ぼくは大学入試の時、金沢から米原まで特急列車に乗車して、米原からは新幹線に乗り換えて上京した。
田舎者のぼくは、それまで食堂車というものを利用したことがなかったので、一人いそいそと食堂車へと行ってみた。あいにく空席はほとんど無かった。
仕方なく、入り口近くのテーブルに腰掛けて食事を摂っていた三十代半ばとおぼしきスーツ姿の男性の前に突っ立ったまま、「すいません。相席よろしいですか?」と恐るおそる訊ねてみた。
するとその男性はぼくに一瞥をくれた後、素早くご自分のお皿を引き寄せたかと思うと、ぼくに向かって手のひらを差し出して「どうぞ」と言ってくれた。イナカッペ丸出しの詰襟の学生服姿のぼくに、この男性は何のためらいもなく紳士的に振舞ってくれたのだ。その男性がイケメンだったのもあってか <ステキな方だな> と印象に残った。<男たるもの常にこうあるべきだな> とも、ぼくは考えていた。
以来、相手がたとえ子供であろうが、もちろん男性も女性も関係なく、あのステキな紳士みたいに胸のすくような振る舞いを心がけてぼくは生きてきた。・・・残念ながらイケメンにはなれなかったというか、はなからイケメンになれる可能性はなかったのだけど、あの時のダンディな背広姿の紳士が今も忘れられない。
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