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2019年02月13日21:53

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空母いぶき 1/700フルハルモデル化・前編

 でじたみんブログに「空母いぶき」製作記事が掲載されましたが、大人の事情で一部カット&表現の変更、逆に文言の追加が為されてるので、許可の下ここにオリジナル記事を載せようと思いますわーい(嬉しい顔)
 ただ、mixi日記の文字数制限を大幅にオーバーしているので、ブログ同様に前後編と分けて掲載します。


以下
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 今回は小学館ビッグコミック創刊50周年記念特別企画、タミヤ「1/700 DDV192 空母いぶき」を作ります。

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 自社製品であるミニ四駆を除いてタミヤがキャラクター物のプラモを発売するのはJOE90以来半世紀弱ぶりではないでしょうか?
 さらにキット発売後に「空母いぶき」の映画化、「いずも型」への「F35B」搭載が発表され作品に現実が追い付く事態など話題が尽きません。
 因みに漫画の「いぶき」は、その形状的特徴からハセガワの「いずも」型が作画参考用に使われてるようですね。
 今回の記事内容は、どの艦艇専門誌にも掲載されて無い護衛艦薀蓄を強化してみました。プラモデルを作らない完成品艦船模型コレクターの方もお楽しみください。


 ではパーツチェックに入ります。

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 巨大な飛行甲板が目につきます。
 「いぶき」のベースに成った「いずも型」は垂線間長では旧海軍の「飛龍」と全く同じであるものの、現代の艦形では水面上が前後左右に大きくオーバーハングする為、飛行甲板面積は旧海軍の大型空母を超える広さと成ってます。


 やはりボリューム感満点の船体。

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 船体形状も素晴らしく、「いずも型」そのものに見えます。
 そして何より、今までのウォーターラインシリーズでは必須だった艦底板が遂に省略されました。
 キットはあくまで漫画のキャラクターモデルであり、WLシリーズのルールには縛られません。


 他のパーツ類は空母型でしかもステルス艦形という事もあり少な目です。

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 艦上戦闘機F35B(漫画ではF35JB)も複数パーツ構成で精密感満点ですね。

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 搭載火器であるバルカン・ファランクス(Block1B BL2)とシーRAM は超精密なファインモールド製を使用する事にしました。

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 さて、折角良好な船形をしたキットなので、どうせなら喫水線下も作ってしまおうと思います。

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 そこで他社の「いずも」型フルハルから船底を流用しようとしたら、ご覧の通り全くタミヤと全く合いません。
 フルハルはH社とP社から発売されてますが、まるで二軸LNGタンカーみたいな残念な船形で護衛艦の形状には見えず、形の良いタミヤとは合わない事が分かりました。


 ではいっその事自作しましょう。

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 ポリパテを盛る前にドンガラで大まかな形を作ります。

 形状の様子を見ながらポリパテで船形を削り出していきます。

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 艦の喫水線先端(艦首垂線)から喫水線の後端を20等分して輪切り線を入れて形状を確認します。
 この輪切り線をステーション(St.)と呼びます。
 前からSt.1(FP)、2〜20、21(AP)と成ります。
 St.11に書き込んでる○と半円を組み合わせたマークは船体中心を表します。
 因みに護衛艦(や条約期以降の旧海軍軍艦)では喫水線の前から後ろまでを20等分として設計を行いますが、商船では垂線間長すなわち舵軸(AP)から前に向かって船首の喫水線前端まで10等分して設計します。
 商船の設計は洋式木造帆船時代からの伝統で、木造帆船時代はこの垂線間長が舵やバウスプリットなどの付属物の出っ張りを含まない船体そのものの長さだったのでこの設計法が合理的だったのです。
 さらに護衛艦の設計スタイルは米国式の設計であり、商船は英国式の設計法でもあります。
 各St.の間は小数点で表すのではなく、分数で表記する点もヤード・ポンド法の国から導入されたルールの名残なのです。


 ブルーの塗料を薄く溶いて塗り形状を確かめながら削り出し、流体力学的に納得いく船形が出来たらソナードームとスケグを工作します。

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 艦底に見える葉っぱ状の形の部分はライズ・オブ・フロアと呼ばれるV字船底の平面部です。
 護衛艦の喫水線下に存在する平面はキールラインの細長い部分のみで、他は全てが曲面で構成される流体力学的に理想形状で建造されてきましたが、「いずも型」は調達予算を1円でも下げる為のコストダウンの努力が払われ、高速カーフェリーやコンテナ船で採用されているキールの両側にV字型に平面がある船底を取り入れました。とはいえ、速力・運動性能が低下してしまっては本末転倒なので、その面積は必用最低限に抑えられているそうです。
 輪切り断面積が一番大きく成る部分がSt.12の辺りで、その前方は縦に細く、後ろは喫水線に向かって平らに薄く成る方向に体積が減って行く形状が現代護衛艦の船形の特徴です。


