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2019年01月20日22:09

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科学のミカタ[読書日記709]

題名:科学のミカタ
著者:元村 有希子(もとむら・ゆきこ)
出版:毎日新聞出版
価格:1,500円+税(2018年3月発行)
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マイミクさんお勧めの科学エッセイです。
本職が新聞記者だけに、とても読みやすく分かりやすい文章でした。

もくじを引用します。
 はじめに
 1 こころときめきするもの |どきどき、わくわく
 2 すさまじきもの |あきれる話、興ざめな話
 3 おぼつかなきもの |心がザワつく、気がかりな話
 4 とくゆかしきもの |早く知りたい、もっと知りたい
 5 近うて遠きもの、遠くて近きもの |生きること、死ぬこと
 おわりに

もくじが古文調なのは、著者の夢枕に清少納言が立ったから、と「はじめに」にあります(ホンマかいな)。
上の文章に(ホンマかいな)と入れたのも、本書のくだけた書き方に影響を受けたからです(笑)。

印象に残った文章を各章から引用します。

【1 こころときめきするもの】から、宇宙人の話。
“広い、広い宇宙。そこに住む人類以外の誰かとコミュニケーションができたらな、と考えたのは、SF作家であり、科学者でもあったカール・セーガン氏率いる委員会だった。
 (ボイジャーが打ち上げられた1977年)当時は、ほとんどの専門家が内心、「地球外生命? まさかねぇ、いないでしょ?」と鼻で笑ったかもしれない。
 だが、その後、常識を塗り替える発見がなされた。
 1995年、スイスの天文学者たちが、ペガサス座51番星に惑星を見つけた。この惑星は木星の半分の質量で、主星のまわりを4日でまわっているらしい。
 その後の研究で、太陽系における地球のような惑星は、太陽系外では「ありふれた」天体であることがわかってきた。
 じっさい、太陽系外にあって、主星からの距離が地球に似通う、つまり生命がいてもおかしくない惑星がすでに3500個以上見つかっている”(50p)

【2 すさまじきもの】から、廃炉がきまった、もんじゅの話。
“MOX燃料を使い、投入した以上のエネルギーを生み出す夢の原子炉「もんじゅ」(福井県)は、2016年末に廃炉が決まった。
 構造の特殊さと扱いの難しさから、1991年に完成した後、25年間でわずか250日しか運転しなかった。
 さしずめ、鳴り物入りでドラフト1位で入団した新人が、バッターボックスどころかベンチにも入らないまま引退するようなものだ。普通なら「給料泥棒」と皮肉られるだろう。
 もんじゅは、建設から廃炉決定までの間に1兆円の税金が使われた。さらに廃炉となれば、解体も難事業だ。
 世界に前例がほとんどなく、未知の危険が待ち構えている。最新の試算では、廃炉完了は2047年。それまでに少なくとも3750億円の税金が追加で必要になる。
 まるで、穴だらけのバケツのように、水を入れればダダ漏れ、破れかぶれのこの政策うぃ、どこまで信じて応援するか。
 利害を共有する事業者と政府は、自分の胸に手を当てて再考してほしい”(105p)

【3 おぼつかなきもの】から、マゴットセラピーの話。
“(珍しい軍事研究の)白眉は、致命傷になりかねない傷にウジ虫を這い回らせて治す「マゴットセラピー(ウジ虫治療)」の最前線である。
 1917年、第一次世界大戦のフランス。重傷を負った兵士2人が雑木林に7日間横たわった後に収容された。
 そのときの様子を、本ではこう説明している。
  《傷口に何千というウジ虫がうごめいていたのだ。
   それは吐き気をもよおす光景で、この忌まわしく、気味の悪い生き物を洗い流す措置が急いで行われた。
   そして傷口は通常通り食塩水で洗われたのだが、そこに現れたのは驚くべきものであった。
   傷口には、想像をはるかに超えた美しさの、ピンク色の肉芽組織が広がっていたのだ》
 衛生兵としてこの症例に立ち会ったウィリアム・ベールは兵士が発熱しておらず、壊疽の兆候もないことに感動し、ウジ虫が傷にひそむ悪玉菌を食べて感染から救ったのだと考えた。
 終戦後、ベールはウジ虫を無菌の状態で繁殖させ、医療に使う手法を確立した”(139p)

【4 とくゆかしきもの】から、津波の話。
“津波は、地震などで海底の地形が急に変わることで発生する。障害物がない限りどんどん進む。
 水深が深いほど速く進む性質があり、最高で時速800キロとジェット機並み。
 陸地に近づくにつれて海が浅くなるために速度は落ちるが、人間の足で逃げおおせるものではない”(190p)

【5 近うて遠きもの、遠くて近きもの】から、人間の命取りになる動物の話。
“大富豪のビル・ゲイツ氏が出資する「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」が、興味深い調査結果を公表している。
 「命取りの動物リスト」とも言えるもので、人間の命を奪う動物を、世界保健機関(WHO)などのデータから集めて比較したものだ。
 2016年の結果によると、もっともたくさんの人命を奪っている動物は、蚊であった。蚊が媒介する感染症で、年間推定83万人が死んでいるという。
 続く悪者は「人間」で58万人。さらに「ヘビ」(6万人)、「ハエやブユなどの吸血昆虫」(2万4200人)、「イヌ」(1万7400人)と続く。
 「殺し屋」と聞けば誰でも思い浮かべる「サメ」は、たった6人しか殺していない”(240p)

また、長文なので引用できませんが、著者自身が初期のがんに罹っていることが分かり、手術から退院までの顛末を書いた『がん100万人時代』(210p〜)も読み応えがありました。
科学分野の最新知見をユーモラスに、かつ真剣に紹介した文章の数々に感動しました。

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元村 有希子(もとむら・ゆきこ)
1966年生まれ。九州大学教育学部卒業。
1989年毎日新聞社入社。
西部本社報道部、下関支局などを経て毎日新聞東京本社科学環境部に配属。2017年に科学環境部長。
2006年、第1回科学ジャーナリスト大賞受賞。科学コミュニケーション活動に力を入れ、富山大学、国際基督教大学などで教壇に立つが、大学で取得した教員免許は「国語」。
著書に『理系思考』『気になる科学』(共に毎日新聞出版)など。
講演やテレビ出演も多数。

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