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2017年02月12日14:25

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巨星、墜つ

昨日、日記をアップしたばかりなんだけど。

どうしても書いておかなくてはならないことが起きてしまった。

僕がノーテンキな日記をアップして眠りについた深夜、総帥と巨乳派からメールが入っていた。 けど、睡眠中のことだったので気が付かなかった。
今朝、そのノーテンキ日記のレスを書いてるときにろまさんからもメールが入った。 その着信音で気が付いた。 

三人とも突然の訃報を伝えてくれてたのだった。

谷口ジローが亡くなった。 享年69歳。

谷口ジロー氏が死去 漫画「孤独のグルメ」作画
鳥取市出身。テレビドラマ化された人気漫画「孤独のグルメ」の作画を手掛けたほか、「『坊っちゃん』の時代」で1998年に手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。「遥(はる)かな町へ」はフランスのアングレーム国際漫画祭で最優秀シナリオ賞を受賞するなど、欧州でも高く評価された。   日本経済新聞速報

日経新聞の見出しが象徴しているように、最近「孤独のグルメ」がドラマになってヒットしたことで一般にも知られるようになったけど。

僕にとってはそれどころじゃない。

20代の頃にその作品に触れて衝撃を受けて、それ以来ずっと新刊が出るたびに買っては読んで、読んで、読んで、読んできた敬愛する作家なんだよ。

それらの蔵書は浦和の自宅に置いてきちまってるから、印象的なシーンのセリフを引用することもままならない。

いつかはこの作家のことを体系だててmixiに書こうとかねがね思っていたんだけど、まさかこんな形で書くことになるとは。  ああ、無情 


谷口ジローという作家はね、なんというか、フランスのいわゆるフィルムノワールとハリウッドのニューハードボイルドのいいところをミックスしたような世界を漫画の紙面で再現した男なんだよ。

そのハードボイルド時代を経た後は、文芸の香気高い作品を世に送り出し続けた。

で、僕の漫画人生の中で常に別格の存在として輝き続けてたんだよ。

僕だけじゃない。 狩撫麻礼、関川夏央、そして矢作俊彦。
日本漫画界の原作者最高峰の三人が三人ともその表現力に惚れて、シナリオを提供し続けてきた男だ。

しかも、原作なしのオリジナルでも高い水準の作品を出し続けた。

もうねえ、ワンアンドオンリーな漫画家だったとしか言いようのない存在なんだよ。

その膨大な作品群はとてもじゃないけど紹介しきれない。 なにしろ、ほとんど外れがない傑作ばかりなので。 

その中から強いていくつかだけピックアップすると。


最初にこれすげえ!と思ったのは「青の戦士」だった。

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社会人駆け出しの頃、創刊号(だったと思う)のビッグスピリッツに載ったのを目にして、これは・・・今まで見てきた漫画とぜんぜん違うと思った。

ボクシング、それも後楽園ホールでなくラスヴェガスのリングでの中南米のツワモノとの死闘をジャズとロックとレゲエに乗せて描く。 

こんなのは映画でも無理だ、でもこういう拳闘のドラマができればなあという世界をグサッと描いてくれたんだよ。

谷口ジローはこのメジャーなりたての時期に狩撫麻礼と組んだ作品をラッシュした。

狩撫麻礼お得意のキザなセリフがねえ、この人の手にかかるとピタッと決まるんだよ。

中でも、LIVE!オデッセイ。 痺れた。こんなロックの漫画、見たことねえ!だった。

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手元に本がないので、記憶だけでいくつかセリフをあげると。

族上りの男 「女房子供を大事にするのがブルーカラーの取柄なのさ」

ビアガーデン、女子の泥んこレスリングショーの添え物でバンドがデビューするとき。
用意された譜面を投げ捨てたバンドのリーダー、主人公のセリフ。 
「フルボリュームでI Shot The Sherifだ。あの世のボブ・マーレイに捧げる」

バンドの実力を認めた英国の大物プロデューサーが本場でデビューしないかと持ちかけるときの煽るセリフ。
「外タレというだけでキャアキャア騒ぐどこかの国とは違う。イギリスではダルなプレイにはヒールが飛ぶ」


