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2021年02月14日09:14

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日本のコロナ対策が「非科学的」−2

過剰な患者隔離を前提にPCR検査を抑制無症状者の放置が蔓延の原因だ

 日本が「隔離」に消極的というと、違和感を抱かれる方も多いだろう。日本では、感染症法に基づき、感染者は強制的に入院隔離されている。第3波では対象は高齢者と基礎疾患を有する人に縮小されたが、コロナにエボラ出血熱並みの対応をしている先進国は、私の知る限り日本以外にない。他国では、感染者は基本的に自宅あるいは宿泊施設で「隔離」している。日本のようなことをしていたら、入院病床がいくらあっても足りない。

 病床不足を緩和させるために、厚労省が採った方針がPCR検査の抑制だ。コロナ感染はPCR検査の結果に基づいて診断される。検査を抑制すれば、見かけ上、感染者を少なく見せることができる。コロナは無症状の感染者が多く、彼らが周囲にうつす。おまけに感染力が強い。

 だからこそ、これだけ世界中で拡散した。ところが、PCR検査を症状がある人だけに限定した日本は、このような感染者を「隔離」できなかった。これが、東アジアで日本だけが国内でコロナが蔓延した原因だ。

 無症状感染者の問題を世界が初めて認識したのは2月のダイヤモンド・プリンセス号の経験だった。それ以来、無症状感染はコロナ研究者の最大の関心事の一つだ。例えば、世界で最も権威がある医学誌の米『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』12月17日号に掲載された原著論文4つのうち2つはコロナの無症状感染者をテーマとしたものだ。残る2つはコロナワクチンである。世界の専門家が、どれくらい無症状感染に関心を抱いているかご理解いただけるだろう。

『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』12月17日号に掲載された2つの無症状感染を扱った論文は、米海兵隊の新兵および米原子力空母を舞台とした集団感染を扱ったものだが、特に前者の臨床的意義は大きい。それは前向きの介入試験だからだ。綿密な計画に基づき、網羅的にデータが収集されている。

 この研究の対象は1848人の海兵隊員の新兵だ。彼らは2週間の自宅隔離後に、サウスカロライナ州のシタデル軍事大学に移動した。訓練を開始するにあたり、さらに14日間の隔離下に置かれた。その際、到着後2日以内に1回、7日目、14日目に1回ずつ合計3回のPCR検査を受けた。

 この研究では、最終的に51人(3.4%)が検査陽性となった。意外だったのは、51人全てが定期検査で感染が確認され、46人は無症状だったことだ。残る5人も症状は軽微で、あらかじめ定められた検査を必要とするレベルには達していなかった。以上の事実は、若年者においては無症状感染が占める割合が大きいことを意味する。

 さらに、51人の陽性者のうち35人は、初回のPCR検査で陰性で、その後の定期検査で感染が判明した。コロナの潜伏期間を考慮すれば、大部分は施設内で新たに感染したのだろう。以上の事実は無症状の感染者を介して、集団内で感染が拡大したことを意味する。もちろん、無症状感染者はせきをしない、たんも吐かない。症状がある感染者と比較して、周囲に感染させるリスクは低いと考えられている。

 ただ、若年者の多くが感染しても無症状であるとすれば、感染者と濃厚接触者にウエートを置いたクラスター対策では不十分なことは自明だ。日本の第3波では若者の感染者が多く、家庭内感染が問題となっているのも当然だ。

検査は精度より頻度が重要との研究結果
PCRと抗原検査の併用が最有力との見方
 感染拡大阻止には無症状者も含め、徹底的に検査する必要がある。このことは、今や世界のコンセンサスだ。12月2日には、医療政策研究のトップ・ジャーナルとされる『ヘルス・アフェアーズ』誌が「第1波ではPCR検査体制の強化が各国での流行を抑制した」という論文を掲載し、PCR検査の回数を増やすことが、有効性が証明された唯一の対策と結論している。

 さらに11月20日には、米コロラド大学の研究チームが米『サイエンス・アドバンシズ』に、大都市で大規模な検査を週2回実施する場合、精度は低いが検体採取から診断までの時間が短い迅速検査(主に抗原検査)では、基本再生産数(R0)が80%低減できる一方、検体採取から診断までに最大48時間かかる精度の高いPCR検査では基本再生産数をわずか58%しか低減できなかったと報告している。検査は精度より頻度が大切で、PCR検査にこだわらず、抗原検査も併用して、できるだけ頻回に検査をせよということになる。

