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2019年07月16日23:26

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白馬のお嫁さん

以前、アフターヌーンで掲載されていた作品。全3巻。
気になりつつも放置していたのだが、こないだの3連休で読了。
以下、ネタバレ注意。

ジャンルとしてはSFなのだろうが、この作者はジェンダー関係、もう少し突っ込めばトランスジェンダーにフェチズムがあるのか、テーマは「生む男」。たしか、昔の映画でシュワルツェネッガー主演で「ジュニア」という男が子供を産む映画があったが、テーマとしてはそこまで斬新ではないのだろう。まぁ、だれしも1度くらいは発想としては持つのかもしれない。形にするかどうかはともかく。

遺伝子デザインは、最近では中国がHIVにかからないようにゲノム編集した子供を誕生させた、なんてニュースがあるが、この作品では、遺伝子デザインによって「妊娠・出産可能な男」を誕生させた、という世界設定の話だ。

本作品は、グダグダと不毛な男女論を続けるのではなく、全3巻というコンパクトさからわかるように、コメディを差し込みつつ、生まない普通の男の主人公が「新婦」として結婚しましためでたしめでたし、という形で物語は終わる。

作品としては、コメディタッチであり、「見た目が女にしか見えない」美少女3人と共同生活を営む主人公(男子高生)という、これまでも幾度もなく使われていたであろう設定を、「だが男」という、たったそれだけの事実で台無しにする、何とも言えない感じで始まる。

しかし、コメディに終始しないのがこの作品である。この作者の短編集を読むと、むしろ大真面目な内容こそが、この作者のやりたいことなのだろう。読み進めていくと登場人物たちのヘビーな事情がしれっと物語に差し込まれ、「生む男」でありながら「生まない男」を好きになってしまうような、一巡回って、なんて形容するんだそれは?という展開を見せつつ、その他にもヘビーな展開を見せつつ、物語は終わる。

この作品は、もちろんコメディ部分も面白いし、随所挟まれるシリアルな展開も面白い。ただ、俺がこの作品を気に掛ける要因となったのは、以下会話(省略あり)。

「結婚前提の恋愛をするなら、法律よりずっと厳しいモラルを守ったほうがいいの」
「なぜなら」
「結婚相手はあなたの心の支えでもあるから」
「人は何かに寄り添わないと生きていけない」
「それが哲学…宗教…コミュニティ…とだんだん複雑なものに移って行って、既婚者はやっぱり妻や夫ってなる人が多いの」
「結婚相手も宗教とかと同じに考えるのか?」
「そこがポイント」
「だったらズルせず正当に手に入れたいでしょ」
「そう…かな」
「わざわざだまし取った聖書で信仰を始めたりしないでしょう?」

この、最後のセリフの「わざわざだまし取った聖書で信仰を始めたりはしない」のくだりがガツンときた。確かにね、と。至って利己的な理由によって他人に誠実な態度をとる、という訳である。この矛盾。そしてある意味では真理だろう。ちなみに上記セリフを吐いた女は中々の鬼畜である。

まあ、そんな感じで全3巻と短い作品であるが、それなりに物語もテンポよく進むし、面白い作品である。そのうちメディアミックスされたりしても不思議ではない。

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