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日記一覧

紀州の秘境 龍神と教会ー8龍神をよく知っている或る司祭が 「龍神の人たちの会話とアイルランドの村人の会話が似ている」 と言ったことがある。 「彼らは昔から同じ場所に住んで、村に起こることは細大洩らさず知っている。親せき関係のたてよこ複雑な長

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 護送車の列は渓流沿いの山道をのろのろと進む。右手の険しい崖から流れ落ちる雨水が濁流となって道路を流れ、運転席の警官たちも不安そうに外を覗いていた。渓流の向こうに生えるバナナの樹が踊っているように揺れた。 突然ゴーという轟音を上げて、崖から

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紀州の秘境 龍神と教会ー7●明治の水害と下柳瀬 龍神教会到着の翌日(一九九〇年五月十九日)は前夜半から午前中にかけて大雨だった。この日は土曜で、西地区の教会で夜のミサがあるので、ここではミサはなかった。 朝食はホーガン神父、ハウスキーパーの

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 闘争 広場ではナイヤビンギが続いていた。超人的な速さで丘を駆け下りたラス・コンゴ老人は「山の神殿」に入っていった。五郎たちはゲートの手前で立ち止まる。闇に沈んだ遠くの黒い森が、五郎は気になった。何かの気配を感じる。「チエミちゃん、双眼鏡貸

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紀州の秘境 龍神と教会ー6行く手に白いかまぼこ形の小奇麗な橋が現われた。その下では水流がどちらに向かっているか、と考えているうちに、車はその柳瀬橋のすぐ手前で左折した。龍神教会に着いたのだ。 前庭は広場、奥に教会堂と保育園、その裏に「友の家

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 太い丸太の柵のそばで、気持ち良さそうに身体を揺らしながら唄っていた車椅子の老ラスタが五郎を手招きした。近づくと、老人には両足が無かった。ギョッとしたが、緊張を溶かすような老人の微笑に気持ちが安らいだ。 大きなタム(ラスタ用の毛糸のキャップ

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紀州の秘境 龍神と教会ー5カトリックとは無縁だった龍神にカトリックを導入し根付かせたのは父・仙吉氏、これまで共産主義を知らなかった同村にこれを紹介したのは息子の隆吉氏ということになる。 隆吉氏と親交のあったホーガン神父は、 「人物として隆吉

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 ナイヤビンギ 古田ジャマイカ・メモ〔ラスタ英語の神秘的世界〕HIS IMPERIAL MAJESTY・EMPEROR HAILE SELASSIE I・NEGUS OF ITHIOPIA・KING OF KINGS・LORD OF LORDS・CONQUERING LION OF THE TRIBE OF JUDAH・EYSUS KRISTOS・ADONAI・S

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紀州の秘境 龍神と教会ー4●日高川との出会い 道が山の一角を一めぐりした時 「日高川」 ホーガン神父が前方をあごで指した。いきなり日高川にぶつかった、という感じだ。しかも、私はずっと日高川との出会いを期待し続けていたのだ。 「ここが福井」 

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五郎たちが超満員の荷台に這い上がると、トラックは走りだした。小屋の前でラス・レビが嬉しそうに手を振った。「レビ、ビンギで会おう」「楽しみにしているよ、ラス・コンゴ」 ラスタたちを満載したトラックが喘ぎながら山道を上った。五郎たちは荷台の隅で

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紀州の秘境 龍神と教会ー3●日高川との出会い 道が山の一角を一めぐりした時 「日高川」 ホーガン神父が前方をあごで指した。いきなり日高川にぶつかった、という感じだ。しかも、私はずっと日高川との出会いを期待し続けていたのだ。 「ここが福井」 

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 待ち伏せ 警察の執拗な追跡に悩みながら、逃亡者たちはようやく険しい山岳地帯にたどり着いた。東から西へ、ブルーマウンテン、ジョンクロウ、コクピットマウンテンと続くジャマイカの背骨である。五郎たちが目指しているのはコクピットマウンテンの東側だ

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紀州の秘境 龍神と教会ー2紀伊田辺の教会でホーガン師と落ち合い、龍神村(和歌山県日高郡)へ向かったのは午後二時に近かった。師はこの道路を十年間、週に何回となく走っている。田辺〜龍神、一時間余を龍神小教区についていろいろ聞かせていただいた。 

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―ここの連中は遊び心がないからなー。いけねえ、弱気になっちまった 頭上をへリコプターの轟音が通り過ぎる。五郎とタケが不安気に夜空を眺めた。「安心しなさい。我々はジャー(神)に守られている。ジャーガイダンス(神の導き)を信じるのだ」 二人の弱

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紀州の秘境 龍神と教会ー1紀州の秘境 龍神と教会 一、龍神への道●南部川ぞいに 車は南紀の南部町を過ぎ、南部川沿いに山地へ向かっていた。 季節は五月、新緑が陽光に輝いている。 川向こうの杉林の中に備長窯(びんちょうがま)が人気もなく、ひっそ

