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2020年01月25日15:24

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はるか信州より  謡の会の会員が増える

 引っ越してから、とにかく地域の付き合いというものが増えた。神楽と謡の会はもちろんなのだが、その他にも地区の納涼会だの新年会だのが催されている。謡の会の会長が地区の常会長ということもあり、「ハルカさん出てよ」とか言われると断り切れない。まあ、地域の方々とお近づきになるいい機会なので特に嫌なのではないが、行くと、本当に大半がもうご高齢の方ばかりなのに気づかされる。

 そんな年寄り連の中で、やはり色々役職を請け負った若い人が混じってることがあり、飲み会の席ではそそくさと、そんな「若手」の方に接近する。念のために言っておくが、50前の僕も「若手」である。しかも僕は地域に来た「新顔」ということもあり、この前の新年会では皆さんの前で挨拶などした。

 で、その新年会の中盤、不意に区長さんが「それじゃあ、役員の皆さんにお盃を差し上げて。それで、お肴をいただこうか」と言い出した。謡の会長さんが急に僕のところに寄ってくる。

「それじゃあ、ハルカさんも来て」
「な、なんです?」
「謡だよ。『鶴亀』でいいから」
「え!? いや、僕まだ覚えてませんけど!」
「一緒に座って、口パクパクさせてるだけでいいからさ」
「え? えぇ??」

 これが『北信流』と言われる小謡の「現場」というわけである。いや、会長さんの説明で知ってはいたのだが、本当にこういう風に呑みの席で小謡を披露するのか! 狼狽する僕をよそに、その場にいた会長さんと、もう一人の会員さんが上座の向かいに並んで座る。もう一人、その場に会員の方がいたのだが、その時はこの席を用意した役員だったようで、お肴(つまり小謡)を受ける側にいた。

 まず、上座に座った人たちが盃を受ける。それで、僕たちが『鶴亀』を謡うわけである。仕方ないので、うろ覚えの『鶴亀』をとりあえず皆に合わせて口パクした。すると今度は、「それじゃあ、お返しも謡の会の皆さんで」と盃を受けた代表の方が言う。会長さんが、こちらを見て「それじゃあ、『養老』の短いやつで」と囁く。

 え? いや、『養老』は全然ですけど! 仕方ないので、会長と会員の方が『養老』の終わりの方だけを、もの凄く短くして謡う隣で下向いて座っていた。終わった後で会長さんが笑いながら、「これが『北信流』なんですよ」と言った。そうかあ、と感心した。

 その後も宴席は続いていたのだけど、一人「若手」の人がお酒を注ぎにやってきた。杯を受けてると、「いやあ、ハルカさん、謡の会に入られたんですか」と訊く。「ええ、そうなんですよ」と答えると、「いや、実は私も前から興味あだけはりましてね」と話し出した。

 なんでも、仕事先の宴席とかで、急に「それじゃあ、お肴貰おうか。『鶴亀』でいいや」とか「年配」の方に振られたりするらしい。その度にできないので困るのだか、できたらそんな時に少し披露できたらいいな、と思ってるそうだ。

 「それじゃあ、来てみたらどうです。月に一回の集まりですよ。今度は次の土曜日です」と言うと、「そうかあ、それじゃあ覗きに行こうかな」とまんざらでもない様子だ。そこに会長さんがやってきたので、少し細かい説明をしていた。帰り道もその人と一緒になったので、なんか東京から越してきた話などした。

 で、翌週の土曜日に集まると、何か別の見知らぬ顔がある。こちらは結構ご高齢で、なんでも昔やっていたけどやめてしまったので、復帰、ということらしい。やはり新年会の時に、もう一人の会員の方と話をして、「それじゃあ、もう一度やってみるかな」と思い立ったらしい。

 僕と話をしてた人もやがて現れて、二人が入会というくだりになった。この人は僕より三つ年下だと判り、会で一番の若手ということになった。なんだ、僕の最若手時代、短かったな。けど、新しい人が増えてよかった。それに、謡の現場も、まだ生きてるところでは生きてるんだな、と改めて感心した出来事であった。

 驚いたのは、その日の会に猪鍋が用意されていたことだ。後から聞いて知ったのだが、そのご高齢の復帰さんが、わな猟で掴まえたものだと言う。初めて猪鍋の肉を食べたが、脂身が脂っこくなくてプリプリしていてビックリした。これが猪の肉か! と驚いたことであった。

 
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