こないだ、カバーソングをテーマにした日記の中で、もとまろの「サルビアの花」をあげた。
これ、フォークソングの勝ち抜き戦で勝ちあがった女子高生たちが次に歌う持ち歌がなくなって、たまたま歌ったのがコッキーポップで放送されたら話題になった。
で、そのまま、作詞、作曲者に仁義をきらないでレコード会社が発売したらヒットしたといういわくつきの歌なんだよね。
その頃僕は中学生でそういう事情は知らないまま、もとまろという正体不明の女子がたどたどしく歌うこの歌を気に入って、ラジオからカセットに録音してよく聴いてたもんだった。
で、そういうことを書いた日記をアップしたら、マイミクのkazzrockさんがこんなコメを寄せてくれた。
「サルビアの花」の件ですが、きみまろ版はしっくりしないです。 ただ歌ってるだけなような気がして… 早川義夫氏は男性の歌詞だから女性が歌うと違和感あると言っていました。 ベッドでの「サルビアの花」って女性の血の事ですからね…
がび〜ん!そりゃ知らなんだ。 あの赤いサルビアの花は女の血のことだったんだ。
ということを念頭において、改めて聴いてみてください。
「サルビアの花」 作詞:相沢靖子 作曲:早川義夫 ヴォーカルは勝手カバーのもとまろ
https://www.youtube.com/watch?v=A63ELtj4iH0
いつも いつも 思ってた サルビアの花を あなたの部屋の中に 投げ入れたくて ♪
そして君のベッドに サルビアの赤い花しきつめて 僕は君を死ぬまで 抱きしめようと ♪
なるほどねえ、これの後の2番の歌詞を聴くと、ほんとにその女を殺したということではなくて、象徴的な意味で使われたんだとは思うけど、言われてみると赤いサルビアは赤い血だ。
当時青山女学院高校の生徒だったもとまろの三人娘は、その後系列の大学や短大に進学してプロ歌手とは違う道を歩んだ。 ただ、「サルビアの花」を勝手にカバーしてそれがもてはやされたことに対しては、後悔の念を抱き続けていたという。
そのうちの一人、旧姓海野圭子さんは30数年後に渋谷のライブハウスで、オリジナル歌手の早川義夫が歌う「サルビアの花」を目の当たりにした。 で、実感した。
「頭をガーンと殴られたような衝撃を受けました。女子高生がうたうような曲ではなかった」
海野さんは会場で配布されたアンケートに自分の素性を明かした上でお詫びを書いた。
後日、早川さんから、この曲を世の中に広めてくれてむしろ感謝していました、という旨の手紙が届いたそうだ。
まあ、この辺りの細かい事情はさっきネットで検索してわかったんだけど。
それ以前にkazzrockさんから、サルビアの花の象徴的な意味を教えてもらったときは、びっくりすると同時に得心するところがあった。
なにかというと、僕はもとまろの「サルビアの花」がラジオで流れた当時、なんかあの歌と曲想が通じるところがあるなあと思ったんだよ。
あの歌というのは、浅川マキの「かもめ」。
この歌、マキさんの一番のヒット曲「夜が明けたら」のB面に収まってた。
「夜が明けたら」も「かもめ」も、中坊の手に負えるような歌じゃないんだけど、たまさか親父がこれが大好きでね。 酔っ払った深夜とかに大音響でステレオでかけてた。
で、いつのまにか、僕もすりこまれて好きになっていった。
後年、僕がジャズに傾倒したのは、マキさんの黒いヴォーカルに感化されてたのが理由の一つなんじゃないかと思う。
それはそれとして、この「かもめ」という歌は今で言うストーカーの歌なんだ。
それはもう「サルビアの花」どころじゃない。
なにしろ、嫉妬に悶えたマドロスは、ほんとに女をジャックナイフで刺してしまうんだよ。
その女の血を表したのが赤いバラ。 象徴でなくほんとに女の血が流れる凄い歌なんだ。
かもめ 作詞:寺山修司 作曲:山本幸太郎 歌:浅川マキ
