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2019年10月20日13:17

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八大龍王伝説 【613 ステイリーフォン聖王陛下】


 八大龍王伝説


【613 ステイリーフォン聖王陛下】


〔本編〕
「今、ジュルリフォン聖皇陛下から、聖皇の座を退き、聖皇国を解体する旨の宣言があった! これで、ヴェルト大戦における我々の相手方である聖皇国が消滅し、大戦そのものが終結したことになる。ここで、ジュルリフォン様の双子の弟あたられるステイリーフォン聖王陛下から、お言葉を賜る」
 これは、ラムシェル王の言の葉である。
 シャカラが地上界に戻った以上、ラムシェルは、裏方の司会の役割に徹するつもりなのであろう。

「朕は、本日、ソルトルムンク聖王国第五十代聖王に就任したステイリーフォンである!」
 ステイリーフォン聖王の言の葉がヴェルトの地に響き渡る。
「本日、聖王国とバルナート帝國の国境の地、バクラにおいて、聖王戴冠の儀式を滞りなくすませ、晴れて聖王に就任した!」
 このステイリーフォン聖王の言の葉に続き、別の言の葉が響く。
「その戴冠の儀において、バルナート帝國が今まで所有していた本物の三種の神器が使用されたことを、余――バルナート帝國帝王ネグロハルトが証明する。そして、戴冠の儀開始にあたり、三種の神器をバルナート帝國からソルトルムンク聖王国に返還したことも、ここに報告する!」
 ネグロハルト帝王の言の葉に続き、さらに別の者の言の葉が続く。
「三種の神器と同様の重要事項にあたる戴冠の儀における守護神の立ち合いについてであるが、第八龍王ウバツラと同じ八大龍王の第三龍王ことシャカラが、便宜的ではあるが、今回の緊急性を鑑み、守護神として戴冠の儀に立ち合った。
 これで正式な聖王戴冠の儀の二つの条件は整えられたということで、ステイリーフォン聖王陛下の就任は正式なものとして成立した。
 厳密に言えばウバツラ龍王の立ち合いにはなるが、先ほど、ウバツラ龍王の別神格であられる第三童子清浄比丘殿の説明のとおり、現在のウバツラ龍王にその資格はないと考えてよいと、私は思う。そして、便宜的な立ち合いをした私――シャカラ龍王の立ち合いについて、第三童子清浄比丘殿も容認された。
 ショウジョウビク殿はウバツラ龍王の別神格のお一人であり、厳密にはウバツラ龍王本人ではないが、今の闇の眷属に与しているウバツラ本人より、むしろウバツラの位置づけとしては適任と思われる方である。
 そのお方から立ち合いの容認をいただいたのであるから、この聖王戴冠の儀は、正式なものであるといって差し支えない。少なくとも、この私、シャカラはそう思っている!」
「シャカラ殿と同様、私――ショウジョウビクも今回の戴冠の儀は正式なものと認める!」
 シャカラに続き、ショウジョウビクも言の葉を発した。
 ヴェルトに深く関わる二人の神が、そろって今回の聖王戴冠の儀を正式なものとして認めたのである。
 これを覆せるのは、ウバツラ本人だけであろう。
「ネグロハルト帝王、シャカラ龍王様、そしてショウジョウビク様の言の葉により、ステイリーフォン聖王陛下の就任が正式なものであることを皆、承知できたと思う。ステイリーフォン聖王陛下からさらなるお言葉を賜る!」
 司会役に徹したラムシェル王の言の葉であった。