 世界は、この方向で体制を整備している。米国では11月17日に、自宅で利用できる検査キット(Lucira COVID-19 All-In-One Test Kit)に緊急使用許可が与えられた。この検査キットを用いれば、30分程度で結果が出る。ただ、このキットを入手するには医師の処方箋が必要だ。

 この問題を克服すべく、12月15日には処方箋不要の抗原検査(Ellume COVID-19 HomeTest)に対して緊急使用許可が与えられた。米国では、利便性を向上させて、検査回数を増やそうとしているのがわかる。

 日本でも同様の動きはある。12月4日に新橋駅前に「新型コロナPCR検査センター」がオープンした。ウェブで予約すれば、当日、検査センターを訪問して唾液を採取するだけで、翌日にはメールで結果が届く。1回の費用は3190円だ。同様の検査センターは続々と立ち上がっている。どこも希望者は殺到しているそうだ。

 私は、この動きこそ、日本のコロナ対策の迷走を象徴していると考えている。新橋の検査センターを運営しているのが木下工務店グループだが、同社の主たる業務は工務店だ。検査会社ではない。それで、これだけのことができる。

 安倍前首相は繰り返し、PCR検査体制を強化すると公言してきた。厚労省は一体、何をしてきたのだろうか。厚労省は、今こそ、民間主導の検査体制の確立を支援すべきだが、実態は反対だ。

いまだ偽陰性にこだわる厚労省の医系技官
このままでは“第4波”で経済も五輪もアウト
 12月16日、朝日新聞は「民間PCR施設、都心に続々 ばらつく精度、陽性なのに『陰性』も 厚労省が注意喚起」という記事を掲載している。私はこの記事を読んで、どのような根拠に基づき精度に問題があると主張しているのかわからなかった。PCR法も偽陰性は生じるため、それと比べて問題があるという根拠を示さなければ、単なる営業妨害だ。

 厚労省も、その意向をそのまま報じるメディアもいただけない。国家をあげて検査体制を強化しようとする世界とは対照的だ。

 このような厚労省の対応は厚労省が従来の方針を変更しないことを意味する。厚労省は一貫して、PCR検査を抑制してきた。シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」(船橋洋一理事長)の調査により、政府中枢に対して「PCR検査は誤判定がある。検査しすぎると陰性なのに入院する人が増え、医療が崩壊する」と説明に回っていたことがわかっている。

 8月まで医系技官のトップである医務技監を務めた鈴木康裕氏は、10月24日の毎日新聞のインタビューで、「陽性と結果が出たからといって、本当に感染しているかを意味しない。ウイルスの死骸が残って、それに反応する場合もある」とコメントしている。

 10月29日のコロナ感染症分科会に提出された資料には「偽陽性の問題」が取り上げられ、その頻度は0.1%とされている。これまで鈴木前医務技監や尾身会長が主張してきた1%から大幅に“引き下げ”られたが、いまだに偽陽性のリスクを主張している。

 実は、この数字には何の根拠もない。また、偽陽性は完全にゼロではないが、しっかり条件検討したPCRでは、限りなくゼロに近いというのが世界の専門家のコンセンサスだ。世界中でこれだけPCR検査が実施されているが、偽陽性が大きな問題となった国がないことが、その証左だ。

 厚労省や専門家の主張は科学的に合理的でない。このような見解を基にした施策は、必ず失敗する。それが第1波では東アジアで一人負け、第2波では欧州主要国にも追い越された原因だ。

 第3波で、このまま感染が拡大すれば、早晩、緊急事態宣言のような強硬手段を取るしかなくなるだろう。大きな経済的ダメージを与えながら、収束するはずだ。ただ、このままPCR検査を抑制し続ければ、せっかく「荒療治」をしてコロナの流行を抑えても、再燃は避けられない。第4波が日本を直撃する。それは第3波を克服し、ようやく立ち直りかけている日本経済をさらに悪化させ、東京オリンピック・パラリンピックの中止を余儀なくさせる。これでいいのだろうか。

 世界中でコロナ研究が進み、『ネイチャー』や『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』などの一流誌で、その成果が報告されている。このような研究活動を通じ、グローバル・スタンダードは形成されている。我々は海外から学び、合理的な対応をしなければならない。厚労省も尾身会長も、これまでのコロナ対策を検証し、方針転換すべきである。

かみ・まさひろ/兵庫県出身。1993年東京大学医学部卒業。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターでの診療や研究、東京大学医科学研究所特任教授を経て2016年より現職。近著に『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』(毎日新聞出版)。
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