世の中には名画座と称する映画館がそこそこある。
お客はなんらかマニアックな指向を持つ層が中心だ。
ではマニアとはなにか。
僕なりの定義を述べるとシコシコだ。
いやつまりさ、世間からどこかずれたところでシコシコやってる者。
簡単に言うとひねくれ者、かっこつけた言い方だと希少種だ。
したがって、絶対数は少ない。一定のエリアを想定するとその傾向が露わになる。
あるエリアに棲息するマニアの絶対数は主としてそこの人口密度に左右される。
一般人とマニアの比率はおおむね不変だからだ。
なので大都市圏から地方圏に移るにしたがって、ただでさえ希少種のマニアの数はますます減る。
なので、世間一般向けのシネコンが日本全国で我が世の春を謳歌しているのに対して、マニア向けの名画座が存続できるのは一定数のマニアックな客が棲息している大都市圏にならざるを得ない。
これは都会人と地方人のセンスの差異によるものではなくて、単なる母数の大きさに起因する問題だと思うわけだ。
岩手県の県庁所在地である盛岡から新幹線で四つ目の一ノ関駅で降りて、そこからバスかタクシーを使ってゆく場所に所在するジャズ喫茶ベイシー。
ベイシーのようにそういう地方でも名声を維持し続けて、全国のジャズマニアを吸引する存在はそれこそ希少種と言わざるを得ない時代なのだ。
そういう時代にもっとも人が密集していてその分マニアも多く棲息しているので、マニア向けの興行が成り立ちうる東京を生活圏としている自分は恵まれている。
これは率直な実感だ。いろんな意味でマニアな性向を持つ者だけに。
名画座でいうと、大きくは二つの形態に分かれるように思う。
マニアック度が薄いのと濃いのだ。
薄い方は世間一般でいうところの名画座。評価が確立している昔の映画を上映する館だ。
たいていの人はマニアまでいかなくとも自分が若かりし頃に流行った映画に思い入れがある。 したがって、そういう作品を上映すれば一定の客の入りは見込める。
そういう興行を打っている映画館だ。
これに対して、マニアック度が濃いのはアートシアターとカタカナにして呼ばれるときがままある。 ただ今現在、リアルタイムで作られた映画だけど一般受けはしそうにない、したがってシネコンにはそっぽを向かれる、往年を懐かしむお客を相手にするいわゆる名画座からも相手にされない。
しかし濃いマニアは来てくれるかも。 そういう興行を打っている映画館だ。
前者の薄い方の代表格は池袋のこの館であろう。
僕も原爆特集と銘打ったこの二本立てを見たり
二人のジャン特集の四本立て(
)を見たりして愛用している。
二人のジャンというのはゴダールと
ピエール・メルヴィルね。
これに対して、後者の濃い方の代表格は神保町のこの館であろう。
自分は前を通ったことは数限りなくあるけど、実際に入ったことはない。
やっぱねえ、これはイランの名作だ、こっちはアフガニスタンだと言われてもねえ。
食指は動かなかったんだよ。
ただ、このホールが人気の先鞭をつけたこの作品は銀座の別の名画座で見た。
リリアン・ギッシュとベティ・デイヴィスという往年の銀幕の美女のお婆さん二人のドラマ、見応えあったよ。
そんなこともあって、渋谷のこの館はいっとき愛用していた。ここも一般受けしそうもない今のリアルの作品にこだわっていた。
メジャー館が手を出さない中で唯一ここだけが火中の栗を拾ったこのイスラエルの戦争映画なんか、欧米や日本の作品にはない切迫感の塊みたいでね、背筋が震えた。
だがしかし、岩波のような名門ではない。一般の人が振り向かないマイナー作品だけを上映していたのでは、人が密集する帝都でさえ採算が合わなくなったのだと思う。
シアターN渋谷が閉館して久しい。
そういう中、新宿のこの館はマイナー作品を上映しつつ独特のオーラを放ち続けている。
どのくらい続けているかというと、今年でなんと開業100周年なんだと。
僕はここも岩波ホール同様に館の前はしょっちゅう通っていた。
新宿駅中央東口からルミネ横の階段でつながってるんでね。
呑み屋街や紀伊國屋への通路として利用していたからだ。
だがしかし、これまた岩波同様に実際に入ったことはなかった。
例えば、先月その通路を歩んでいたときに目の前にドバっと出現した看板がこれ。
そりゃさあ、おいらはかつてブロンソンが好きだったし、田口トモロオとみうらじゅんの共著作も愛読書だけど。
ブロンソンとクリソツのハンガリーの人が主役なんだぜえ
デス・ウイッシュばりにバリバリに処刑モードだぜえ
と言われてもねえ。
まったく食指は動かなかった。
その新宿武蔵野館に今週水曜日に初めて足を踏み入れた。
我らが総帥とツーマンセルだった。
トリオを組んでいる巨乳派は来れなかった。奥さんと先約をしてしまってたんでね。
同じようなことは総帥にもあった。この仏映画をもう一回見ようぜとなったとき。総帥は奥さんと先約をしていたので不参加だったのだ。
で、僕はそのとき巨乳派と交わしたのとまったく同じ会話を総帥と交わした。
「嫁と約束しちまったのではな」「うむ、それは優先せざるをえない」
ええと。。ここまで読んでくださったマイミクの皆さん、この日記のタイトルがなんで「音楽に痺れた夜」なんじゃ、と思っておられると思います。
