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2019年11月18日02:44

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八大龍王伝説 【617 大陸最終決戦(一) 〜決戦場ヘルテン・シュロス〜】


 八大龍王伝説


【617 大陸最終決戦(一) 〜決戦場ヘルテン・シュロス〜】


〔本編〕
 今回のスーコルプアーサー帝王救出に携わった軍は全て壊滅的なダメージを蒙り、末端の兵は言うに及ばず、指揮官級の兵もほとんどこの戦いで失われた。
 最初にスーコルプアーサー帝王救出に駆けつけたナゾレク地方軍、そしてバクラまでのスーコルプアーサー帝王救出に関わった元銀狼軍も同様であった。
 ナゾレク地方軍の司令官シェーレと元銀狼軍の司令官ドンクもその例外ではなく、戦死したのであろうというのが、当時の通説であった。
 なぜなら、その後のヴェルト連邦結成時、ステイリーフォン聖王を戴くソルトルムンク聖王国の将軍級(クラス)にその名前が見当たらないからである。
 聖王国は、当初は欠員も含め六人による六将制度を採用したが、結局、名称を冠するほどの大将軍級の人物に、六人も人材を揃えることがかなわず、結局以前の天時、地利、人和の三将軍制に戻したのであった。
 天時将軍がスルモン、地利将軍がエアフェーベン、人和将軍がノイヤールと、その後のヴェルト史に記されている。
 グラフ将軍は、年齢から将軍職を辞退した可能性もあるが、少なくともドンクが生存していて、連邦時代の草創期の聖王国三将軍に、名が入っていないのは考えにくい。
 そこから、ドンクの生死は定かではないが、限りなくこの戦いで命を失ったと考えるのが自然であろう。
 そこは、シェーレも同様で、三将軍には任じられなかったとしても、それ以外の文官を含む要職に名前が全く出てこないところから、ドンクと同様、おそらく戦死したのであろう。
 しかしながら、以前に語ったミケルクスド國王妹ユングフラとマークの時と同様、ドンク、シェーレが共に生きていて幸せな一生を送ったと信じて疑わない当時の人々は、二人に関して、いくつもの伝説を生みだしていくこととなる。
 これは、どの時代のどの世界においても同じような現象が起こっていることであろう。
そういう意味では、死因や没年月日がはっきりしている者より、むしろ生死不明の人物の方が、永く人々の心の中で生き続けるのかもしれない。


 さて、八大龍王が一人、第三龍王こと沙伽羅(シャカラ)龍王は、今、ヘルテン・シュロスの一つの城門の前に立っている。
 そばには、シャカラの相棒である小型龍(ドラゴネット)、白き小型龍、或いはヴァイスドラゴネットと呼ばれているカリウスが従っている。
 既にヴェルト大陸全域にわたり、シャカラの結界『白霧陣』が敷設されている状態ではあるが、唯一ヘルテン・シュロス内だけは、その結界の影響を受けていない。
 ザッドこと、第七童子セイタカの力によって、ヘルテン・シュロス内は、シャカラの白霧陣を拒む結界が既に張られているからであった。
「さすがに、ヘルテン・シュロス内にまでマスター(シャカラ)の白霧陣を敷くことは出来なかったか!」
 カリウスが自らのマスター、シャカラに話しかける。
「それは想定内だ。『陣地作成先敷の優位性』から、ヘルテン・シュロス内のセイタカの結界を無効化するほど、僕とセイタカの結界作成能力に大差があるとは考えられないから……。
 ここからの戦いは、まさしく僕とセイタカの正真正銘の一騎打ちだ! 僕がこの戦いでセイタカを倒せば、ヴェルトは、ヴェルトの民のもの。そして、僕が敗れれば、ヴェルトは闇の眷属のものとなる。
 いずれにせよ、全てが決まる最後の戦いということだ!!」
 シャカラは真剣な眼差しで、ヘルテン・シュロスの門を凝視した。

