凱旋パレードが執り行われるが、独立に対して疑問を抱いた元解放軍兵士達が、サマリン博士に駆け寄り質問する。
太陽の牙の面々も不信感が強く、武器を調達したバックスの助けを借りつつ、広場で独立の象徴として飾られようとしていたダグラム奪回と言う強硬策。
一方で、レストランの女主人と新しい生活を始めたデスタン。前回の仕事でラコックからは相当な金を受け取ったらしく、確かになかなかいい暮らしを送ってる様だ。ところが
『ラコックが今の地位に就けたのは俺のお陰。ヤツには貸しがある。
昔同格だったカルメルが今や新政府の代表。俺だって… 』
と野望が頭をもたげる。
いや、しかしねぇ…
確かにラコックもカルメルも、それぞれの組織内では『二番手』であった。連邦側には評議会議長であるドナン・カシムが巨人の如くそびえ立っており、如何にキレ者のラコックでも流石に頭が上がらない。一方で、解放軍サイドにもサマリンと言う絶対的なリーダーがおり、そのカリスマ性の前ではカルメルの和平案も色褪せてしまう。しかしデスタンがその２人を引き合わせた結果、両者が表舞台に躍り出た。だがそこにはドナンの病死というラコックにとっての幸運や、フォンシュタインの暗殺と言う力技。カルメルを説得させた事と、そのカルメル本人の決起など、当事者達の行動による所が大きい。きっかけを作ったのはデスタンだが、それだけの話だ。
そもそもなぜデスタンがゲリラとして反政府活動に身を投じたのか、そして、途中で政府側に寝返ったのかは不明だが、ゲリラの組織内部での覇権争いに敗れたのか、はたまた政府側から秘密裏に話を持ちかけられたのか不明だが、どうも彼の言動からは日和見主義的な一面が目立つ。
理想だけは高い癖に根性が無く、言動がブレブレ。そんな自分を慕ってくれたリタを、自分自身の手で殺めてしまったトラウマ。『次の仕事で足を洗う』とやり遂げた最後の大仕事で、大金と共に穏やかな生活を手に入れておきながら、再び『隣の芝生は青い』心境に陥ってしまう。クズ要素満点の彼が、今後どうストーリーの隠し味となるのか見ものだ。
新政府樹立のパーティーでサマリン、カルメル、ラコックの３人が揃う。
出世欲にまみれたラコックと、その操り人形に落ちぶれたカルメルを、真の功労者であるサマリンはどう見たのか。
太陽の牙の面々は博士を奪還すべく、収容されている基地を襲う。
ここで初めて登場するのがサバロフ、ニコラエフ。暴徒鎮圧、対空警戒用のCBアーマーなんだけど、『旧式』なんだよね。この設定が斬新だった。長く激しい戦いの末、正面装備が消耗し、後方の予備兵力を投入する段階に差し掛かっているものと思われ、こうした二線級の装備が投入されたのだろう。
普通『ラスボス』はジオングみたいな飛びっ切りの隠し球が務めるものだが、敵の本拠地を攻略する最終回近くに、『旧式兵器』が出て来るってのは新しい。
攻略に際しては、ダグラムにハングライダーを装備して飛ばし、一気に反対側に投入。挟み撃ちの作戦。ちゃんとターボザックを外してる所が芸が細かいが、どうせだったら軽量化とか何とかでミサイルポッドも外して欲しかった。
突然バックに変な歌がかかり、勇壮な雰囲気でサバロフと戦う。
無事サマリン博士の奪回に成功するも、なぜか博士は浮かない顔。
カルメル率いるデロイア新政府は『連邦軍の即時撤退』を条件に挙げていたが、ダグラムを奪われ、サマリン博士まで連れ去られた今、治安の維持を理由に連邦軍は撤退の条件を呑めない。その為新政府は、自分達でクリン達を攻撃する苦渋の決断。
逃げ延びて落ち着いた太陽の牙だが、浮かない顔の博士にロッキー達は
『助け出したのは迷惑だったのか』と問いただすと、徐々に皆は本音を語り合う。博士は