「ヴェルトの皆様に、朕の考えを一つ語らせていただく!」
 ステイリーフォン聖王の言の葉が再びヴェルトの地に響く。
 人一倍人柄の優しいステイリーフォン聖王は、聖王となっても、柔らかな言の葉で、民衆に語りかける。
「朕の双子の兄にあたるジュルリフォンは、先ほどの清浄比丘様の告白から分かる通り、今から二十年以上前に身罷(みまか)られている。その身罷られた兄は、当然、朕の肉親の兄にあたるが、朕にはもう一人兄がいる!」
 数分の沈黙の後、ステイリーフォン聖王が再び語りだした。
「それは、ソルトルムンク聖王国第四十九代聖王であられたジュルリフォン聖王陛下! さきほど、自らを清浄比丘と名乗られたお方である!」
 このステイリーフォン聖王の言の葉には、それを聞いているヴェルトの民の中にも、少なからず動揺する者もいたはずである。
 偽って兄に成りすまし、時には偽皇国と正当王国という形で、お互いに敵対する関係となっていた偽ジュルリフォンこと清浄比丘を、ステイリーフォン聖王は、もう一人の兄であると述べたのであるから……。
「兄と偽っていたという点については、確かに朕の気持ちの上でもあまり良いものでないのは確かである。しかし、清浄比丘様は、兄の死によって、二十年前の聖王国が混乱することを憂い、ザッドの指示によるとはいえ、兄を演じたのである。
 そして、清浄比丘様が兄を演じたことにより、本物の兄の遺体は、弟である朕ということになった。本来であれば、生き残った朕は極めて生命が危険な状態であったわけであるが、ショウジョウビク様は、朕を影武者という役割にすることにより、生存することを許された。仮にザッドだけであれば、朕の命は、本物の兄の死後、一年となかったであろう。
 それから、ショウジョウビク様は、ウバツラが闇の眷属であるという事実を知らないまま、ザッドの方針に従い、ジュルリフォン聖王子、そして聖王を演じてこられたが、それでも時にザッドの専横を抑える役割も担われた。
 ショウジョウビク様は、純粋に戦いのない世界を目指し、大陸を一国のまとめようと邁進されたわけである。実際に、ザッドが聖皇の元を離れ別々になってからは、ショウジョウビク様は、ダードムス殿などの優秀で信義に厚い人物に政治運営を任せるなど、仁政を施された。
 そしてシャカラ様から、ウバツラが闇の眷属であるという事実を聞かされるや、すぐに自らの非を悟り、自身の正体を明かされ、即、聖皇国を解体し、聖王国へ一本化しようと働かれた。さらに、ザッドとは関係のない大半の聖皇国の民や兵の存続と身分の保障を、朕に求められたのである。
 このようなショウジョウビク様を、朕は本物の兄と同様に慕っている。ショウジョウビク様は、朕にとっては肉親の故ジュルリフォン聖王子と同じ敬愛する兄である!
 故に、ここに本物の三種の神器があり、儀式に立ち合いできる神であられるシャカラ様がいらっしゃるという幸いから、遡る形となるが、ジュルリフォン聖王陛下の戴冠の儀を行うことを皆に了承していただきたい! 龍王暦一〇五〇年一〇月の即位を正式なものということで、ジュルリフォン聖王陛下を正史の上で、第四十九代聖王と記す朕の要望を皆に承認していただきたい! 朕が最初の言葉で、自らを第五十代聖王と称したのはそういう気持ちの表れからである!」
 ステイリーフォン聖王の心優しさが、この言の葉からヴェルトの民にひしひしと伝わった。
 そしてこれは、人が持つ他を許し合えるという『優しさ』という名の強さであり、今からヴェルトの民が一丸となって死人の軍勢と戦うにあたり、単純な物理的な強さの死人の軍勢に対抗しうる、大いなる武器となるであろう。



〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(八大童子名)
 清浄比丘(ショウジョウビク)(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第三童子)

(神名・人名等)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)
 ジュルリフォン聖王子(龍王暦一〇四〇年の舟遊びで亡くなった聖王子)
 ステイリーフォン聖王(ソルトルムンク聖王国第五十代聖王)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(正統ソルトルムンク聖王国のこと)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 正統王国(正統ソルトルムンク聖王国のこと)
 偽皇国(ソルトルムンク聖皇国のこと)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)
 バクラ(ソルトルムンク聖皇国とバルナート帝國の国境にある町)

(その他)
 三種の神器(ソルトルムンク聖王国の聖王の証。「聖王の冠(ケーニヒ・クローネ)」、「聖王の杖(ケーニヒ・シュトック)」、「聖王の剣(ケーニヒ・シュヴェーアト)」の三つの宝物)
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