 さらにビルジキール、スタビライザーフィン、スターンフラップを追加します。

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 前部スタビライザーフィンとフラップは「いずも型」では省略されてます。

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 専門書やネット上などには「いずも型」は船体が大きい為に安定性があり、スタビライザーフィンは後ろだけで充分と分かったので前部は装備されなかった、とされてますが間違いです。
 当初計画では必要と思われる物は必用なだけ装備されて仮設計が為されており、後に調達予算の関係で何を省略するか考慮し最終的に決めるのです。
 スタビライザーフィン設置に関しては、フィン2組全て無しでビルジキールのみに変わり、最終設計では1組装備と仕様が二転三転しました。
 当然、ビルジキールもフィンの有る無しに応じて長さが変わるのですが、雑誌の想像図ではフィン2組装備の長さのままの短いビルジキールであるにも関わらずスラビライザーフィンが無いの絵が掲載されたりして怪しげな情報が出回ったものです。

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 他国海軍艦艇に対して日本の護衛艦が持つ特徴の一つに、ヘリを搭載しないDE型サイズも含めた全護衛艦にスタビライザーフィンが装備されて点が挙げられます。
 これは商船のフィンが単にローリング(横揺れ)を軽減する為に装備されているのに対し、護衛艦はそれに加えてピッチング(縦揺れ)、ヨーイング(上から見た回転)までも制御する物だからです。
 単に不必要な運動を抑えるだけでなく、積極的な艦の運動にも関わります。例えば非常時には舵が無くてもスタビライザーを使って進行方向を変えられる事に成ります。この為、一般的な護衛艦の1組フィンの装備位置は中心より後ろであり、船体の大きいDDHではさらに2組装備としているのです。
 こうした目的から、護衛艦のフィンは商船のように船体中心の格納式ではありません。ネットなどにフィン部に穴が有ると書かれている事がありますが商船と混同した誤った情報です。
 因みに米海軍の音響観測艦は2組(4枚)のスタビライザーフィンのみで進路を変え、舵は廃止されてます(プロペラ後ろ雑音源なので嫌ったと思われます)

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 フィンとビルジキールの位置関係にも注目してください。単純に中心に対する前後対象ではありません。
 ビルジキールは船の横揺れを抑える効果がありますが、同時に抵抗源とも成ってしまいます。抵抗を出来るだけ減らしてかつ揺れの減衰効果との収支バランスが良いのは船体の後半部分で、これに気が付いてる造船会社の商船には船体後方に小さなビルジキールが採用されていて燃費を稼いでいます。
 また、輪切り断面から見て浮心から45度の角度で取り付けられてるのはビルジキールのみで、前方のフィンはやや立った角度、後方は浮心方向に合致せずにさらに立った角度で装備されます。ビルジキールと違いフィンは艦内に機械室を設けねば成らないので他構成要素と干渉しないようにする配慮です。特に後方は軸路が通る為にフィン用機械室は出来るだけ舷側に寄せたいのです。


 艦首ソナードーム。

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 バルバスバウを兼ねてるのと、喫水を抑える為にソナー高さ中心はボトムラインよりやや上と成るそうです。

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 「いずも」がドック入りしてる写真を見ると、他の護衛艦のソナーがボトムラインから吊り下げられてる形なのに対して「いずも型」は何とも微妙な位置と独特なラインですね。

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 プロペラ軸と舵の取り付けの為の目安に成るラインを引きます。

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 スケグの面の取り合わせも実は結構複雑です。


 プロペラ軸とシャフトブラケットを取付ました。

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 ブラケットを支えるストラットは船体外版から一旦直角に立ち上がり、境界層の厚さを超えたら軸中心に向かってブラケットを支えます。
 ブラケットも可変ピッチプロペラのボス径に合わせて複雑な形状をしています。
 左右で軸の長さが違うのは、左右軸それぞれ機関室の位置が前後にかなり離れている為です。プロペラから前後に離れた左右主機に向かってそれぞれ直線で結ぶと当然船体に対する左右軸の船体に対する位置や角度が同じに成る事はありません。


 喫水線下の形状が決まりました。

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 迷彩柄のように見えるのはポリパテを着色して何度かに分けて盛ったからです。
 一度に盛ってしまうとパテが縮んで船体が引っ張られ、大きく湾曲してしまう原因に成るので注意が必要です。
 実艦でも戦前に全溶接構造を採用した時に、溶接部が縮んで船体が大きく弓反って曲がるという問題が実際に起きました(その際、艦を一旦輪切り切断して修正しています)。