『真実を話すことで君達を死に追いやるか、みんなを欺くことで死者を出さずに済むか、私にできる事はそのどちらかを選ぶ事だけだった』と、北極ポート直前で進軍を止めた時の苦しい胸の内を明かす。
カルメル達新政府を認められない太陽の牙のメンバー達はテロを考える。
サマリンはＪ・ロックと共にカルメルの元へ走り、攻撃中止を取り付ける。
惑星の開拓権を協議する会議が興味深い。こんな時代がいつか来るんだろう。来なければ人類は存続できないだろうし。
次週予告のナレーション
『現実と言うものがこんなにも味気ないものなのか。時には絶望と言う情念の落差が、方向性を持たぬ失踪を生む。暴走！止めねばならぬ。命をかけても。それが残されたわが使命。彼等の人生の白き余白の広さ故』
『絶望と言う情念の落差が方向性を持たぬ失踪を生む』とか『彼等の人生の余白の広さ故』とか、妙に言葉が走ってるな。
戦闘中に姿を消した博士とＪ・ロックに対して一気に疑念の色を濃くする太陽の牙。そんな姿を見たバックスが
『だから何だってんだ？お前たちがこんなに腑抜けだとは思わなかったぜ。博士がいなきゃ何にもできないのか』
『心から信じるものがあるのなら、なぜ最後の最後まで信じようとしないのだ』
と怒鳴る。
カルメルとの再会を果たしたサマリンは
『理想の前に、現実の重さが解る大人だからだ。だが彼等はそれを、ずるく許せない人間だと思っている。ただ一途なのだ』と必死に訴える。カルメルも元々『人道的見地から』早期和睦の道を選んだ男だけに、その訴えは受け入れられ、攻撃中止命令を下す。
戦闘が止んだ瞬間を見計らって戦場を脱出した太陽の牙メンバーだが、間も無くＪ・ロックとサマリンが戻って来て再会する。素直に受け入れられない面々に、再びバックスが怒鳴りつける。
『博士もＪ・ロックも、自分達だけが助かろうなんてケチな人間じゃねー事ぐらい判らんのか。お前達を助ける為にカルメルに話をつけに行ったんだ』
そして博士は、背中に１発の銃弾を受けて重傷を負っていた。それを知って狼狽えるメンバー。サマリンは諭す様に語り掛ける。でもここの受け答えはちょっとチグハグと言うか、『今そこで良い返さなくても』と思わなくはない。
『カルメル達を許せない気持ちは解る。だがこれ以上の抵抗は死ぬだけだ』に対して
『何、覚悟はできてるさ』、『やってやる』と焼け石に水。
『わざわざ死を選ぶ必要はない。大事な事はこれからどう生きるかだ。新しい生き方を見つけて欲しい。新政府に力を貸して完全独立を目指すのもいいだろう』と道を示すも
『奴らなんかに手を貸せるか』との反発を買い、
『新しい星に行って汗を流すのも１つの生き方』と提案すると
『デロイアから逃げ出せって言うのか？』と突っ込まれる。
死にそうな人が最後の力を振り絞って何かを伝えようとしてるんだから、少し黙って聞けよと言いたくなる。
サマリンは続ける。
『私がダグラムにデロイア人ではなく地球人であるクリン君に乗ってもらったのは、新しい人間関係を作りたかったからだ。ダグラムにデロイア人が乗れば地球人と戦える。だがクリン君が乗れば同じ地球人に銃を向ける事になる。迷いも痛みもきっと生まれるだろう。しかしそれを乗り越えてこそ、真の敵は何か？真の道は何かを知る事ができるのだ』
『私はデロイアを、地球とは違う人間社会にしたかった。しかしそれにはあまりにも地球のやり方に毒されてしまったのかもしれない。最大の誤算は我々の内部に地球そのものの指導者がいた事だ。しかし私はまだ絶望していない。君たち若者が我々にできなかった新しい人間社会を作ってくれるものと信じている』