「それでも、後一歩でウバツラ龍王のリーダー格であるコンガラ童子を倒しかけたマスターの方が、今回の対決は分がいいのでは? 総合的な能力のコンガラより、魔法能力に特化したセイタカの方が格も落ちる。これは、マスターがここに到着した時点で、勝敗は決したと、私は思うが……」
「勝負は水物であるので、絶対に勝てるという保証はない。それに僕はコンガラより、今のセイタカの方がはるかに強敵であると考えている!」
 カリウスのやや楽観的な見解に対し、シャカラはむしろ悲観的であった。
「……いくつかの要素からそう考えている。コンガラは総合的な能力全てが高く、さらに時間を操る能力も有しており、完全無欠のように思えたが、実際には僕が勝負の上では勝った。
 実際の戦いにおいて、総合的に優れているからといって、総合的に劣っている者がそれに絶対に勝てないわけではない。戦いの流れによっては、ある能力が特化している者の方が、戦術パターンが絞り込まれるため、その一瞬間、総合的に優れている者を凌駕することがある。
 それが、実戦の中で、必ず一度や二度はそのような機会が訪れ、それによって逆転も可能になる。そういう意味では、僕の極芸とセイタカの魔法による戦いは、お互いの長所を封じ込め、自らの長所を生かす戦いに終始するため、僕の極芸も自ずと戦術パターンに制限がかかる。
 僕の極芸は、総合的な能力者を相手にする方が、相性がいいかもしれない。実際に、第一龍王ナンダとの戦いで、僕は敗れた」
「……」
「それにセイタカにあって、コンガラにはなかった要素がある! カリウス! それは、分かるな!」
「……マスターが、コンガラの致命的な弱点と呼んでいた『戦闘経験』のことか?」
「その通りだ。セイタカは、ザッドとして色々な経験を地上界で積んだ。時に、それは政策としては失敗したかもしれないが、失敗を経験したということは、それを経験していない者よりはるかに手強い。
 さらに、セイタカは魔族の身体を得ている。基本、魔法での戦いを主に展開させると思うが、その魔族の身体がどのくらいの膂力を有し、どのくらいの身体能力を持ち、それ以外にどのような能力を有しているか、僕は全く知らない。
 セイタカの魔法能力にしても、第七龍王マナシに匹敵するであろうという知識だけで、実際には分からない。とにかく、セイタカの能力と魔族の身体能力がいかほどかは別として、それを僕が全く知らないというのが、大きなハンディキャップだ!
 それに対して、セイタカはザッドの時から、僕とナンダやバツナンダとの戦いを何らかの形で見て、把握しており、そこから僕の能力を割り出しているはずだ! 最後に、今回の僕の戦いは、白霧陣を拒んでいる、相手の結界内で戦うわけだ。僕がやや悲観的になっているのも理解できるはず……」
「確かに、今の理屈では、かなり苦戦しそうだな! ……それでもマスターには勝算があるから、ここにいるのだろう?」
 カリウスのこの言葉に、シャカラがにっこり笑って応じる。
「当然だ! 僕は究極の芸を扱う技巧の闘神! どのような敵にも打ち勝つことができる可能性を持つ究極神なのだから……」


〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王とその継承神の総称)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(八大童子名)
 制多迦(セイタカ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第七童子)
 矜羯羅(コンガラ)童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)

(神名・人名等)
 エアフェーベン(ソルトルムンク聖王国の地利将軍)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えている白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の元将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 スーコルプアーサー帝王(ゴンク帝國の帝王)
 ステイリーフォン聖王(ソルトルムンク聖王国第五十代聖王)
 スルモン(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)
 ドンク(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人。元ソルトルムンク聖皇国の銀狼将軍)
 ノイヤール(ソルトルムンク聖王国の人和将軍)
 マーク(ユングフラの付き人。元ソルトルムンク聖王国の民)
 ユングフラ(ラムシェル王の妹。当代三佳人の一人。姫将軍の異名をもつ)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)

(地名)
 バクラ(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある町)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城。別名『堅き城』)

(竜名)
 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)

(その他)
 銀狼軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。ドンクが将軍)
 三将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部。天時将軍、地利将軍、人和将軍の三人)
 陣地作成先敷の優位性(同程度の能力の陣地(結界)であれば、先に敷いた方の能力が優先されるという法則)
ナゾレク地方軍(シェーレが率いる軍。シェーレがナゾレク地方の領主だったことからそう呼ばれる)
 白霧陣(シャカラの固有結界。結界内では、霊に物理的干渉が可能になる)
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