞出版
価格:1,500円+税(2012年12月発行)
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1月に読んだ『科学のミカタ』が面白かったので、著者の旧著『気になる科学』を読みました。

「面白い」には、科学に関する最新情報が面白いという意味と、著者の表現がユーモラスという二つの意味があります。
後者の例を引用します。
“私は初めて取材した科学記事は、火山周辺の地磁気の変動を精密に測ることによって、噴火予知に役立てるというものだった。
 有名科学雑誌に論文が載ったという東大教授を訪ねて話を聞いた。
 教授先生が「普段は2〜3ナノテスラなんですが」と言ったのを「え? テラス?」と思わず聞き返した。(略)
 磁気といえば「800ガウスのピップエレキバン」しか知らない私にとっては、ナノもテスラも初対面だった。
 先生は微笑して「テスラは磁力の単位で、エジソンと並ぶ発明家の名前にちなんでいるのです」と教えてくれた。テスラさんはじめまして”(205p)
最後の“テスラさんはじめまして”が効いていますね。

目次を紹介します。
 第1章 食の現在
 第2章 生命と老いを見つめて
 第3章 エコなのかエゴなのか
 第4章 宇宙へ
 第5章 そして科学はどこへ行く
 第6章 不確かさと真実と
 第7章 されど女、とはいえ男
 おわりに

いつものように、印象に残った文章を引用します。

【第2章 生命と老いを見つめて】「一隅を照らす」から、アフリカの無医村で診療している日本人医師について。
“福岡県に生まれ、アフリカの無医村で病む人を支えている川原尚行さんという医師がいる。
 外務省の医務官として、スーダンの日本大使館に着任したことが発端だった。視察などで立ち寄る先々で病気や貧困に苦しむ現地の人々に会う。
 しかし自分は彼らを助けることはできない。なぜなら、医務官の仕事はあくまで「現地に住む日本人の健康を守ること」だったからだ。
 「目の前で病んでいる人たちをなぜ助けられないか」という「素朴な疑問から、彼は外務省を辞め、NPO法人「ロシナンテス」を作った。
 年収千七百万円の暮らしから無収入になったが、彼はフリーハンドで動ける立場を選んだ”(52p)

【第3章 エコなのかエゴなのか】「クール?ビズ。」から、堀江貴文氏の珍しい写真について。
“そういえば先日、ホリエモンこと堀江貴文氏のネクタイ姿を拝んだ。
 「珍しいでしょ、書いちゃだめよ」と見せてくれた彼は、堀江氏の久留米大学附属中・高、東大での同級生である(書いてるな、ごめん)”(74p)

【第4章 宇宙へ】「こんなこともあろうかと!」から、この決め科白を言ったアニメの登場人物について。
“2010年6月、列島は「はやぶさ君」に沸いた。
 はやぶさは、七年間の長い旅を終えて地球に帰ってきた小惑星探査機である。軽自動車の半分程度の大きさしかないのに、六〇億キロも宇宙を旅した。
 途中、迷子になったり(地上との通信途絶)、粗相をしたり(燃料漏れ)と大人たちをはらはらさせ、さらに三年も道草した末、満身創痍で帰ってきた。(略)
 だが、忘れてはいけないのは、はやぶさを支えた技術者たちの頑張りだ。彼らのモットーは「こんなこともあろうかと!」である。
 はやぶさがトラブルに見舞われるたび、技術者たちは知恵を絞って秘策をひねり出した。
 予想外のトラブルを見越していたようなウルトラCの連続に「宇宙戦艦ヤマト」の技師長、真田志郎を想起した人は少なくない。
 「こんなこともあろうかと!」は、真田の決め台詞とされている”(125p)

【第5章 そして科学はどこへ行く】「クラゲ博士」から、子どもには科学者の素質があるという話。
“子どもは生まれついての科学者だといわれる。
 「わたしはどうやって生まれたの?」「私の手と足は四本なのに、どうしてクモさんは八本もあるの?」子どもは無邪気にこんな質問を投げかける。
 答えられない大人は「もともとそうなってるの!」などと、答えにならない答えでお茶を濁そうとする。
 「はぁそうか、世の中はそうなってるんだ」と納得してしまった私はお話にならないとして、その子どもの心を持ち続けたまま大人になったのが科学者なのだ。
 持ち続けるだけでなく、素朴な疑問を解くことに情熱を傾け、失敗もいとわず、ある人は試行錯誤の末、見事に答えを探し当てる”(180p)

【第6章 不確かさと真実と】では、本書が2012年刊行なので、3・11による科学技術過信への批評などに多くの紙面を割いています。
また、【第7章 されど女、とはいえ男】は、著者が取材や私生活で出会った男性陣が軽妙洒脱に紹介・批評されています。
最後に【第7章 されど女、とはいえ男】「男の磨き時」から、石原慎太郎氏のことを書いた部分を引用しましょう。
“「暴走老人」こと石原慎太郎氏が、東京都知事を辞めた。(略)
 約五十分の(辞任)会見の半分は、十三年余りの都政運営でいかに自分が業績を上げ、その過程でいかに中央官僚に妨害されたかという話。
 支えてくれた人たちの謝辞は、猪瀬副知事以外なし。
 もう半分は質疑だったが、質問する記者たちに「あなたもっと勉強しなさいよ」「なんでこんな大切なことを書かないんですか」「さっき言ったでしょ」と二言目にはお説教口調である。
 「正しいのは常に自分。うまくいかないのは周りがバカだから」という上から目線の男性、私は生理的にダメだ”(318p)

元村氏は、現在、毎日新聞社の科学環境部長。こんなに面白く、かつ鋭い批評眼を持つ上司がいたら、どうしようと思いながら読了しました。

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※以下、2012年時点の著者紹介:
元村 有希子(もとむら・ゆきこ)
1966年生まれ。九州大学教育学部卒業。
1989年毎日新聞社入社。西部本社報道部、下関支局などを経て毎日新聞東京本社科学環境部に配属。
2006年、第1回科学ジャーナリスト大賞受賞。
著書に『理系思考』(毎日新聞社)、共著に『理系白書』(講談社)、『科学者ってなんだ?』(丸善)、『がんに負けない』『宇宙に出張してきます』(毎日新聞社)など。
2010年から科学環境部デスク。科学コミュニケーション活動に力を入れ、富山大学などで教壇にも立つが、大学で取得した教員免許は「国語」。
趣味は山歩き、温泉、居酒屋。「理系白書ブログ」管理人。

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