https://www.youtube.com/watch?v=Ls2tkp_osI8
おいらは恋した女の まくらもとに飛び込んで ふいに ジャックナイフをふりかざして ♪
女の胸に赤いバラの贈り物 かもめ かもめ 笑っておくれ ♪
この港町の殺人の歌の詩を書いたのが寺山修司。
僕がこの人の作品を初めて認識したのは、中学生なりたての頃に流行ったこのアニメだった。
当時、テレビ漫画の主題歌というものは、正義の味方やスポーツのヒーローの主人公の名前を連呼するのが通例だった。
そういう中で、この歌は思い切り異彩を放っていた。
あしたのジョー 作詞:寺山修司 作曲: 八木正生 歌: 尾藤イサオ
https://www.youtube.com/watch?v=TY5qQRmGgNA
その「あしたのジョー」にも、あぶない花のエピソードが登場した。
ドヤ街の悪ガキどもを統率して万引き、カツアゲやりたい放題だった矢吹丈が捕まる。
で、鑑別所で心理テストを受ける。
テスト官が「赤で連想するものは?」と訊く。
丈は「血」と答える。 「そう、真っ赤な血。ぽたぽたと落ちる血を連想するね」
鼻白んだテスト官が「で、では次は花は?」と訊く。
丈 「これまた血だね。ふふふ、こうやってまっすぐ伸びたジャブが顔面に炸裂してさ。相手の鼻からふき出す鼻血を連想するよ」
テスト官 「そ・・そのはなじゃない!野に咲く美しい花だ!」
僕は「あしたのジョー」という一代の傑作は、ちばてつやの力によるところが圧倒的に大きいと思ってるけど。 この辺りのセリフはこれは高森朝雄(梶原一騎)の作だろうな、たぶん。
それはそれとして、寺山修司が女の血の象徴としたバラだけど。
海外ではどうか知らないけど、我が国では薔薇というと、性愛において一定の嗜好を持つ人たちの代名詞になっている。
僕は幸か不幸かそっちのケはまったくないノンケなんだけどね。
幸か不幸かというのは、この世界に生きる人には繊細で美しい作品を生み出す人が多いから。
例えば僕はこの歌が大好きだ。 たとえ、「You」が男のことを謳っているとしても。
僕の歌は君の歌 Your Song 作詞、作曲、歌 ぜんぶエルトン・ジョン
https://www.youtube.com/watch?v=_SJg39QAxDM
さて、こなた薔薇族あらば、かなた百合族もある。
現代では、バラもユリもヲタク世界ではメジャーな存在になっている。
バラの美少年系はこの世界ではBL(ボーイズラブ)と称されていて、池袋サンシャインシティビル近くの乙女ロードを跋扈する女性軍、いわゆる腐女子の涎の的になっている。
一方、ユリはたぶん語源は日活ロマンポルノ辺りにあるんじゃないかと思う。
なので、観客はユリの女子でなく野郎だったわけだけど。
今のアニメ世界でも、そういうのとは一線を画しつつも、主に男のヲタク向けと思われる作品が作られ続けている。
例えば、このJK。 「物語」シリーズの神原駿河(カンバルスルガ)。 よい娘だよ。
で、今期(1〜3月)の放映の中で、とんでもないユリ作品が現れた。
その名も「ユリ熊嵐」。
これはねえ、よう説明せんのです。 一応、地上波の放送なんだけど。
まともに具体的に説明しようとすると、健全な一般市民の方々から人格を疑われてマイミクを切られてしまいかねないので。
とりあえず、PVだけ貼っときます。
https://www.youtube.com/watch?v=PY7LmwROg9A
で、締めはユリから戻って、血を象徴する花の古典的な作品。
僕はかの「ねじ式」はわけがわからないながらもなぜか好きで、ちょくちょく読み返している。
一方、こっちはあんまり読み返すということはないんだけど、女の血を指すタイトルとして、はずすわけにはいかない。
つげ義春 「紅い花」
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