軍艦史（50）

軍艦史で一つ書き忘れたことがあるので、ここで書いておきたい。時代は１７７５年のア
メリカに遡る。合衆国の独立宣言が１７７６年、まさに独立戦争の真っ最中である。イェ
ール大学の学生、デヴィッド・ブッシュネルが発明した新兵器「潜水艦」だ。

とは言っても電気モーターはおろか、蒸気船もまだ発明されていない時代だ。その動力は
「人力」である。しかしブッシュネルが発明した潜水艦は、人力とはいえ歴史上始めて、
スクリューで推進した船であり、また潜航と浮上にバラストタンクを使用した。バラスト
タンクによる方式は、現在の潜水艦でも常識的に使用されているものだ。

大学生でありながら、ここまでの発明。相当に独創的な才能を持っていた人物のようだ。
この船はカメのような形をしていたことから、タートルと呼ばれた。木製でタールを塗り
鉄製の帯で補強している。バラストタンクへの注水／排水も手動ポンプで行う。

この船はニューヨーク港に停泊中のイギリス軍艦の攻撃に使われた。夜陰に紛れて接近し
て、船底に時限爆弾を仕掛けるという計画だった。しかし実行に移したところ、ハドソン
川とイースト川の河口にあるニューヨーク港は、流れが一定せず思うように目標に近づく
ことができない。結局失敗に終わった。

動力を持たず、人力で動かすという非力なものとは言え、世界初の潜水艦として曲りなり
にも、潜航航行ができたこの船は人気が高く、１９７６年のアメリカ独立２００周年記念
の中のプロジェクトとして、レプリカの製作が行われコネチカット州で潜水航行を披露し
た。また、２００７年にはニューヨークに停泊中の客船、クイーンメリー２にレプリカで
接近した２名が、警察に取り押さえられるという事件も起こった。