巨星サマリン博士は、優しい笑顔をたたえたまま息絶える。
主人公クリンは『地球人であるにも関わらず、デロイア独立の為ダグラムに乗って戦う』のが本作のメインテーマだ。それによって仲間ができたり、その行為自体が裏切りになったり。父子の確執とかね。でもクリンがダグラムのパイロットになった理由としては少し弱いな。当時のゲリラ達にとってダグラムは虎の子のはずだが、そんな決戦兵器に、そんな程度の理由で、いつ寝返るか判らない『連邦政府議長の息子』に託すのは幾ら何でも不自然だ。
さぁ、いよいよ最終回となる。遥々来たぜ第75話。その予告
『大いなる巌のような人は笑顔を残して。
海の如く豊かな人は志を託して。
炎の様に熱き人々は叫びを残して。
昨日までの時代を作った人々は去っていった』
『巌』はサマリン、『志を託し』はザルツェフか。『炎の様な叫びを残して』は名も無き兵士達かな。
治安軍による追及を途中で取り止めたカルメルに対し、今度はラコックの方も動く。駐留してる連邦軍を出撃させたのだ。その猛攻に晒された太陽の牙。
『カルメルに話をつけたんじゃないのか？』
『これじゃ何の為に博士が犠牲になったのか？』と毒付くロッキー。
『だったら死なん事だ。博士の死を無駄にしたくなかったらな』とハッパをかけるバックス。
独立デロイアの主権を守る為に退けないカルメルの治安軍に対し、ラコックの連邦軍が圧力をかけ対峙する。
もし全面戦争に発展したらひとたまりもなく粉砕され、デロイアの独立も吹き飛んでしまうと懸念されたが、ラコックがデスタンに暗殺されると言う大事件が起きて腰砕けとなる。連邦軍は撤退して大規模軍事衝突は回避される。
カルメルの所に向かっていたラコックが、建物の階段を登ってる時、１人の男が駆け寄って来た。デスタンだ。下卑た笑いを浮かべ
『へへへ…
俺だって少しぐらい良い思いをしたっていいでしょ？』とイヤらしく絡みつく。
『お前など相手にしてる暇は無い』と突っ撥ねるラコックだが、
『いいんですか？カルメルとの事をバラしても？』と脅迫めいた方向に進まれてはたまったものではない。
『言ったはずだ。私はお前の様な人間が一番嫌いなんだ』と怒りを買う。そして
『この寄生虫めが！！』と罵られるに至り、キレたカルメルは拳銃の引き金を引くのだった。
う〜ん、衝撃的なラストだね。ダグラムって言ってみれば、野望の階段を駆け上がって行くラコックの出世劇と言えなくもない。物語の最初から登場し、明快な頭脳から繰り出される活きの良いセリフの数々で大向こうを沸かし、時には脅かし、時には媚び、裏切り、利用し、着々と権力の階段を上がって行く達成感があった。
物語当初の『獅子の子は獅子』のセリフにもある通り、ドナン・カシムを強大な獅子として認めており、また同時にその息子クリンに対しても一目置く慧眼。その時点では、最終的にクリンの前に立ちはだかる最大の敵となる予感を匂わせながら(デイジーにちょっかい出してた頃はそういう路線も構想されてたかもしれないが)、現場(戦場)サイドのクリンとは絶妙な距離を保つ後方(会議室)にいながら、その采配によって主人公達にピンチやチャンスをもたらした。直接のやり合いは殆ど無かったにも関わらず、やはり最大の敵であったと言えるだろう。
ラコックはズル賢さが前面に出てはいるものの、決して『口ばっかり達者で度胸が無い』タイプでは決して無い。屈強な軍人合計３人に殴られたものの、毎回見事な減らず口を叩き返しているし、スキャンダルを仕掛けて巨人ドナンに叛旗を翻す度胸、カルナック山脈での３州代表に対する強引な交渉術。独断で地球に行って弁務官の椅子を掴んだ行動力等、アニメキャラ史上屈指の策略家である事に議論の余地はあるまい。ダグラムの物語自体も、ラコックの台頭と共に盛り上がり、彼の死によって終わったとも言える。そしてその最後も、自分の飼い犬に手を噛まれると言う、最も彼らしい結末だったと言えよう。
