天草・歴史の幻影ー29
天草の大江に信仰の使者がやってきたのは明治六年(一八七三』四月。「キリシタン禁制」の高札が撤去された年である。大江の浜に小舟を漕ぎ寄せたのは、長崎港外・神の島の漁師、西政吉である。彼は熱心な復帰キリシタンで、プチジャン師の依頼により、大江に潜伏キリシタンを訪ねたのだった。政吉が最初に接触したのは、大江村の山中・野中集落に住む満田嘉吉である。彼は政吉の説くキリストの教えに深く感銘して入信した。その後に面白い挿話が続く。
嘉吉は兄徳松の嫁・トメの人柄を見込んで入信をすすめ、徳松の了解も得ずに、政吉の船に乗せて長崎へ送り出してしまった。怒った徳松は妻を連れ戻しに追いかけていった。
妻を見つけ、ついで大浦天主堂でローケーニュ神父に会う。徳松もここで師からキリストの教えを聞き、また立派な天主堂を参観してひどく心を打たれ、ついに夫婦そろって受洗した。そればかりか宣教師に願い、大江への帰路、神之島から伝道師・中瀬弥市を伴った。その時から大江で布教活動が始まり、野中を中心に入信者が増してゆくのである。
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