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2020年03月28日21:52

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「劇場」(小説)

コロナ騒動で延期になるかもしれないが、来月映画が公開されるので原作を読んだ。
あらすじなど内容については映画の時に書く予定なので、単純な感想だけ。

奥付を読んだところ、長編デビュー作の「火花」より先に書き始めたらしい。
しかし途中で「そう簡単には書き上げられないな」と感じ、実際の演劇関係者への取材などを続けているうちに、「火花」の方を先に脱稿したようだ。
読んだ感想としても、「火花」は最初から入り込みやすかった。
先輩神谷のヒリヒリした生き方、その生き方に共感するもののあまりに過激なため先輩の先行きを案じる主人公徳永、そしてその心配は実は神谷の恋人である真樹への憧れも含まれていた。
徳永が、どこかに明確なモデルとなる芸人がいるのではないかと思われるほどリアルに描かれており、一方神谷も昭和時代だったらよくいた芸人で、平成の世のどこかにもがいているモデルがいるのではないかと思わされた。
個人的には、ラストのオチがあまりにも予想外だったため作品全体の評価も下げざるを得なかったが、ラスト直前までの展開にはかなり惹きつけられた。

一方「劇場」は、真逆に近い構成だ。

冒頭からいきなり、永田の鬱屈した思いがぶちまけられ、そこに沙希が登場する。
沙希と出会ってから、永田はなんとかギリギリで一般人としてとどまっていられるのだが、演劇にのめりこむあまり自問自答を繰り返し、自己の肯定と否定のループ地獄に陥っていく。
その表現がかなりエグい。
作者独特の長めで、しかも心を抉るような形容詞が延々と続く。
読んでいてちょっと気分が悪くなってくる。

そんな作品の中で、唯一の救いはやはり沙希だ。
「火花」の真樹にかなり近い存在で、作者の理想の女性像なのかもしれない。
だが真樹よりもピュアで、もろさもある。
そして沙希が自分の気持ちを隠さず表に出すようになってから、永田の屁理屈っぽい考え方の形容詞が情緒的な形容詞に変わってくる。
そのあたりからとても感情移入がしやすくなっていく。

「火花」と「劇場」どちらが好きかと問われれば非常に微妙だが、個人的には「劇場」はちょっと攻めすぎているかなと言う印象を持った。
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