蛇足ながら、デスタンのクズっぷりもある意味見事だった。自分の能力や器を自覚できず、求めるモノが常にそれらを上回っていた彼は生涯に渡って満足する事が無く、常に欲望や、高過ぎる理想を追い掛け続けた人生だった。不満や強迫観念につきまとわれ、ストレスが限界を超えた瞬間、引金を引いたのだろう。せっかく伴侶もでき、経済的にも恵まれた生活を手にしておきながら、やはり現状に満足できなかった彼は大きな賭けに出て、そして敗れ去った。
悲しい男、としか言葉が見つからない。
太陽の牙は解散して武器を破棄。クリンは
『ダグラムは自分の身体の一部なんだ。誰にも渡さない』と駄々っ子の様に拗ね、勝手に自爆してしまう。
恐ろしいまでの自己中だ。パイロットの君の心情は解らなくもないけど、開発に携わった関係者や、ダグラムの活躍にデロイアの未来を重ね合わせて見ていた一般市民など、無数の人々の気持ちは全く考慮してない様である。
一方地球のカシム家は、かつての隆盛がウソの様に静まり返っていた。
大黒柱であるドナンの死。長男ラビン、次男ロイル共に家を出てしまい、クリンはデロイア星。執事のワトキンスが庭の手入れをし、フィナは１人、ボンヤリと広い庭を眺めている。
しかし遠くから聞き覚えのある声が…
クリンが帰って来たのだ。久し振りに晴れやかな笑顔を浮かべるフィナ。抱き合う母子。
『もう何処にも行かないでおくれ』と言う母親の懇願の言葉とは裏腹に、クリンの瞳は遠くを見つめていた。そして脳裏には父ドナンの言葉
『自分が信じた道を突っ走れ』が響き渡る。
クリンは地球に行く際、デイジーに『半年くらいで戻る』と言付けしていた。地球の実家に戻って用事を済ませたら、後はデロイアで生きて行くと心に決めたんだろね。フィナは連れては行かないだろうから、やはりこの母子は離れ離れか。フィナは寂しいわなぁ…
さてさて、太陽の牙ダグラム。全75話。途中３回くらいだったかな？回想の回があったけど、実質72話だとしても長い事には変わらない。雄大な大河ドラマを観てる様だった。
観る前から『おもしろそうだ』と予想していたが、予想通りおもしろく、そして予想以上におもしろかった。観ている途中で、『これ観終わったらもう一回最初から全部観直そう』とか、『ダビングできたら手元に置いとくか』なんて考えた程である。
最終回まで観て、正直なところ少し期待はずれな部分もあったが、それは期待し過ぎの裏返しって事た為だろうし、全体的に言えば非常におもしろかった。
ダグラムはストーリーがおもしろい作品であり、誰が裏切るとか、誰が死んじゃうとか、初見で知らなかったからこそ『お〜っ』と驚き、楽しめたのであって、一度観て知ってしまうと、その楽しみは無い。
例えばガンダムなんかはモビルスーツと言う革命的なアイテムが登場し、華やかな戦闘シーンがあり、キャラクター達も魅力的だった。
対してダグラムはCBアーマーのデザインに魅力が無い。主人公メカであるダグラム自体がそもそもカッコ悪い。それと登場キャラも魅力が無い。女っ気が少ない事も含め、全体的に清潔感が無いのが致命的だ(ゲリラが小綺麗だったらおかしいが、それを言ったらキリが無い)。
ストーリー的には素晴らしくおもしろいのだが、あまりにも地味で一般ウケしなかったのは残念だ。
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