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2020年06月28日06:53

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キリシタン紀行 森本季子ー159 聖母の騎士社刊

天草・歴史の幻影ー23
川口トシエさんもその一人で、主人没後は一人暮らしで、収穫物を都会の息子たちに送るのを無上の楽しみにしている。「大江が一番気楽」と、一人暮らしを気にしていない。住めば都である。近所には親戚の同じような老人たちの家庭がある。
 トシエさんは私たちを納屋につれてゆき、
 「一人では腐らしてしまうから、いくらでも持っていっておくれ」
と、バンカン(夏みかんの一種)の山を指さした。
 「ありがとう、もらっていくわ」
シスター松下は少しも遠慮しない。
 川口家を辞して道路に出ると、若い主婦が、
 「シスター、ビワを持っていかんかね」
と、声を掛けた。彼女は収獲したばかりのビワの大袋を持っていた。
 「ありがとう、もらっていくわ」
 シスター松下はあっさりとそれもバンに積みこんだ。後で分かったのだが、万事この調子で、人の好意は何でも即座に受ける。そして、それをまた持たない人々にせっせと分配して歩く。〈もらいっぷりのいいシスター〉、私が彼女にたてまつった愛称である。


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