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2021年03月05日08:04

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ポチとラッキイー2

第一章 捨てられた犬たち

 ポチが我が家に来たのは、三年前の夏の頃だ。最初に見かけたのは山の麓で今まさに捨てられようとしている時だった。山道沿いの広場に軽トラックが停まり、二人のデブ女が荷台の檻から芝の仔犬を一匹放そうとした時、僕たちの車が通りかかったのだ。
 (あっ、捨てるつもりだ。)
 僕は直感した。案の定それからそこを通るたびに仔犬を見た。いつも一人ぼっちで、捨てた飼い主を待つようにお座りして道路を眺めていた。胸が痛んだ。しかし愛犬を老衰で喪ったばかりで、飼う気にならない。
 二日経ち三日経っても律儀に仔犬はいた。誰かが救出する兆しも無い。そして四日目の夜、激しい雨が降る。久し振りの大雨で雷も鳴っていた。僕は暗い寝床で哀れな仔犬の事を想った。我慢の限界だった。もう放っておけない。
 翌日の昼前、様子を見に山を降りた・少しやつれた仔犬がいた。ドッグフードをひと山と魔法瓶の蓋に水を入れる。仔犬は離れて様子を見ているが、近寄る気にはならないらしい。とにかく水と食料を置いて立ち去る。これからどうなるか、神のみぞ知るだろう。
夕方行ってみると、仔犬はいなかったがドッグフードはきれいに無くなり、魔法瓶の蓋にはおもちゃにしたような噛み跡があった。
 (差し入れは気に入ってくれたようだ。)
とりあえずホッとする。
翌日も、翌々日も差し入れを持っていく。仔犬も顔馴染みになり、段々近づいてくる。そして三日目の夕方、初めて頭を撫ぜさせた時、がばと捕まえた。仔犬は抵抗もせずに大人しく、車に乗せると安心したように寝そべった。
(やれやれ、犬との生活がまた始まる。)
 これがポチとの出会いだった。たいていの捨て犬は放浪し、人を恐れるので保護が難しいのだが、生後七ヶ月ほどの仔犬で捨てられたばかりだったのでうまくいったのだろう。ポチは小型犬の柴犬としても特に小さく、初めの頃は「小指一本で散歩できるね。」と言われるほど非力だったのに、みるみる筋肉が付いて逞しくなった。散歩ではこっちが文句言うほど紐をぐいぐい強く引き。山や谷も飽きずに駆け回りケロリとしている。だから僕は彼を小さな巨人と呼ぶ。
しかし困ったことが一つあった。それはとにかく神経質で、事あるごとに際限なく吠えることだ。(だから捨てられたんだ)と思うほど、吠えて吠えて吠えまくる。新聞屋さんに吠え、郵便屋さんに吠え、山に来た人々に吠える。たまに町に降りて公園で散歩すると、他の犬に吠えまくり、散歩が恥ずかしいと妻に言われた。まあとにかく溜息をつきながら共に暮らし始めた訳です。
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