５２−１０ 共鳴箱と『般若心経』
小学生が行う理科の実験を思い起こしていただきたい。共鳴箱の付いた音叉の実験である。一つの音叉を叩くと音が出る。すると、離れたところにある音叉も共鳴して音を出す。これはまさに、宇宙神と人間との関係である。また、音叉が無数にあったとしても同じことである。無数にある音叉同士も共鳴し合う。それぞれの音叉の音色は異なっていても、互いに唸り合うことなく、すべてが調和する。この大調和の姿を物質世界に映し出すことが人間個々に与えられた天命である。天命とは宇宙神と共鳴することである。それは神性顕現をもたらす。（唸り：振動数がわずかに異なる音を同時に鳴らすと、ゥワーンと変な音がする）
本来、共鳴箱は空っぽである。空（くう）である。この場合の自己意識は「我即神也」である。ところが、物質世界の開拓というプロセスの中で、「我即神也」が見失われていった。『人間とは不完全で罪深く汚れているという認識』(95-05)が生じた。そこから派生した、想念、認識が空っぽであった箱に詰め込まれていった。自我、二元対立、依存、差別等々である。現象世界はこの否定的信念を投影する姿を繰り返すようになった。輪廻転生の繰り返しであった。輪廻の中に入ると、人間はその投影された姿（現象、過去）を自分と見なし、容易にはそこから脱却できなくなっていった。誤った認識の詰まった共鳴箱同士は、文字通り‘唸り’合うばかりであった。
「消えてゆく姿」とは共鳴箱を空っぽにするための行いである。現象世界と本心を別物と切り離すための行いである。言霊、祈り、印、呼吸法は宇宙神と共鳴するため方法である。宇宙神と共鳴するときは、輪廻転生、因縁因果からの脱却のお願いであってはならない。お願いではなく、果因説の宣言でなければならない。つまり、「私は神そのものである」という宣言でなければならない。
自己認識は人類の認識とワンセットである。つまり、「我即神也」と宣言するところ「人類即神也」の宣言が伴う。「自分を赦す」ところ「人類を赦す」ことが伴う。「自分を愛する」ところ「人類を愛する」ことが伴う。自分が宇宙神と同調し、共鳴するところ、人類が宇宙神と同調し共鳴することを促すのである。無数の共鳴箱が存在するところ、この法則がある。個人人類同時成道の法則である。
『般若心経』もこの共鳴箱の法則のことを言っているのである。人間は本来、現象界、三界、過去の一切から切り離されている。自分のアイデンティティのように想える一切の現象、想念は因縁因果の軌道にあるもので「消えてゆく姿」である。従って、自分自身を現象界の出来事、想念によって特徴づけることはできない。それが『色即是空、一切空』ということである。自分が現象界から切り離されたとき、空っぽの共鳴箱は宇宙神と同調し、神性顕現を始める。これは『空即是色』の世界である。また、果因説の軌道の世界のことである。
『般若心経』に言う「空」とは存在についての法則である。しかし、最も問われていることは、自己認識の問題である。自分が自分を認識し、自分を定義するとき何をもって認識し、定義すべきなのか。現象、過去はその根拠にはならない。現象、過去の無い空っぽの共鳴箱は宇宙神と共鳴するばかりである。人類即神也。
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