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2020年01月18日17:27

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八大龍王伝説 【627 大陸最終決戦(八)】


 八大龍王伝説


【627 大陸最終決戦(八)】


〔本編〕
 ゴンク帝國の王城であったヘルテン・シュロス。そこで戦っているシャカラとセイタカ。
 その二人が同時にある情報を知る。シャカラは霊体のマナシから、そしてセイタカは魔界六将の一人ラハブからである。
 セイタカの結界内で戦っているシャカラとセイタカは、全く外部からの情報が結界によって遮断されてはいたが、それでも神の領域にあるものにとって、結界を突破し、情報を強引に伝える力を有している。
 むろん、神といえども、そのような強引な手段を用いれば、伝える本人だけでなく、戦っている相手にもその情報は聞こえてしまうが、それでも、伝える側のマナシもラハブも、それぞれの事情でそのことを気にしている状況ではなかった。
 特にセイタカに伝えるラハブの方が、その緊急性は高かった。
 当然、マナシとラハブは、情報の伝え方はそれぞれのやり方で伝えたが、その内容は同じ。
 天界において、コンガラがバツナンダによって敗れたという内容であった。
 この情報がシャカラとセイタカに伝えられたのが、龍王暦一〇六一年一二月一日の正午。
 天界時間でいえば、まさにコンガラとバツナンダの決着がついて、二、三分後ぐらいであろう。
 マナシもラハブも、コンガラとバツナンダの戦いを、あらゆる手段で逐一把握していたため、このようにすぐシャカラとセイタカに伝えることができたのであろう。
 特にラハブにとっては、一刻を争うほど切羽詰まった状況であった。
 天界時間の一刻ではなく、地上時間の一刻のことである。

 ラハブの声が結界内に響き渡る。
「ザッドよ! コンガラが敗れた以上、今回の計画は頓挫した。天界に俺の勢力は既になく、この地上界の死者の軍勢が駆逐されるのも時間の問題であろう。
 コンガラを破ったバツナンダは、後一時間かからずにこの場に到着するであろう。俺は、三十分後には死者の軍勢を地上界に送り込んだ入り口を全て塞ぐ! このまま入り口を開けておいて、バツナンダを始めとする天上の神々や天の軍勢に地下世界に攻め込まれるわけにはいかないからな!
 ……ただ、後二十分だけザッド、お前に時間を与える! お前がそれまでにシャカラを倒せるのであれば、あるいはそこから巻き返しも可能かもしれないからな!
 いずれにせよ、後二十分でシャカラを倒さない限り、お前に生きる道はない!!」
 ラハブによる、ザットことセイタカへの最終通告であった。

 目の前にいるシャカラを倒さない限り、セイタカに生き残る道はない。
 それも後二十分。さらに、シャカラもラハブのこの最終通告を耳にしているので、全ての事情が分かっている。
 セイタカにとって、迷っている暇(いとま)はなかった。
 シャカラとセイタカは、お互い天界の結果を当てにして、リスクを冒さない戦いを延々と行ってきた。
 そのために、四か月に及ぶ長期戦となったが、それが急に後二十分という、四か月からすれば一瞬といった短い時間で決まる。
 そして、その短期での結果を求められているのが、シャカラに主導権をずっと握られ続けていたセイタカなのである。
 セイタカは、今まで躊躇(ちゅうちょ)していた『奥の手』を使わざるを得ない状況に、追い込まれたのであった。


「ところでレナ様は、その腕輪をいつもおつけになっておられますね」
 レナと一緒にいる侍女が、レナにそう尋ねた。
「ええ、これはシャカラ様からいただいた腕輪なの。シャカラ様から、これを常につけているように言われました。私がこの腕輪をつけている限り、シャカラ様は私のことを知ることができるらしいの」
「それは素敵なお話ですね。好いている男性からそのような言葉を直接いただけるとは……」
 侍女が羨ましそうに微笑みながらレナに語り掛けた。
「シャカラ様は、とてもお優しいお方です。私にはもったいないぐらい。……あっ、でも、この腕輪はシャカラ様から直接いただいたわけではないの。だから、お言葉も直接はいただいてなくて……」
「……? レナ様? どういうことですか?」
「私、シャカラ様とお会いしていなくて十年近く経つけど、ちょうど一年ぐらい前に、シャカラ様のおそばにずっと付き従っていた方からこれを頂いたの。その時に、先ほどのシャカラ様の言葉が添えられていたわけ……」
「……その腕輪をレナ様に届けられた方はどうされたのですか? まだ、ここにいらっしゃいますか?」
「いいえ、すぐにシャカラ様の元に戻るとかで、今はここにいらっしゃいません。その方も、シャカラ様からこの腕輪を託されたのは、二年以上前で、やっと私の居場所を見つけたとおっしゃっておられました!」
「?!」
 侍女はそのレナの何気ない話から、一抹の不安を感じた。
 侍女は、一年前からレナが腕輪をつけていることは知っていたが、特に気にすることなく、またこの侍女はシェーレへの伝達役も兼ねていたため、常にレナの元にいるわけではなかった。
 今日の腕輪の話も、たまたま話題として出した程度で、たわいもない会話の一つであった。
 しかし、シェーレとの連絡役をも務めるほどの侍女であるため、それなりに才覚もある。
 その彼女が、ある不安を感じたのある。
「レナ様! 本当にその方は、シャカラ様の使いの者だったのでしょうか? シャカラ様は、ずっと八大龍王同士の争いに明け暮れておられ、そのような使いの者を立てる余裕がはたしてあったのでしょうか?
 また、その使いの者も、レナ様を探すのであれば、シェーレ様や、ラムシェル王の元に匿われていたステイリーフォン聖王陛下や、カリム様の元を訪ねれば、すぐに見つけられたのではないでしょうか?
 また、本当にその者は二年以上もレナ様を探されておられたのでありましょうか?」
 侍女のこれらの質問にレナも改めて腕輪をまじまじと見た。
 今、侍女にそう質問されるまで、腕輪の件に関して全く疑問を持っていなかったからであった。



〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)

(八大童子名)
 制多迦(セイタカ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第七童子)
 矜羯羅(コンガラ)童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)

(神名・人名等)
 カリム(ステイリーフォン聖王の妻)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 ステイリーフォン聖王(ソルトルムンク聖王国第五十代聖王)
 ラハブ(魔界六将の一人)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)
 レナ(シャカラの妻)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)

(地名)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城。別名『堅き城』)

(その他)
 魔界六将(地下世界の六人の神)
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