知人と仕事先へと打ち合わせに行った。席に案内されるなり事務所で飼っている白の大型犬がぼくに近づいて来た。当然のようにぼくの靴先に前足を揃えたかと思うと、そのまま腹ばいになって服従の体勢をとり、ハアハアし出した。ぼくは思わず犬の頭に手を伸ばして撫ぜてあげた。そして犬の口先あたりに指を添えてやると、ペロペロと舐め回し始めた。大型犬はゴールデンレトリバーだった。
「犬になれてますね」仕事先の社長が驚いたように言った。
「はい。なぜか犬に嫌われたことがないんです」と平然と答えるぼく。
打ち合わせを終え、ぼくが席を立つと犬が名残惜しそうにクーンクーンと鳴き出した。同行した知人が「いい子だね」と言いながら犬の頭を撫でようとすると、それまでおとなしかった犬は突然吠え、歯を剥き出しにして腹の底から唸り出した。
「えーっ! 俺はダメなのかよ!?」と言ったまま、連れの男はショックのためか黙り込んでしまった。
・・・ぼくは思った。犬にモテるのはいいが、女にも同じくらいモテたら良かったのになぁ、と。
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