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2020年11月23日09:16

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キリシタン紀行 森本季子ー288 聖母の騎士社刊

紀州の秘境 龍神と教会ー1

紀州の秘境 龍神と教会
 
一、龍神への道
●南部川ぞいに
 車は南紀の南部町を過ぎ、南部川沿いに山地へ向かっていた。
 季節は五月、新緑が陽光に輝いている。
 川向こうの杉林の中に備長窯(びんちょうがま)が人気もなく、ひっそりと据えられているのが見えた。備長炭を焼く窯である。ウバメガシを原料に、特殊製法による白炭で、世界的名炭とさえ言われた紀州の特産であった。今では生産もわずかだが、地元には保存会もあると聞く。備長炭の窯をこんな場所で目にするとは思い掛けなかった。それも「備長窯」の立札が無ければ見過ごしてしまうところだ。
 左手は山の崖、右手は谷に落ち込んで、底を川が流れている。二車線の道がいつの間にか一車線に細まって、山を掻き分けるように登ってゆく。車を運転するのは龍神教会のホーガン神父(聖コロンバン会所属)
 「対向車が来たらどうしますか」
 「お互いに譲り合って、少し広い場所までバックしてね」
 師は事もなげに答えた。めったに対向車があるとは思えないが、ともかくこれでも国道四二四線。バスも通るのだという。私は東京の修道院のそばを通る二四六号線を思い浮かべた。六車線の幅いっぱいに騒音をまき散らして走り抜けるあらゆる車種とバイクの道。日本はまだまだ広い、こんな仙境へ通じるような道もあるのだ。
 南部川はいつか姿を消し、山はますます深くなる。これを更に進んでいって、人里があるのだろうか、と疑問に思うほど、森閑として人らしい影もない。
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