ちなみに僕はRCの「雨上がりの夜空に」をカラオケの持ち歌にしてて、新しい仲間とやるときに一発かますのを得意技にしてるんだけど。

これは「ルードボーイ」で主人公がやくざの二代目襲名のときにマイクをぶんぶん振り回してあの歌をがなったシーンに触発されたからだ。

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谷口ジローはこういう作品を世に送り出す一方で、関川夏央と組んで、これまたいい仕事をした。

代表は「事件屋稼業」。 主人公の決め文句は「TROUBLE IS MY BUSINESS」。 

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もちろん、レイモンド・チャンドラーへのオマージュだ。

僕は主人公の深町丈太郎はそのキャラ立て、リアリティなどからして日本ハードボイルド界が生んだ私立探偵の最高傑作だと思っている。 

ユーモアとペーソスがある分、フィリップ・マーロウをも上回ってるんじゃないか。

こういう人。

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矢作俊彦と組んだのでは、サムライ・ノングラータがある。

矢作ならではの傭兵話を飄々と描いててねえ。 

ジョゼ・ジョバンニなんていう知る人ぞのネームがさらっと出てきちゃったり。 

やっぱり忘れがたい。

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谷口ジローはハードボイルド時代はこういう才人たちと組むことが多かったけど、自分だけのオリジナル作品でも冴えていた。

「ブランカ」なんか、最初はよくある超能力動物のアクションものかと思ったけど。

読めば読むほど味が出る作品で、何回も読み返したな。

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元々、この人は少年ケニヤの石川球太のアシスタントから始めた人なんでね。

動物画には定評がある。 動物の毛の一本一本を描きこむ一方で、その肢体、運動したり眠ったりする姿がねえ、並みじゃないんだ。

そういう谷口の才は後年「犬を飼う」に結実した。老いた犬と彼に愛情を注ぐ夫婦の話。

涙なくしては読めないと評判になった一作だ。

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さらに「猫を飼う」も出た。 これがまたねえ、猫好きにはたまらんのです。

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この犬や猫を飼うを発表した頃の谷口ジローは初期と画風が変わっていた。

オデッセイや事件屋稼業の頃のハードボイルド時代は、アメコミというかフランスのコミック(よくは知らないけど)みたいな洋風の画だった。 要するにバタくさかった。

それが売りで、一見とっつきにくいけどいったん入るとクセになるような味だった。

ストーリーもなにしろハードボイルドだから、バタくさいのが似合ってた。

それがだんだんそういうバタくささというかアクが抜けて、透明感のある画を描くように変わっていってね。 要するに和風になった。

それが明らかになったのは、関川夏央とのコンビで新境地を開拓したこの和ものそのものの作品じゃないかと思う。

坊ちゃんの時代

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この作品でよく覚えているのは善光寺だ。

いや、お袋さんがまだ元気だったころ、あの長野のお寺に家族皆で初詣に連れてったことがあってね。 お参りが終わって時間が余ったんだけど。

正直言って駅前の商店街はたいしたことがなくてね。 息子らの発案で電車が来るまで漫画喫茶で時間をつぶすことにしたんだよ。

お袋さんはもちろん漫画喫茶なんて初めてでさ。なにを読んだらいいかわからない。

で、僕が「坊ちゃんの時代」を渡したら、ハマっちゃってねえ。

それ以来、続巻が出るたびにプレゼントすることにしたんだけど、喜んでもらえたよ。

夏目漱石に始まって、森鴎外、幸徳秋水、石川啄木、で最後はまた漱石に戻る。

この明治人列伝は漫画には興味がない人にも自信をもってお勧めできる。

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というか、この坊ちゃん、犬を飼う以降の谷口作品はむしろ漫画に縁のなかった人に読んでもらえば、漫画の素晴らしさがわかってもらえる佳作ぞろいだよ。

一部だけ貼るとこういう作品たち。

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マスコミが谷口ジローの訃報の冠に乗せがちな「孤独のグルメ」もこの系列の作品です。

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ただ、「孤独のグルメ」はあくまでワンノブゼム。

谷口ジローという人はハードボイルド時代から晩年まで画風を変えつつ珠玉のような作品を紡ぎだしてきた偉大な漫画家だったということをわかってもらえるとうれしいです。

合掌
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