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2020年03月25日20:37

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青春の影

 高円寺純情商店街を抜けて10分ほど歩いていると、懐かしい公園にたどり着いた。ぼくが大学受験で上京したころ、お世話になっていた伯父さんの屋敷のそばにあった公園だ。
 当時のぼくは受けた大学がことごとく不合格のありさまで、恥ずかしくてとても伯父さんの家に戻る気になれないでいた。伯父さんの優秀な娘四人は全員有名大学に通っていて、その娘たちに、受験の合否を発表日の度に尋ねられるのが堪らなくイヤだったのだ。
 <このままいけば、浪人決定だな> とぼくは虚ろな視線のまま、失望と孤独を抱え込むように公園のベンチに腰掛けて蹲っていた。二月下旬の夜は、外気が刺すように冷たかったのを今でも覚えている。
 
 そんな時、暗い公園の片隅に小さなモニュメントが置かれていることにぼくは気づいた。亀が「夢」という文字を掴んでいるモニュメントだった。その亀の台座には「夢をつかめ」の文字が彫られていた。
 ・・・自分はこの東京で夢をつかめるのだろうか? そんなことをつぶやきながらも、少しだけ気を取り直したぼくは、重い足取りで伯父さんの家族が待つ家へと帰っていった。
 今も当時の夢は、夢のまま自分の胸中に残されている。四十年以上経って、変わらない亀のモニュメントを目にしながら、恥ずかしい、と本気で思った。
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