WBO世界フライ級王座決定戦
同級１位
ジーメル・マグラモ(比)26歳
25戦24勝(20KO)１敗
身長163cm
同級３位
中谷潤人(日)22歳
20戦全勝(15KO)無敗
身長171cm
マグラモの父親は元東洋太平洋王者。叔父も世界タイトル挑戦の経験があるボクシング一家。一族の期待を背に世界タイトルに挑戦する。ニックネームの『拳銃使い』は左右のボディ打ちが由来。20KOの内16回がボディブロウ。４回はアッパーによるモノだそうで、接近戦のスペシャリストという印象だ。
対する中谷も日本ボクシング界期待の新星で、中学を卒業すして単身アメリカに渡った強者。順調に実力をつけ、勝率100%、KO率75%という絶好調で世界に挑戦する。
１Ｒ
序盤、マグラモは飛び込んで数発のボディストレート。
中谷の左クロスがクリーンヒットするとマグラモが後退。これは明らかに効いてる。その後も上下に打ち分ける冷静さがある。20戦のプロキャリアがあるとは言え、この若さ、世界タイトル初挑戦、初回にクリーンヒット。これだけの要素が重なれば、無我夢中の乱れ打ちとなってもおかしくないところだが、実に肝が座ってる。その後も左のヒットが続く。
マグラモ９-10中谷
２Ｒ
マグラモも飛び込んで来てアッパーをヒット。
しかし中谷がカウンターの左フックを合わせると、マグラモの上体が泳ぐ。右ボディから左のコンビネーション、左ボディもヒット。
マグラモ９-10中谷
３Ｒ
距離が詰まって頭をぶつけての打ち合いとなるが、中谷は上手く回って相手をペースに乗せない。左ボディが再三ヒットする。
マグラモ９-10中谷
４Ｒ
同じく接近戦。中谷は右アッパーや左ボディを打ち、脚を使って常に動き回る。
マグラモは右ストレートをヒットさせるが、少し疲れた様子。飛び込む所を中谷にカウンターの右フックを引っ掛けられ、そのまま上半身が泳ぐ。足に力が入ってない印象。
マグラモ９-10中谷
マグラモ36-40中谷
５Ｒ
中谷は接近戦が上手い。と言うより体幹が非常に強い。ヒョロッとした体型の中谷と、背が小さい分ガッシリと筋肉質のマグラモとでは、前者はリーチを活かしたアウトボクシング。後者はパワーを活かしたインファイトって図式になるのが普通だ。しかしどういう訳か、中谷は細身の身体でも力強い。
頭をくっつけた状態からフック、アッパー、ボディと、右の３連打。
ワンツーから右アッパー、オデコをくっつけたかと思うと、サッとバックステップして右ジャブ。
左ボディも何発もヒットした。
体幹の強さと共に、ボディワークのテクニックもある。
マグラモ９-10中谷
６Ｒ
接近戦で右アッパーの連打。続いて左アッパーの連打。その後は左ボディの連打と、面白い攻撃パターン。
マグラモはボディの上の方(肋骨)を狙う指示。解説者の弁によると、日本では馴染みが薄いが海外では割と使う手らしい。俺も初めて聞いた。肋骨だから肺を打って呼吸を乱す効果があるのだろうか。
マグラモ９-10中谷
７Ｒ
ゴングと同時に飛び込んで行くマグラモ。ペースを変える為にがむしゃらに出て来た感じ。飛び込んで来るマグラモに対し、中谷は左から右の逆ワンツーのカウンター。打ってすぐサイドステップしており、まさしく闘牛士の様。ロングレンジから伸びのある左クロス。右ボディから右アッパー。距離が開いて中谷の左クロスがヒットすると、２人の解説者から同時に『効いてる』の声。マグラモは前進する力も尽き、棒立ちとなって試合は一方的の様相を呈してくる。
マグラモ９-10中谷
８Ｒ
左のロングフックがクリーンヒットしてマグラモがロープまで後退。そこから左フック、右アッパー、左アッパー、右フック、右アッパー。コンビネーションが非常に多彩で独創的。パンチの回転も極めてスムーズで、相当練習している様だ。
クリンチで逃れようとしたところ、左アッパーでマグラモがプロ初のダウン。助けを求めるかの様にセコンド陣を見る表情はかなりキツそうだ。
立ち上がったところでレフェリーが両手を交差。TKOで中谷が期待に違わず戴冠した。
中谷の世界挑戦はコロナの影響もあって、２回の延期があった。その末に決まった日時が今回の11月６日。奇しくも、中谷が最も憧れ目標とするボクサー山中慎介が世界チャンピオンになったのと同じ日だそうだ。因みにその時も、今回と同じく決定戦。なんだかボクシングの神様から祝福されてるみたいだな。
解説者からは『ボクシングIQが高い』との言葉があったが、確かにその通りかもしれない。セオリーは守りつつ、時と場合によっては独創的なボクシングを展開する。それを実行できる理由の１つがパンチの多彩さであり、その多彩なコンビネーションをスムーズに繰り出す、豊富な練習量が背景にはあるのだろう。
インファイター相手に接近戦で打ち勝ってしまう、ってのはそもそも凄い事だ。しかも相手は世界ランキング１位。中谷の実力は間違いないだろう。『チャンピオンになった』ぐらいで終わる選手ではなさそうだ。防衛回数、他団体統一、複数階級制覇…
様々な夢が、彼の前には広がっている。
171cmの身長でフライ(50.8kg)級だと、普通はガリガリで筋力が無く、非力なアウトボクサーってのが定番なのだが、中谷はパワーがある。現在22歳だから、これからもう少し身体が大きくなるだろう。今後は階級を上げて行く可能性があるが、上の階級に挑むには大きく２つの問題があると思う。１つはパンチ力。１階級違うとパンチ力が全然変わると言うが、中谷はフライ級としてはかなりKO率が高く、１つ２つ上の階級でも通用するパンチ力だろう。
もう１つの問題は戦術の変化だ。今は自分より小さい相手と戦っているが、上の階級では自分と同じか、より大きな相手とも戦う事となる。異なる戦い方が必要だ。つまりこれから先はファイター寄りのスタイルとなる訳だが、今日の戦い方を見てると、その点も問題無いと思われる。
何かをやってくれそうな、楽しみなボクサーが久し振りに現れたかもしれない。
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