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2021年03月07日07:35

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ポチとラッキイー3

そして一年が経ち、ポチとの生活が軌道に乗った頃、また悩みが生じた。近くの公園で一匹の捨て犬をよく見かけるようになったのだ。どうも観光客に食べ物をタカリながら生きているようだ。たまにしか前を通らないので、しばらく素知らぬ振りをしていた。
僕は車での通りすがりにチラと見ただけなので、白い犬としか知らなかった。捨て犬の世話はポチだけで勘弁してほしいものと、なるべく考えないようにした。しかし運命はそんな暢気を許さなかった。
或る日、妻が言った。「公園の犬がジンによく似ている」と。ジンは二十年近く前に初めて飼った犬で、テリアの雑種でふさふさの毛と大きな円い眼の可愛い顔をした犬だったが、不慮の事故で若死にした。不幸な人生だったので、その犬への愛着も強く。今でもジンと聞くと胸の内がムズムズするのだ。
僕はその日の夕方、食べ物を持って公園に行った。秋の日は釣瓶落としと言うように、公園に着くと辺りはもう薄暗くなっていた。そしてその白い犬はトイレの近くに幽霊のようにぼんやりと佇んでいた。顔がジンに生き写しだ、とその時は思った。
ビーフジャーキイを手にして「おいで」と言うと、なんとなくふらふらした足取りでやってくる。ジャーキイをやると、餓鬼の如く持った手にも噛み付く勢いで貪った。飢えの凄まじさにたじろぐ。トイレの外灯の薄明かりでも、極限まで痩せ衰えているのが分かる。顔は頭蓋骨があるので痩せもせず、毛もちゃんと生えているし、一見正常に見えるのだが、顔以外が悲惨だった。文字通り骨と皮だけの状態で、白くふさふさした毛も満足に生えているのは顔と背中だけで、腹も尻も足も尻尾も赤い皮膚が剥きだしだった。
(ジンに似てなければ、とても飼う気にならないな。)と思う。
そして、さあどうしようとも思った。ここまで来たらジンの供養のためにも飼ってもよいのだが、なにしろ初対面だ、無理やり車に乗せて噛み付かれても困る。彼もふらふらしても、噛み付く力は残っていそうだ。
しばしの思案の間、白い犬はトイレにきた人に物欲しそうに近寄る。頭に閃くものがあった。
(そうだ、試してみよう。)
僕は車からロープを取り出して、犬に話しかけた。
「おいで!一緒に散歩しよう。」
白い犬は嬉しそうに毛の剥げた尻尾をゆっくり振った。首にロープを巻くと、いそいそと歩き始める。(やった!)僕は公園をゆっくり一回りすると、車に誘った。
「さあ、家に行くよ。車に乗ろう。」
彼は分かったように大人しく車に乗り込んだ。こうして我が家は狂瀾怒涛の日々を送ることになる。
その夜は車内で泊まりポチとの対面は翌日だったが、朝起きると車内に下痢便が飛び散っていた。僕は最初の溜息をついた。
白い犬は救出された幸運を記念して、妻によりラッキイと命名された。ポチも初めは怒ったが、淋しい山の生活にうんざりしていたので、すぐに歓迎ムードになる。部屋の両側にそれぞれ繋ぐが、すぐ吠えなくなった。朝の散歩は二人で手分けしたので問題なかった。
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