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2019年07月29日10:15

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蟻の街の子供たち 北原怜子(きたはらさとこ)−77

聖母文庫 聖母の騎士社刊

蟻の子たちの作文集

蟻の街とはどんなところか
                       宮坂源一

 蟻の街とはどこにあるか?所番地は台東区浅草聖天街六十三番地、地図にすると一番の目あては言問橋、遠く右手に松屋が見える、左手には隅田プールのとびこみ台が見え、前には隅田川がにごった水とごみを川下にはこんでいる。その向こう岸には桜の木がどこまでもつづいて桜並木をつくっている。春には見事な花であろう。そのあたり一面は隅田公園となっているので言問橋を渡って右側の橋のたもとをおりるとまん中に池がありそのまわりを立木がとりまいている。このあたり一面は景色がよい。
 それにひきかえ蟻の街の様子はどうか。まず道のきたない事はどうだ。ちょっと雨がふるとすぐぬかるみになる。雨がふった後の三日ばかりはナガグツをはかなければならない。ゲタなんかはいたらたちまちどろだらけ。その次にきたないのは「家」、なにしろ屋根の骨組だけあったのを屋根を作り、かべをつけ、ゆかをはってやっとすめるようになったんだから。せまい八じょう位しかない室に、五、六人の人間が、ねたり、食事をしたりする。中には万年床をきめこんだりしている人があるから自然家の中が不衛生になる。きたなくなる。次に便所。今のうちは新しいからいいが、古くなったらだんだんきたないところが目だってくるだろう。なぜかといえば安田さんのそうじがただとおりいっぺんの水でぬらしておけばいい主義だからちっともつやが出ない。
 そういうところにすむんだからやっぱりきたない人間がすんでいる。たんにふくそうだけのことではない。心のよごれもそうだ。
 酒をのんであばれては人にめいわくをおよぼす。金の前には悪いことでもすぐそれに組する。その金のためにずいぶんけんかをしたのを見た。夫婦げんか、となりどうしのけんか、なかまどうしのけんか、中にはブタ箱にはいったのをじまんしている人間もある。
 これはある夫婦げんかの一例。おじさんがおこってひっぱたいたので、おばさんが、「さあ、ころせ、ころせ」とあばれだした。見かねてとなりの人がとめて意見をしたら、おばさんが「おらあ、やくざだから、親分のところにいたんだといっていばった。
「それだからって、そんならんぼうはしなくてもよいだろう」といったら、「おらあブタ箱にもはいったから気が荒いんだ」といっていばったので、とめた人が、「おばさんがブタ箱にはいったのが花かね。そんな人間はちっとも花じゃねえよ。花なら毒花だ」といったらだまっていた。

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