 プロペラ軸は水平面で見ても機関との位置関係で外側に向かってハの字に成っているようです。

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 舵とプロペラ中心が同一線上で無い事にも注目です。


 スタビライザーフィンは見栄えを考えてオーバースケールで作ってあります。「いずも型」は他護衛艦のようにフィンの下端がボトムラインから下に出っ張る事はありません。

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 スターンフラップは主にケルビン波(船尾波)が原因の抵抗を軽減する効果が有るそうです。
 一見、旧海軍の末期駆逐艦の船尾形状のようにプロペラで発生したスラストが拡散するのを抑えて推進効率を上げる事が目的に見えるのですが、実はそちらの効果は少ないようです。
 パワーボートやプレジャー用クルーザー、超高速カーフェリーにも船尾フラップが付いていますが、名前が同じなので混乱しますがそれとは全く別の効果を狙ったものです。ネット上などで二つを混同して護衛艦のフラップは可動する等と書いてる方も居ますが、軍艦のフラップは固定式で装着目的もパワーボートの類とは違うので間違いです。
 因みに貨物船やタンカーなどでは船尾波を抑える仕組みとしてスターンバルブを採用しています。スケグの後端(プロペラ軸下側)を膨らませてバルバスバウと同じ効果を持たせているのです。


 矢印1:シャフトと船体の間をカバーするエディプレート。後端にはブラケットがあり複雑な形状をしています。
 左右で大きく形状が違うのも特徴です。

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 矢印2:亜鉛インゴットの防食装置ですが、クラッシックなスタイルであり実艦と違います。
 演出的にアクセントとして付けました。


 舵と船体の間は振動対策でフェアリングで覆われてます。

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 喫水線の下(見た目では上下逆)に黄色いベルト状に見える部分は、ポリプロピレンの板でポリパテを挟み、スペーサーをかませて一定の厚みに固めた物を船体に貼り付けた後に削り出した部分です。喫水線下の黒帯がこの黄色い部分の範囲に成ります。
 この方法で任意の厚みの板を簡単に作れるので応用範囲は広いですよ。勿論挟む素材はポリパテ以外でもOKです。


 舵の下端はボトムラインより下で、端の形状は通常の切り落とした平面ではなく流線型に整形されているようです。

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 プロペラ回転中心は計算を誤って船体から離し過ぎてしまいました。実際はもう少し上、舵の高さの真ん中辺りに成ります。
 プロペラ翼下端はボトムラインより下、舵下端より上の位置に成ります。


 矢印3:船体表面の艤装はかなり省略されており間が持たないので、洋上給油用のプローブレシーバーを自作してみました。

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 可変ピッチのスクリュープロペラを自作するのは大変なのでピットロード社の「いずも」型から流用する事にしました。

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 が、ご覧の通り大変残念かつ不思議な形状をしています。
 プロペラが5翼ではなく4翼なのは、キャビテーション試験で振動が予測され5枚は無理だった為に対策上6翼にしたいところ無理があるので逆に4翼に落ち着いたと解釈出来ます。
 因みに現代軍艦では普通に見られる5翼スクリュープロペラですが、初めてそれを採用したのは第二次大戦中の英空母「イラストリアス」です。しかし続く同型艦が3翼プロペラを採用しているので、当時の技術ではまだ製造が難しかったものと想像されます。


 矢印4:プロペラ形状を修正して径も増し、ボスの形状も改めてあります。

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 矢印5:消火装置を自作してデテールアップしてみました。


 矢印6:キットは「いずも」の艤装を元にしている為、「かが」で追加された部分が無いので工作しました。

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 矢印7:温度湿度計を追加。百葉箱の位置は不明です。
 矢印8:電子/目視照準器はキットでは天板と一体成型なので、削り取ってピットロードの「いずも」型から流用置き換えしました。


 矢印9:「いずも」型のマスト灯用のフォアマスト位置。

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 今回の最大の悩みどころ。
 マスト灯とは高さの異なる前後二つの白色灯火で、夜間周辺の船舶に目視で船の進行方向を示すものです。
 中心線から左右それぞれ112度30分の範囲で灯火が見える仕組みですが、漫画の「いぶき」ではスキージャンプ台が前部マスト灯の左舷側にあって灯火を遮ってしまいます。

