八大龍王伝説
【621 大陸最終決戦(五) 〜魔術における各種要素〜】
〔本編〕
“しばらくとはどのくらいだ?!”
カリウスが天声でシャカラに問いかける。
カリウスも、どの程度これが続くのかを念頭においた上で戦いたかった。
“とりあえずは百ぐらい!”
“何?!”
カリウスは驚きながらも、直接、その一言を発声するような愚は起こさなかった。
“マナシとの戦いのように終わりなき千年戦闘となるぞ!”
“その心配はない!”
シャカラがカリウスに言い切った。
“それにマナシの時のような、連続した魔法攻撃に悩まされることはない!”
“マナシよりセイタカの方が魔法能力において劣るということか?!”
“それは現時点では分からないが、少なくともマナシのように立て続けの魔術行使はない!”
“マナシより能力が劣るかどうかも不明で、何故、言い切れる!”
“忘れたか?! カリウス! ……マナシは、僕との戦いにおいて、二つのアイテムを用意していた! しかし、セイタカはそれを持っていない!”
“そうか! 黒魔法の杖と白魔法の魔導書のことだな!”
“ああ。マナシ自身、当然神のレベルで最高ランクの魔術師ではあったが、その彼女をさらに補助(サポート)していたのが、あの杖と魔導書だった!
だから僕はあの戦いで、先ずはその二つのアイテムを無力化することに徹底した! あの二つは、黒魔法と白魔法の両方の魔法力の貯蔵庫であると同時に、魔法発動の『呪』と『印』を簡略化させることにより、発動の時間を限りなく短縮させることができるアイテムであった!
そしておそらく別の機能も有していたと思われる! ……複数の魔法を同時に発動させる場合の限界容量における予備容量といった機能を……”
“限界容量? 予備容量?”
“魔法は、術者の魔法水準(レベル)や魔法力量、また術者に蓄積されている魔法量などがあり、それに口で唱える『呪』や、身体――主に手や指で表現する『印』の省略などの要素も加わり、優秀な魔術師ほど、高度な魔法を、素早く行使できるといったことにつながっていく。しかし、そこにさらに魔法発動における許容量みたいな要素がある!
その許容量が大きければ大きいほど、高度な魔法、大規模な魔法、または、複数魔法の同時発動が可能となる!
魔法は発動させる時に、最も魔法力と魔法量を必要とする。そして発動させた後、魔法を継続させる場合、それは発動時より少なくて済むのが一般的だ。ホース(馬)に戦車を引かせる場合、戦車を動かす始めが、一番力(パワー)が必要で、戦車が動き出した後、それより小さな力で、その動きを継続できるのと同じ原理だ!
マナシが、僕との序盤の戦いで、僕の千変万化な攻撃を防御膜で受けながら、無数の礫(つぶて)で攻撃を出来たのが、それに当てはまる! あれなどは、おそらく無数の礫を仕掛けだした瞬間、マナシの身体の魔法容量は全てその発動に使用され、その間、防御膜の継続発動は、白魔法の魔導書の予備容量が担っていたのだと思われる。
つまり、それらのアイテムを用意していないセイタカに、大規模魔法の複数発動は、まずありえない”
“つまり、セイタカがマナシと同じレベルの魔法能力を持っていたとしても、そういったアイテムを準備していない以上、マナシとの戦いを潜り抜けた私たちのほうに分があると……”
“あまり推測で楽観するのは安直だが、若干の期待は持っていいと思う”
そう言いながら、既にシャカラの長斧によるタッチアンドアウェイ攻撃は、十を超えた。
“それであれば、千年戦闘にはならないってことだな!”
“ああ……。それにここは地上界! 三十日間戦っても、天界の一日にしか相当しない! 天界のコンガラも気になるが、そちらはバツナンダがなんとかする!
どんな難敵に対しても、いくらかの勝率が見込める極芸と奇跡の神である僕が、どうやっても一パーセントの勝率さえ見込めない相手が、今、コンガラを任せているバツナンダと、その弟のナンダなのだから……”
シャカラのこの最後の天声は、冗談のように聞こえながらも、実際のところ真実なのであろう。
しかし、このことについては、長年相棒として付き合ってきたカリウスにも冗談か本音かの判断のしようがなかった。
ついに、シャカラのタッチアンドアウェイ攻撃は、二百を数えた。
とりあえず百と答えたシャカラの言の葉の倍を数えたことになる。
しかし、その間、セイタカは全く姿勢や位置を崩すことなく、シャカラが攻撃をしたときのみ、武器を実体化し、それで受け止める。
この形だけ見れば、シャカラの必死の攻撃に、セイタカは余裕で受けているようにみえるが、おそらくはシャカラの言うよう、セイタカもそれが精一杯なのであろう。
セイタカからしても、シャカラの変化のある攻撃を待っているはずである。
しかし、それが二百回の攻撃の中で一回もない。
敵(シャカラ)の攻撃をずっと見ていることから、その攻撃に変化があれば、おのずと長斧の速度がやや落ちたりするなど、絶対に分かるはずである。
むろん、それはセイタカ童子という神の目であればという前提ではあるが……。
いずれにせよ、シャカラが渾身のヒットアンドアウェイ戦法を使っている以上、セイタカもうかつなことは出来ない。
そして、セイタカの体内に蓄積している魔法量は、シャカラのこの一連の攻撃で確実に消費されている。
魔族の肉体は、確かに以前のセイタカの身体よりは強靭(きょうじん)ではあるが、それでもシャカラの渾身の一撃――セイタカの結界により、五パーセント程度基本能力を封じ込められていたとしても――、魔法力で身体を強化させない限り、受けきれないほどの衝撃をもっている。
さらにその都度実体化させる剣も、多くの魔法量を消耗させている。
一度実体化させた剣であれば、そのまま実体化させていた方が、効率がいいように思えるかもしれないが、実体化させている間は、実際に実体化させるよりは魔法量が少量かもしれないが、それでも確実に消耗はしていき、さらにシャカラの一撃を受けた剣が、もう一撃耐えられるかは不確定要素である。
それであれば、シャカラが仕掛けた時に、改めて新品の剣を実体化させるほうが、受けるには確実なのである。
いずれにせよセイタカからすれば、かなり効率の悪い魔法の消費を余儀なくされている。
それでも、まだ慌てて何らかの対処をするほど魔法量を消耗させられているわけではないが、それでも心情的には冷静では居にくい状況であるはずである。
それが、シャカラのセイタカに対する見立てであり、そのことから、セイタカも何らかの打開策は考えているはずであった。
〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王とその継承神の総称)
跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
(八大童子名)
制多迦(セイタカ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第七童子)
矜羯羅(コンガラ)童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)
(神名・人名等)
カリウス(沙伽羅龍王に仕えている白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
(付帯能力)
天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)
(武器名)
黒魔法の杖(マナシの左手に持たれた杖。あらゆる黒魔法が行使できる)
白魔法の書(マナシの右手に持たれた書。あらゆる白魔法が行使できる)
長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)
(その他)
千年戦闘(神同士の決め手が無い故の膠着した戦いのこと。千年間膠着することからこの名がついた)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)
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