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 ラスタマン・バイブレーション ロードブロック古田ジャマイカ・メモラスタファリアン神学によると、二段階の体験を経て完全な自由が獲得される。第一段階では、地獄の炎で消滅する運命のバビロン(現実社会)を悪徳の社会であると規定する。すなわち全否定

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天草・歴史の幻影ー146 これだけの国字活字をしかもわずかな年月で仕上げるのは、いかに難事であったことか!メスキタ神父ならずとも感嘆せずにはいられない。 キリシタン版・国字本を見つめているとー羊角湾の群青の水と、長崎の岬の教会が見下ろす海の

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夜明けのころ五郎は目覚めた。見慣れぬ小鳥たちが木々の梢でさえずり、登り始めたカリブの朝日がバラックの群れを黄金色に染めた。ラス・コンゴ老人の薬草のお陰か、身体の痛みも嘘のように消えて気分爽快だった。黒い痩せた仔犬が小屋の陰から現れる。やつれ

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天草・歴史の幻影ー145●「ぎやどぺかどる」 この書はコレジヨが修練院、印刷所と共に長崎に移転した二年後、慶長四年(一五九九)の刊行である。 ぎや ど ぺかどる(Guia do Pecador)はつみ人の導き、の意味である。原著者はルイス・デ・グラナダ

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トレンチタウン古田ジャマイカ・メモ☆ラスタファリズムの歴史一九三〇年、エチオピアの一地方から現れたラス・タファリ・マコーネン(タファリ・マコーネン王子)が、ソロモンとシバの女王の時代から数えて二百二十五代目のエチオピア皇帝ハイレセラシエとし

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●国字活字による「キリシタン版」・「病者を扶くる心得」 ローマン活字による「キリシタン版」はそれなりに貴重である。が、国字活字によるキリシタン版は、国字なるが故に、一層興味を引かれる。前者は宣教師用であるが、後者は日本人信徒のために刊行され

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 ブルーエンジェルの前で、五郎はタケを呼んだ。ゴッホの〔ひまわり〕のような太陽が意地悪に輝き、額から滴る汗が乾いた地面にしみをつくる。道路は陽炎でフワフワと揺れていた。木陰のココナッツ売りのロバが、人生を後悔するような憂いを含んだ眼で見詰め

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天草・歴史の幻影ー143「サカラメンタ」についてチースクリック師の説明は続く。 「これはキリシタン時代に、司祭のため、秘跡及び準秘跡執行の手引書として作成されたものだ。司祭が執り行う五秘跡、つまり、洗礼、聖体、ゆるし、婚姻、病者の塗油のほか

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忍び寄る危機ここではジョンクロウと呼ばれるカラスが朝日を浴びながら海のほうへ飛んでいった。 ジムは裏庭でガンジャの詰まったビニール袋を自慢のバイクのシートに縛りつけていた。珍しく早朝からのご出勤らしい。五郎は部屋の窓から煙草を吸いながら見送

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天草・歴史の幻影ー142キリシタン研究家・イエズス会のチースリック師に伺ったことだが・・・。  この儀典書はトリエント公会議後、世界で刊行された同種の書物中、時期的にも初期の部類に属し、しかも、内容の徹底、完備の故に世界で有名になった典礼書

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 パレード広場は相変わらず騒々しい。罵声や嬌声や爆笑や歓声が渦巻いていた。 目の前を警察のジープが通り過ぎる。窓からポリスが抱えるマシンガンの銃口が覗いていた。「タケ、あれを見ろ!」「ヒェー、ポリが機関銃持ってやがる!ジャマイカじゃ暴走族は

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天草・歴史の幻影ー141「キリシタン版」に接して(3)●「サカラメンタ提要」 「ドチリナキリシタン」に出会った数日後、上智キリシタン文庫で、「サカラメンタ提要」その他のキリシタン版の複製本を目にした。「サカラメンタ提要」(原名”Manual ad 

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バビロン・システム―古田のジャマイカ・メモ☆ジャマイカ農業は零細小作農家が極端に多いのが特徴だ。十五万九千戸の農家のうち、十一万三千戸の農家の耕作面積は五エ ーカー(二万二百平方メートル)ほどで百年前とほとんど変わらない。農村住民の半数は大

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 五郎を後ろに乗せて、ジムはバイクを走らせた。メッキ部分が多く、派手好きなジャマイカン向きの大昔のホンダだ。ガソリンタンクに描かれたライオンが勇ましい。この国では、あらゆる物がいつまでも大事に直し直し使われるので、ギョッとするほど古い車やバ

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ルードボーイ・ジム  五郎は砂浜に寝そべり、古田のジャマイカ・メモを読んでいた。理江と成田まで見送りに来てくれた古田が、「いい旅をして来い」と言って渡した封筒に入っていたのだ。ジャマイカのことを何も知らない五郎のために、気のいい彼が徹夜でつ

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