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2020年02月22日00:59

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夢について&「夢六話」完結

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 《夢六話》というシリーズを五話まで書いてきてあと一つが残っている。
 これまで書いてきた夢は、もちろん省略などはあるが、基本的な要素は夢の内容に即して書いてきた。だいたい、夢を正確に記述するなんてことはとても難しい。
 
 フロイトによれば、夢は抑圧された願望(欲望)が、睡眠というその抑圧作用が弛緩した条件下で、表現されるものであるという。しかし、その抑圧作用は弛緩しているとはいえ完全に停止しているわけではないので、その願望は抑圧作用=検閲をスルーしやすいように多少姿を変えて(夢特有の言語)描き出されるという。

 だから夢の解釈は日常的な意味の範囲ではとてもわかりにくい。錯綜してたり飛躍があったりで、不合理で論理を超越している。
 だからその解釈には、夢専門の分析家がいるというのだが、いまもそれを専門にしている人がいるのだろうか。

 上に述べたことから、夢の記述の困難さは当然ともいえるが、加えていうならば、弛緩したとはいえ検閲を経て生み出された夢が、その記述にあたってさらに意識的かつ無意識的に二次検閲されてしまうということだろう。

 これらを前提にして、最終話の夢を記述してみよう。読まれる方は、夢の分析家になったつもりで解釈してほしい。

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 最終話だからいい夢を見たいなと、ウツラウツラしながら考えていた。
 すると、夢の神様というか、演出家というかそんなのが現れて、
「最初にお前の左手に触った者がお前の運命を左右する」
 と、予言めいたことをいって消えた。
 まだ半覚醒の状態だったので、それ自身が夢なのかどうかもわからなかった。実際のところ、それは以下の夢の序章をなすものであった。

 珍しく朝の目覚めはスッキリしていた。
 キッチンへいって定番のコーヒーを沸かし、マグカップに入れて部屋へ戻った。そのとき、何かがベッドの向こう側にサッと姿を隠したように思った。不審に思って、マグカップを持ったまま、そちらへ回ってみた。

 驚いたことに、そこには一人の女性が身を潜めていて、見つかったので観念したのか、私の手にすがりつくようにして、
「お願いです。助けて下さい。悪い奴に付け回され、とうとうここへ追い込まれてしまったんです」
 と、哀願した。女優の尾野真千子に似たキリッとした顔立ちの女性だった。
「悪い奴って・・・・」
 と、私は反芻するようにいった。
「本当にいるんです。凶悪な奴が、今頃この家の玄関あたりで見張っているはずです」

 彼女のいうことがにわかには信じ難かったが、一応、玄関に出てみることにした。〈凶悪〉と聞いたので、念のためキッチンから包丁を一本取り出して持っていった。
 玄関をあけると、それらしい凶暴なやつは見当たらず、たまたま通りかかった中年の女性が、会釈しながら軽く頭を下げたが、私の持っていた包丁に気づくと、サッと早足で去っていった。

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 部屋に帰っていった。
「怪しいやつなんていなかったよ。中年の女性がひとり通りかかっただけだ」
「それよ、その女性よ。腰のところをベルトで締める紺色のコートを着てたでしょう」
「そういわれればそんな服装だったが、別に凶暴そうでは・・・・」
「それがあの女の陰険なところなのよ。そんな風に見せておいて、ひとをずたずたにしたり、命まで奪おうとするのよ」

 状況がよくわからないまま立ちすくんでいると、家の周りがなんだか騒々しい。窓から覗くと、パトカーが複数台いて、盾を持った警察官もいる。
 ご近所で事件でもあったのかなと思っていたが、彼らの視線がわが家の方に集中しているのを見て動転した。
 いつの間にか警官隊に取り囲まれている!

 やがて、抑揚を抑えた無機質なアナウンスがスピーカー越しに聞こえた。
「この家にいる男性。ただちに人質を解放し、凶器を捨てて出てきなさい。繰り返します。この家に・・・・」
 え?え?え? この家にいる男性って私のこと? 私が人質を盾に閉じこもっている? と、と、とんでもない誤解だ。

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 表へ出ていってちゃんと事態を説明しようと思った。
 玄関の扉をあけた。もちろん素手のままだ。
「違うんです。これは・・・・」
 と、いう隙もなく両側からとびかかった屈強な男たちによってその場にねじ伏せられてしまった。
「〇〇時〇〇分、容疑者の身柄確保!」
 と、いう声に促されるように、何人もの警官が家のなかへドカドカと殺到した。
 しばらくすると、それらの警官に囲まれるようにあの女性が出てきた。と、同時に、
「〇〇時〇〇分、人質の女性救出!」
 との声が。

 警官によって身柄を拘束されたままで、彼女に向かって叫んだ。
「どうか、今朝からの状況を警察に話してください! あなたを人質なんかにとっていないことを!」
 彼女は、キッとした表情で一瞬、私を見たが、無表情のままでそ警察が用意をした車両に乗り込んでしまった。
「これはなにかの間違いなんです。私は・・・・」
 と、訴えたが、
「詳しいことは署で聞こう」
 と、にべなく拒絶されるのだった。

 そのとき私は、今朝の状況をはっきりと思い出していた。「助けて下さい」と、彼女がすがりついたのは、私の左手だった。右手はマグカップでふさがっていたから・・・・。


 今回の最後の段落については、幾分、創作の要素を含みます。


              (「夢六話」より 其之六=最終話








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