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2021年03月08日07:53

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ポチとラッキイー4

そして夕方の散歩になる。妻は出かけ、僕一人での初めての散歩だ。僕は犬同士の喧嘩を恐れ、新聞紙を巻いた棒を二匹に見せ「喧嘩したらぶん殴るぞ!」と脅してから、散歩に出かけた。紐をポチは長く、ラッキイは短くして。とにかく一日目は新聞紙の棒を振り回し、怒鳴りながらの異常な散歩だった。二匹は嫌々渋々互いを気にしながら歩く。脅しが効いたのか、すぐに喧嘩する気遣いは無さそうだ。歩き始めて十分もすると緊張も緩み、犬たちも二匹での散歩に慣れてくる。
(もう大丈夫かな。)
ポチは独りぼっちを憂いていたので、ラッキイの登場が段々嬉しくなる様子で、身体をぶつけて戯れようとする。
「駄目だよ、ポチ」
叱られるとしばし自粛するが、またむずむずして戯れたくなる。ラッキイは歯を剥きだして嫌な顔。「喧嘩するなよ!」と新聞紙の棒を振り回して叫ぶ僕。とんでもない事になったと、嘆きながら散歩する。
そして散歩も後半になり僕の気も緩んだ頃、最悪の事態が起きた。ポチがちょっと身体をぶつけた途端、想像するに、耐えに耐えていたラッキイの神経がプツンと切れた。凄まじい唸り声をあげてポチの喉に噛み付く。怒ったポチも相手の足を噛む。それは一瞬の出来事だった。
 僕は必死で二匹を引き離そうとした。新聞紙の棒で殴っても無駄だった。足で蹴り、首輪を握りポチを引き離し、ポチの代わりに襲うラッキイと戦う。栄養失調でフラフラなのに、ひどく獰猛でふてぶてしい。殴られても蹴られても、キャンとも言わず、唸って噛み付こうとする。僕はあちこち噛まれた挙句、やっと二匹を引き離し鎮めて散歩を再開した。そして頭に浮かんだことがある。
 (捨ててこようかな、ラッキイを・・・)
 これが、その後何十回となく頭に浮かんだ同様の思いの一回目だった。
 散歩中の喧嘩はこれきりで、平和な日々が続いた。飢餓状態から解放されたラッキイはみるみる元気になり、栄養失調が原因で抜け落ちた毛も生えだした。しかし筋肉が未発達で走れずジャンプできず、半年くらいはポチに馬鹿にされていた。老けてはいるが一才前後か。とにかく檻の中か、繋がれたままの哀れな生活だったのだろう。野良犬暮らしも長く、たまに放すとゴミやウンチを食べるのには閉口した。
 桑の葉などの葉っぱもよく食べ、食べなかったポチも食べるようになる。軽々とジャンプするポチが羨ましいラッキイは、潰れた蛙のような変な格好で跳び、僕に呆れられた。二匹は一見仲良しそうだが、ポチはラッキイを(俺のように走れも跳びもできない軟弱者)と見下し、ラッキイはポチを(小うるさいチビ)と白眼で見ていた。だから一年ほどの間、何かの拍子に喧嘩になっては、我々をガッカリさせた。   
 近くの林道で放して遊ばせる。ポチが挑発して逃げ、ラッキイが追いかけ、元気に走り回る。走るのに飽きると、喧嘩ごっこが始まる。ワイワイ言いながら互いの足や首に噛み付こうとする。でもそれは甘噛みで本気ではない、と思っていると突然ラッキイが怒りだし、ポチが噛まれて僕たちは慌てる。ラッキイは皮膚が弱いのでそうなるのだが、とにかく僕は(あーあ、捨ててきたい。)とまた思う。
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