それはですね、この新宿武蔵野館で僕らが見た映画がこれだったからなんです。
これまたマイナー。どれくらいマイナーかというと、日本全国で栄えある封切館になったのは東京のここと名古屋の一館だけらしい。
どういう話かというと、時代は1970年代っぽいテイストが満載だけどたぶん現代。
なぜならディズニーランドが大事なキモになるので。
舞台は海辺の田舎の住宅街。たぶん千葉。なぜならディズニーランドなので。
そこのツッパリの話だ。主人公の三人組はやけにケンカがつええ。らしい。
そいつらがツインベースにドラムのバンドを組む話。
で、どうだったか。 総帥と僕は上映直後、同時に感想をひとこと発した。
素晴らしい
どのくらい素晴らしかったかというと、僕はパンフレットを買った。一冊千円也。
僕はめったに映画のパンフは買わない。 例えば去年、アニメや実写版、新作、旧作を何十本も映画館で鑑賞した中で、感極まってパンフを買うに至ったのはこの2作だけだ。
今、手元にそのパンフを置いてこの日記を書いている。
なにしろ、タイトル通りテーマは音楽なので、多数のミュージシャンが参加している。
なので、関係者の間ではこの映画のことは以前から話題になっていて、実際、お客の中には業界人が多数紛れていたらしい。
といっても、僕にはなじみのないネームばかり。 wikiもまだないので、頼りはパンフだけなんだよ。
例えば主役の声をアテた人は知る人ぞ知るミュージシャンなんだそうだけど、知ってる?
あるいは、主題歌を担当したのはあのドレスコーズ、志摩遼平だっていうんだけど、ドレスコーズのことを知っている人もあんまりいないと思う。少なくとも僕は知らなんだ。
しかし、総帥は知っていた。前回の日記で末井昭のことを話題にしたときとかぶるフレーズなんだけど。彼はアングラ全般に通じているんだよ。
なんで知ってるかというと、「セケンノハテマデ」に出ていたからだと。
レース、ネコ、東京と大阪の都心生活者、そしてバンドに精通している天才漫画家サライネスがそのバンドの連中を主人公にした作品がある。
その最後でサライネスがスペシャルサンクスを送ったのがドレスコーズだと言うので、自分の蔵書でチェックしてみたら然りだった。
さらに総帥は「音楽」のロックフェスにワキで出てひでえ歌を演ったバンドも実在していて、セケハテにも登場するという。
さらにさらに総帥は岡村靖幸のことも知っていた。
なぜなら、これまた新進気鋭のミュージシャンが寄ってたかって作り上げたロックンロールアニメのOPを担当していたからだ。
まことに一つのことに精通すると、ほかの分野でも識者になれるという好例であろう。
しかし、70年代のヘヴィーロックについては僕の方が通じている。
物語の白眉のステージに登場したダブルネックギター
あれはギターの三大神様の一人が愛用したモデルだ。
そのダブルネックギターでブレイクする男のやさ声、ひいてはヴォーカルをアテたのが平岩紙。 ライバルのツッパリの声をアテたのが竹中直人。
スタッフ、キャストの中で僕が馴染みがあったのはこの二人のみ。
しかも画はこのヘタウマ調。
しかし素晴らしかった。
吹きまくりで痺れっぱなしの71分だった。
隣の席からも笑い声が聞こえてくる。なので、その若いのと笑いのツボが一緒なことがわかる。館内全体でも波長が合ってる感じだった。
出だしの「マカロニ拳法」でくすっと来て、アッパクンにはゲラゲラだった。
そして、それが音楽の展開にナチュラルに入っていく。
簡単にやっちゃうとこういう話だ。
このショートフィルムでは作品が醸し出している絶妙の「間」は推し量れないけど、空気感みたいなもののいったんは伝わってくると思う。
アニメーション映画『音楽』コメント予告編 2020年1月11日(土)全国公開!
https://www.youtube.com/watch?v=asADrOdlcEY
こんなヘタウマな漫画は見たくないという向きにもつげを好む人はいると思うし。
なによりも、僕のマイミクさんの多くは70年代のフォークかロックのどちらか、あるいはどっちも好きな人だと思う。 そういう人はまずハマる。
「音楽」はそういう作品だ。
今はこういうのが上映される映画館は東京に偏在しているけど、そうでないところにお住まいの人にもDVDやブルーレイという手段がある。
評判の作品はどこに住んでいてもお茶の間で気軽に楽しめる。
名画座が興隆を誇った時代には考えられなかった便利な時代だ。
いずれソフトが出回ると思うので、その際は是非手に取ってみて欲しい。
そんなことで、新年早々拡散したくなる作品に出合えるとは、こいつあ春から縁起がええわい
最後にもう一つお薦めしたいのがスープだ。
総帥とは映画館のあと、恒例の反省会をやった。
で、「音楽」が如何に素晴らしかったか、平岩紙って歌が上手いな、あの女子高生の声ミリキあったなといったことをだべった。
そのとき賞味したサイゼリヤの新作、マッシュルーム・スープがね、コクがあって美味かったんだよ。
しかもコンビニスープより1円安い。
名画座と違ってサイゼは全国津々浦々どこにでもあると思うので、機会があったら試してみてください。
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