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2020年01月24日05:27

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キリシタン紀行 森本季子ー23 聖母の騎士社刊

●鬼岳

 病院を後に、一行の車は福江の石田城前を通過して鬼岳へ。土地の人はオンダケと呼ぶ。五山からなる鬼岳火山群の主峰で、中央が臼状をなしている。全山芝生に覆われた休火山というのは珍しい。しかも標高わずかに三一七メートル。鬼岳という恐ろしげな名前とはおよそ不似合いである。私たちは最年長七十五歳のシスターを先頭に、息も切らずに登りつめた。

 山頂の高原からは福江平野と港町、湾内の島々やあちこちの岬が見渡され、はるかに水平線が霞んでいる。ここでは午後三時半はまだ陽が高い。この天然の展望台でシスターたちは深呼吸して、一日の精神的緊張をほぐした。ここからの日没風景は素晴らしいと聞いている。

●鐙瀬溶岩海岸

 鬼岳の南側に鐙瀬(あぶんぜ)溶岩海岸がある。太古、鬼岳火山の噴火によって流出した溶岩が海中に押し出し、七キロにもわたる溶岩海岸を造った。芝生に覆われた優しい姿の鬼岳も、かってはこれほど激しい火山活動をしていたのである。

 マイクロバスを下車して海岸に下る途中が、小公園で、フェニックスや蘇鉄など亜熱帯植物が大きく繁っている。海紅豆(かいこうず)がくれない色に燃えていたのも目を引く。小公園の奥で道を左折すると突然溶岩海岸が現れた。アッと声をあげるほどの奇観である。青い海と奇怪な溶岩の塊が造る海岸線が見渡す限り続いている。このすさまじい溶岩の累積を目にした五島人の先祖が、その原因である山を鬼岳と名付けて畏怖したのであろう。これまで私たちの目に映った五島の風景とは異質の眺めである。これもまた神の創造の一部であることを思いながら、岩から岩を危なげにつたい歩いた。

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