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2020年10月17日09:21

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「望み」

自分の子供が加害者か被害者か。
どちらであっても救いようがないこの究極の選択を描いた、現代社会の闇に迫る作品だ。

石川一登(堤真一)は戸沢市で小さいながらも建築設計事務所を経営し、妻の貴代美(石田ゆり子)、高一の規士(岡田健史)、中三の雅(清原果耶)と幸せに暮らしていた。
だが規士は小さい頃から続けていたサッカーをケガで退部、そこから外泊などを繰り返し、顔にアザを作ったりするようになっていた。
ある年末、貴代美は規士の部屋を掃除中、ゴミ箱から切り出しナイフのパッケージを見つける。
貴代美から相談を受けた一登は規士の部屋を捜索、引出しから切り出しナイフを見つけた。
何の目的か規士に問いただす一登。
だが規士は目的を話そうとしない。
一登はしばらく切り出しナイフを預かる事にした。

年が明け冬休み最後の日曜日、規士は外泊から帰ってきていなかった。
貴代美がLINEで連絡をすると、「心配しなくても大丈夫、まだ帰れない」と返信があった。
そしてTVのニュースでは、事故を起こした車のトランクから高校生の死体が発見され、事故現場から高校生らしき男が二人逃走したたと告げる。
翌日、被害者が倉橋与志彦だと判明する。
雅は規士が電話で「よしひこ」と言う名前を出していたことを話す。
そこに警察から刑事が訪れた。
刑事は、被害者と規士は遊び友達で、その他にも連絡が取れない遊び仲間が数名いるとだけ教えてくれた。
不安が募る中、一登が雅を塾に送っている最中、週刊誌記者の内藤(松田翔太)が貴代美に接触する。
そして内藤は、連絡が取れていないのは規士を含めて3人、つまり現場から逃げた2人のほかにもう1人の行方がわからないと告げた。

翌日、一登が建設現場に挨拶に行くと、建築会社の社長高山(竜雷太)から殺された倉橋与志彦は長年付き合いのある左官職人の孫だと教えられる。
そしてもし規士がこの事件に関係しているのであれば、もう一登とは取引ができないだろうとも言った。
一方貴代美は、規士を探すために高校生が立ち寄りそうな場所を探し続けた。
フードコートで同じ学校の生徒に次々と話を聞く貴代美の姿を見た同級生の飯塚杏奈(松風理咲)が自宅まで来て、一登に、規士のケガは2年生に追わされたもので、それが原因で揉めていたようだと教えてくれる。
同じころ記者の内藤は、規士ににケガを負わせた2年生が何者かに襲われ、病院送りになっていることを知る。

規士は犯人扱いされ、自宅前にはマスコミが押し寄せ、壁には誹謗中傷の落書きがされる。
塾や学校に通うことができなくなった雅は、自分の将来を考えると、できれば兄が加害者ではない方がいいと、一登に対してつぶやく。
一登も息子が犯罪者であるとは思いたくなかった。
しかしそれは、息子が被害者ですでに絶命している可能性をも意味する。
一方貴代美は、たとえ加害者であっても規士が生きている事を強く信じていた。

犯罪加害者の個人情報が簡単にネットに流出する時代だ。
以前から加害者家族のプライバシーについては問題になっていたが、今や加害者と確定する前から誹謗中傷の標的となってしまう。
その誹謗中傷に耐え切れず、場合によっては家族と言えども憎しみを覚える事もあるだろう。
この作品は、家族が加害者か被害者かわからない状況で誹謗中傷を受け、どう考え何を望めばいいのか親でも葛藤してしまうと言う物語だ。
もちろん、その葛藤に正解などない。
どちらにしても、救いようのない結末が待っているのだ。
そしてネタバレになってしまうが、この作品はこの究極の2択のどちらかで結末を迎える。
事件に関与しているものの加害者でも被害者でもなく、事件解決後に無事保護される、などと言う結末ではない。
そんな甘っちょろい結末では、作品として成り立たないのだ。

容赦ない誹謗中傷、そしてそれによる家族の心の揺れ具合など、非常に巧い描き方だと思う。
監督の堤幸彦と言うよりは、脚本の奥寺佐渡子のなせる技だろう。
そう言う意味では完成度の高い作品だと思う。

だが、誰にでもおススメできる作品かと言うと、決してそうではない。
同じような年ごろの子を持つ自分自身、ストーリーが進めば進むほど、観ていて辛くなった。
それは「悲しみ」ではなく「辛さ」だ。
作品のラストで事件の全貌と後日譚が語られるのだが、それを観ても「辛さ」しか残らなかった。

ミステリー作品としては評価されるべきレベルだと思うが、この映画を観に行くのであれば、それ相応の覚悟を決めておいた方がいいと思う。


101.望み


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