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2019年06月16日07:45

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蟻の街の子供たち 北原怜子(きたはらさとこ)−41

聖母文庫 聖母の騎士社刊

真弓様
 あなたの心の悩みを治療する処方箋を送れ、というご注文に対して、大変とりとめもないことばかりを書きつらねましたが、私の気持ち分かって頂けましょうか?
 およそ、人間に良心がある限り、この世の中に、飢えに苦しみ、寒さに泣く、数多くの兄弟姉妹があると知りながら、それを見殺しにして、笑ってはいられない筈です。それなのに、私たちは、子供の頃から「慈善」と称して、時々僅かばかりの寄付をしたり、貧しい人々を慰問したりしただけで、大層いいことをしたと思い上がるようにしこまれてきました。考えてみると、なんという恐ろしい「良心のモルヒネ」だったことでしょう。いかなる病気も、麻痺剤では根治できないように、ひとりよがりの「慈善」だけで、この世の中から貧乏はなくならないことを、この歳になって、初めて私は知りました。
 クラスでも、成績優秀だったあなたに、もうこれ以上、何も書き添えることはないと信じます。ただ、強いて繰り返すならば、例のコリント後書の一語に尽きます。
「富める者にて在しながら、己が貧しきを以て、汝等を富ましめんとして、汝等の為に、貧しき者となり給いしなり」
                          さようなら

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