 この時点で、漫画やキットの通りの「いぶき」の形状は諦め、実際に艦が存在したらどのような艦に成るかを考察して手を加える事としました。
 マスト灯を機能させる解決法は、
1・フォアマストを高くする、でも空母でそれは避けたい。「ひゅうが型」のような起倒式形状はステルス的に不利で甲板面積にもマイナス。
2・ファランクスの前方に射界を遮らない高さ(低さ)でマスト灯を配置する、しかしこれは位置的に右過ぎて設置場所が無く無理。
3・なので出来るだけ前方、ジャンプ台と灯火角度が干渉しない位置に移設。
 後部マスト灯はメンマストのOPS-28対水上レーダーのフラット前方に設置されてます(ひゅうが型ではブリッジの天井に専用の三脚を立てて設置)。そこから首尾線上に平行位置に前部マストも存在しなくては成りません。なので白線の延長線上のどこかにフォアマストを移設する事に成ります。
 紙で左右112度30分のゲージを作り、ジャンプ台と干渉しない位置を探りました。


 フォアマストの移設に伴い、右舷艦首飛行甲板を拡幅しました。

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 矢印10:キットではスキージャンプ台左舷のキャットウォークには「いずも型」そのままに消火設備が有りますが、当然実艦に有っても使い物に成らないのでリールのモールドを削って移設しました。

 拡張した飛行甲板部には係止環のモールドを施します。
 矢印11:フォアマストを前方に移設するとファランクス右舷後方の射界を遮ってしまうので、ファランクス設置位置を右舷側に移動して射界を確保します。

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 矢印12:フォアマストが前方に移動した分、航空機車両転落止めも前方に延長しました。
 矢印13:舫綱用のハッチを追加します。「いずも」には従来無かったものですが、最近「かが」同様に「いずも」にも追加装備されましたね。


 矢印14:フラップには米空母風ステイを付けました。船尾に端艇を係留する際にガードと成ります。

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 矢印15:「いずも型」ではこのハッチから船尾に係留したボートに梯子降ろして乗り込みますが、オレ「いぶき」では一旦ステイ上に降りる事に成ります。
 矢印16:キットでトランサムにモールドされていたクリート(の凹み)は使えなく成ったので、ステイ側面に移設としました。


 プロペラを仮止めして喫水線下の完成した状況を確かめます。

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 喫水線下には多数の取水口、喫水線直上には排水口がズラリと並びますが、蒸気タービン艦の復水器用取排水口のような目立つ大きな穴は開口していないので、1/700スケールでの大きさを考え省略としました。

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 左舷舷門のハッチは閉としました。

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 右舷11m作業艇格納庫用のハッチも閉としました。

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 漫画では「いずも」をベースに「いぶき」のデザインをしているので、これらのハッチ類は有りませんが、「かが」で有るものがよりアップグレードした準同型艦である「いぶき」で再び無くなり退化するとは思えないので、これらの艤装は「かが」に準拠したものとしました。
 書籍やネット上では、これらの「いずも」と「かが」の相違点は、「いずも」の使用実績から改良されて「かが」では設計変更されたと書かれてますが、先にも少し書いた通り最初から装備予定だったものが「いずも」では省略されたに過ぎません。
 「かが」は船体剛性分布も「いずも」から改良されているのが目視観察からも分かりますますが、それがいつのまにか「F35B」搭載対応の設計変更と素人解釈されて伝言ゲーム的に広まっているのが可笑しいですね。勿論、船体設計の根幹に関わる設計変更は「いずも」の使用実績を見てからやったのでは「かが」の建造には間に合いません。現代の艦艇設計ではコンピューターシミュレーションによる解析結果が適用されて同型艦でも見えない部分で改良が進んでいます。


 搭載機はF35BとSH60Kだけでは運用的に余りに無茶なので、早期警戒機も搭載する事にしました。
 候補はマーリン(海自のMCH-101)とオスプレイのAEW型。で、オスプレイの方にしました。ただし、実機で計画されている背中に三角アンテナ背負ってるタイプではなく、胴体下の円盤カバー内に従来型又は三角アンテナを内蔵しているタイプを創作。脚柱を延長する設計変更も想定しました。機体は既存のものではなく、米空母用に開発されたばかりのCMV-22Bを想定してアオシマのキットから改造しました。

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 ついでに戦闘救難ヘリも。通常のCH-60Jではなく、SH-60Kをベースとした機体でこれも創作です。なので尾輪の形式上、敵地地上をタイヤで移動する匍匐前進戦術は出来ません。
 偵察機や電子戦機も有った方が良いですが、搭載機数の制約や導入予算を考えると、双方F35Bに偵察ポッドや電子戦ポッドの搭載で対処するのが現実的かと思います。

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 つづく。
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