朝倉未来×矢地祐介
第１ラウンド
開始25秒(残り04:35)同時に踏み込む２人。
左ローの谷地に対して朝倉は左ハイ。死角で見えないけど肩口に当たったか？筋骨隆々とした矢地がブッ倒れ、会場がどよめく。
矢地がジャブの様に細かい左ローを出し続けるが、今回は『イケイケ』を封印し、キャリアの差を活かして下から崩す堅実な作戦の様だ。
開始01:40(残り03:20)朝倉が右ボディフックから左フック。
振り回してるけど踏み込み、ハンドスピード共に鋭く、会場は歓声で沸く。左は力んだ感があって流れたが、右ボディはヒットしてそうに見える。一瞬で懐に入る非凡な瞬発力と正面に飛び込む度胸。単なる喧嘩屋ではない。
開始２分(残り３分)矢地が大きく踏み込んで左のロー。
受けた右脚をくの字に曲げながら朝倉は左クロス。浅いが見事なカウンター。
再び表示が消えてるんで、時間は判らず。
朝倉がプレッシャーをかけ、フェイントを多用。完全にペースを掴んだ。
強烈なローキックで矢地の身体が横を向く。
１発で左ふくらはぎが赤く染まるダメージ。
開始03:20(残り01:40)矢地が右脚で蹴りに行くところがあるのだが(これ前蹴りか？それにしては間合いが近過ぎる気がするけど)、朝倉は右腕１本で横に跳ね除ける。
蹴り足を払われた矢地の身体は横を向き、直後に朝倉の左クロスが後頭部をかすめる。
打撃系格闘技の正当な技とは思えない朝倉のディフェンスにセンスを感じる。
開始04:30(残り00:30)獲物を仕留めるネコの様にジリジリと間合いを詰める朝倉。飛び込みながら右フック。矢地がロープ伝いに下がると大きな左アッパー。逃げ道を塞ぐ理詰めの攻撃。
第２ラウンド
開始早々に矢地がタックルに行くも、腰の重い朝倉がしのいでスタンドへ。何をやっても朝倉の手の平の上と言った雰囲気で、何やら『格』が違う印象。
開始01:30(残り03:30)朝倉の左ロー。
矢地の右脚は膝の裏、ふくらはぎ、足首の３箇所の腫れが１つに繋がり、脚全体が真っ赤に染まる。
直後に右フック。相手の意識が向いてる反対側となる対角線の攻撃。
02:30(残り02:30)矢地がタックルからスタンドでバックを取るも、朝倉はロープ際で踏ん張り結局向き直ってスタンドに戻る。
矢地が何をやっても朝倉には通用しない空気がリング上に漂う。
終了間際に朝倉の二段蹴りと矢地のタックルの相打ち。
矢地がタックルを狙って踏み込んだ分、朝倉の蹴りはヒットポイントがズレて脛が当たってる。そのまま矢地がタックルを仕掛け朝倉を倒すか、って流れだったが、振り回した朝倉の手がロープに引っ掛かる。
厳密には反則だが、これは流れの中での動きと見られるだろうな。矢地にとっては千載一遇のチャンスだったが、これはまぁ仕方ないかな。仮にグランドに持ち込めたとしても、どうにかできる様にも思えないし、そもそも終了直前だったしね。
第３ラウンド
開始直後に朝倉のローキック。
筋肉の塊の様な矢地の体軸が簡単にブレる程の威力。
朝倉の右フック、右ハイが浅くヒット。
矢地もプレッシャーをかけて迫るが、朝倉の右ミドルが三日月蹴りの様にヒットする。
開始03:00矢地のタックルは簡単に切られ、打つ手無しの雰囲気。
ローの蹴り合いでも分が悪く、グランド勝負に持って行こうにもタックルが通用しない。解説からも『(両脚ではなく)片脚タックルの方がいいんじゃないか』、『打ち合いを避ける為のタックルになってしまっている』という厳しい意見。
開始02:50(残り02:10)矢地が踏み込むも、右肘打ちを狙ったのかな？朝倉の右ローがカウンターで矢地の身体が折れる。
03:30(01:30)タックルに行った矢地に対し、脚を掛けた朝倉が倒してグランド。
終了間際に激しい打ち合い。矢地のパンチも幾つか当たってるが朝倉はモノともせず、最後は打ち下ろしの左。後頭部をかすめた矢地はもんどり打ってダウン。
