寒い季節に重い小説を読むと堪えるのですが、
随分暖かい気候になってきたので、まあいいかなと。
なので久々に佐野徹夜氏の著作に手を出しました。
「この世界にiをこめて」
例によってヒロインの死がテーマなのですが、
亡くなったヒロインからメールが届くと言う話なのですが、
主人公は小説を書くたった一人きりの文芸部員、
誰もいないはずの文芸部の部室で小説を書いていたヒロインに出会います。
現実逃避し、小説を逃げ場にしていた二人は意気投合し、
奇妙な関係を築きます。
主人公はヒロインの圧倒的な才能に嫉妬しながらも惹かれていきます。
そしてヒロインは中学生ながら作家デビューを果たし、
時の人となる訳ですが、スランプから精神的に崩れてしまいます。
ヒロインは亡くなり、主人公は亡くなったヒロインのアドレスへ
宛先なきメールを送り続けます。
ある日、行き先不明で送り返され続けたメールに返信が届きます。
主人公は相手に対して疑問を抱きますが、
やがて主人公とヒロインの間でしか知らないような事を返信してきます。
そうして主人公の謎解きが始まります。
ヒロインとの葛藤や主人公の失った目標が交錯し物語は進みます。
京都が舞台ですが、主人公たちの言葉は標準語に近い文面です、
作者は京都の人なので、話し言葉の多くが発音だけ違うというのを
心得ていらっしゃるようです。
なので、言語的に不自然ではなく感じ、内容はどうあれ読みやすくはあります。
佐野徹夜氏の著作は殆ど”優しい悲劇”だと思います。
その中でもこの作品は、亡くなった人からのメッセージが主題です。
からくり自体は単純な話ですが、
それを上手く道具として物語を進めているところが良いです。
流れから言うと「四月は君の?」と言う漫画と本質が似ています、
はるかに悲劇ですが。
この作品みたいに終わりを切り離す展開は、ハッピーエンド向きです。
この作品みたいな作品で切り離されると、
胸の奥にモヤモヤとした得も言われぬ感情が残ります。
こう言うエンディングも気力がある時は素敵に感じます。
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