ここでゴングとなって試合終了となるが、立ち上がった矢地の足元がフラついてた。後頭部へのパンチはボクシングでも禁止だが、やっぱり効くんだな。朝倉のパンチ力も強い。
『エース対決』とか銘打たれた一戦ではあったが、一言で言えば全く相手にならなかった。
そもそも矢地は日本のエースだろうか？
初めて観たのはダロン・クルックシャンクにカウンターのフック１発で豪快にKO勝ちした試合。それと、もちろん五味に勝った一戦も特筆に値する。しかし、それで『日本のエース』と呼ばれる現状に違和感があった。
クルックシャンクがそれ程強い選手とは思えない。21勝してるが対戦相手にビッグネームは見当たらない。唯一『アンディ・サワー』の名前があるが、キックのサワーに総合ルールで勝っても自慢にはならないし、しかも当時のサワーは33歳。
敗戦は11で、これはキャリアの終盤、力が衰えて負け数が２桁になるものだが、全盛期であるキャリア中盤でも結構負けてるし、そもそも勝てなくてUFCから呼ばれなくなり、日本に来た様な選手だ。
矢地の倒し方がセンセーショナルだったのは確かだが、失礼な言い方だが弱い相手だったからこそ豪快に倒せたのではあるまいか。
矢地は五味に勝ったのは見事だったけれど、あの時の五味だって全盛期には遠く及ばない。体力自体も衰えていたし、何よりメンタルが安定してなかった。あまりにも久し振りの試合にテンションが上がり過ぎ、がむしゃらに行き過ぎたところ矢地の三角にハマった感があった。
別の有力団体のエースを倒すとか、最低でも互角に戦って盛り上げるとかして、初めて
『日本のエース』だと思うんだけどな。
その後の矢地は、グスタボにワンパン失神KO負け。ケースにもドクターストップに追い込まれている。
グスタボは才能ある選手とは思うけど、言ってしまえば22歳の若造だ。しかもRIZINではデビュー戦。ホームで戦う矢地が圧倒的に有利だったはずだ。ケースもレコードは悪くないが無名選手。この連敗は痛い。そして今回で３連敗となった訳だが、今回の敗戦の意味は非常に大きい。
連敗からの脱出と言う訳で、本人も相当な覚悟で臨んだはずだから、『油断した』とかの言い訳は一切効かない。
『日本のエース』ってことで、海外のエースとしのぎを削って行かなければならないとこなのに、国内で負けてしまい足場から崩れてしまったこと。
最も大きな精神的ダメージは、朝倉の方が自分に体重を合わせて戦った点だろう。70kgに増量し、不慣れな相手の土俵に上がった朝倉に対し、適正体重で戦って敗れた矢地。これは全く言い訳ができない。
次の試合には、彼の格闘技人生の今後がかかることだろう。
朝倉はアウトサイダー出身で、いわば『戦場での叩き上げ』と呼べるだろう。アウトサイダーと言うと必ず『所詮は素人』、『戦術もトレーニングも理詰めであるプロの敵ではない』的な批判が出るが、アウトサイダーと言ってもトップクラスは格闘技経験者が多く、素人が観る限り戦い方もプロ格闘家のそれと大差無い。朝倉にはその世界を生き抜いたタフネスや、トップに君臨した『格』がある。
パンチや蹴りの破壊力、当て勘、スピード、下半身や体幹も強くバランス感覚にも優れている。だが何よりも突出してるはメンタル面との印象を受けた。ケンカがバックボーンである朝倉は、武器を持ってたり複数の相手と戦ったこともあっただろう。戦う場所も固いアスファルトの路上や狭い店の中、足場の悪い砂利や泥の上、雨が降ったり雪の上だったりと色々あったと思う。その為リング上で何が起きても対処でき、決して慌てず冷静だ。
それと余談かもしれないが、彼の人柄も素晴らしい。勝って喜びたいはずなのに、開口一番
『クレイジービーはリスペクトしてるし、また出稽古で色々教えて下さい』
と詫びを入れたことだ。
どんな世界であろうとも、トップに立つ者は謙虚で自惚れないものなのだと改めて思わされた。
『未だ来ない』モノを、人は『未来』と呼ぶ。
朝倉未来には、これからも沢山の素晴らしい未来が訪れる気がする。
ログインしてコメントを確認・投稿する